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          気まぐれな起承転結

8
「好奇心」で、人は進化できるのか? 勉強中に巡らされた頭の中から、新たな出会いが待つ。 私も、この小説の結末を知ることはない。 ただ、私の気まぐれについてきてくれる読者を待って…
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#8

街灯が明るく、私はその明るさを頼りに進もうと決意した。

Aしか見えていなかったわけではない。
Aの細い背中を見ていると、本当にちゃんとご飯を食べているのかと聞きたくなる。

しかし、初対面でその質問をするのはかなり斬新なイメージを持たれるかもしれない。

そんなことを考えているうちに、2つ目の通りに繰り出してきた。

すると、Aはまるで初めて物を見たかのような顔で、整理券を差し出してきた。

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#6

そういや、私も今日は朝ご飯を食べずに学校に駆けて来た。

ラッキー。
ハンバーガーを一緒に食べよう。

何がラッキーなのか分からないのだが、直感的に見知らぬAと同じ境遇にある私の間には壁がないように見えた。

Aもどうやら私と話したいらしい。
気付けば、教室には誰もいない。

何時だろう…と思い、腕時計を見ると数字盤が綺麗さっぱりに消えている。
少し寂しそうな秒針だけが、私の世界を

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#7

どれほど時間が経ったのかも分からないのが不思議だ。

辺りには月夜で照らされた植物が生い茂っている。
時折、月が雲に隠れ夜が長くなっているのが見て取れる。

放課後の学校よりも、もっとドキドキ感のある雰囲気の中でAと私はハンバーガーを食べに行こうと話し合っている。

空腹に脳を支配されながら、どんどん進んでいくAに、私はついていくのが精一杯だった。

コツコツコツコツ…
2人の足音が、静か

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気まぐれな起承転結(小説)

#5

「細い棒が、あまりにもストローに似ていたから羨ましかったんだ。」

私が何を言おうか考えていた時に限って、
Aは口を開いて、訳も分からないことを言い出す。

「あるじゃん。宿題が終わって安心しているのに、どこか終わってないような…まだ勉強しないといけないような感覚になるとき。」

私は精一杯の頭の回転力を使って、今置かれている状況を整理する。

私があまりにも授業に集中しない

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気まぐれな起承転結(小説)

#4

前例は、後から価値がつけられるもの。

初めて飛び込んだ世界の当たり前は、私が住んでいる世界にとっての特別なのかもしれない。

新しい物に出会うとき、かなりのショックを受ける。

Aは、セール商品を見るような眼差しで私をじろじろと見る。

「どうして、そのケースに入っていた細長い棒が吸い込まれていったのか、知りたい?」

不自然な言い方をするものだ。
細長い棒ってなんだよ。

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気まぐれな起承転結(小説)

#1
1日。24時間。1440分。86400秒。

単位さえ見なければ、数の持つ大きさに目が回る。

地球のみに通用する時間の流れ。

深呼吸をして、両目をピタッと閉じた時に想像を膨らませてみると
見えもしない光の世界に吸い込まれそうになる。

吸い込まれたい。勉強は、今の自分には不向きなのだ。

ぜひ自分の意思で吸い込まれよう。
いや、そんな軽い気持ちを切り替えなきゃ。

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気まぐれな起承転結(小説)

#2
その声があまりにも大きく、私の眠気は床に転がったように情けないものへと変わった。

転がっていったのは眠気だけではなく、誕生日に買ってもらったシャーペン、筆箱の中身にスッと馴染むハサミ…

意識を取り戻したように下へ下へと吸い込まれていく文房具たちを見るのは初めてだった。

それを私は、虚しい気持ちで見ていたのではない。むしろ、この文房具を使う意味について考えが巡るようになってい

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気まぐれな起承転結(小説)

#3
人間は、好奇心で進化したのだ。

語るのは、
この世界に来る前に読んでいた新聞記事。

新聞をめくる乾いた音や、包装用紙のような香り、そして、縁の小さなギザギザがめくる手を擽ぐらせる感覚。

私以外「文字」という概念を知らない世界に紛れ込んでしまった。

まるで新しい言葉が辞書に入ってくるように、その言葉に対して知ろうという好奇心が向けられない限りは、誰も信じてくれない。

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