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仕事というアイデンティティ

かつて私はワーカーホリックと言われていた。
仕事が好きだったのかどうかわからない。
むしろ、自転車を漕いでいるような、足を止めると失速して倒れて、そのまま動けなくなってしまうような危機感がそうさせていた。30代後半になると、このままじゃマズイと思い、婚活らしきものもしてみた。いい人が見つかったら、さっさと仕事を辞めてしまおうと思っていた。

それでも結婚せずに働き続けたのは、仕事以上に興味を持てなかったからかもしれない。
選んだ仕事がまずかったのか……。
結婚と出産を希望していたら、海外業務が年間半年もある業種は選んではいけなかったのだろう。

「コンサルタントと乞食は一度始めたらやめられない」と揶揄する先輩がいた。刺激的で発見が多く、トラブル続きで苦労も多いが、ある意味、麻薬というか、中毒というか、充実感を味わえる面白い仕事だったと思う。裨益者に喜んでもらえることが、全ての苦労を忘れてしまえるくらいのご褒美だった。

数年前に、母の高齢化で海外業務から足をあらうことにした。
夫や子供は作らなかったが、母はいる。
家族と仕事の両立は難しいと判断した。

海外業務から退くと、丘に上がった魚みたいに、アイデンティティを失って呼吸が苦しい。
仕事なんていくらでもあるし、人手不足の時代だから、選り好みしなければ何でもできるのだと頭では理解している
でも、人間は自尊心の生物で、海外業務最前線のキャリアが邪魔して、その自尊心を保ったままできる仕事はなかなか見つからない。
私に限らず、今、国際協力の業務は止まっている。コロナ禍で、思いもよらない状況になってしまった。仕方ないとあきらめるしかないが、打撃は大きい。

どんな仕事でも、割り切って仕事をすればいい。
お金を稼ぐとはそういうことだ。
そう自分に言い聞かせる。
実際、私はコピー取りでも食器洗いでもニコニコしながら何でもする。海外業務でも雑用は嫌いではなかったからどんな仕事でもへっちゃらだと思ってきた。でも、メインになるコンサルタントの業務がなくて、ただ雑用と呼ばれる補助的業務だけやっているのは、結構精神的につらい。創造性を発揮できない状況が続くと、辛さが増してくる。専門的な仕事をしている合間に、「あ、そこ掃除しますよ」と厚意でサービスするのと、「ここも拭いてください」と指示されるのは違うのだと、今更ながら思い知らされる。

この自尊心、邪魔!

もう海外には行けないよ。
でも私は国際開発コンサルタントなんだ! と叫んでいる。

数だけで観れば、人材は別の場所に移行すれば済むことだろう。政府はそう考えている。
でも、キャリアを捨てて別の仕事をするのって、精神的にはそんなに簡単なことではない。
定年退職した高齢者たちや、失業した人々の転職は、機械の配置換えとは違うのだ。
そして、多くのクリエーターが、その作品だけで食べていけない場合、バイトや生業で稼いでいる。心の中で「僕はミュージシャンだ」とか「私はイラストレーターなのに」とか、思いながらも、歯を食いしばって接客したりしているんだろう。

心のスイッチを上手に使おう。
生業も大切にしつつ、自尊心を保てるような創作活動が続けられればきっと救われる。
NOTEは、そんなクリエーターの自尊心とアイデンティティの再確認のために活用できるのかもしれない。

*写真は自分で撮影したものです
*小説、絶賛発売中です


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