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映画「インセプション」の感想

※ネタバレあります

公開から13年目というタイミングで初めてクリストファー・ノーランの「インセプション」を見ました。公開当時すごくヒットしてたのを覚えてますが、うちはそのころ子どもが乳児だったので、わたしは映画鑑賞とは無縁の生活を送ってました。

それで今月やっと見たんですが、本当にすごくいい映画でした。最初から最後までずっと引き込まれました。もちろん、設定、しかけ、空間が捻じ曲がる映像の迫力などもすごかったんですけど、わたしが強く魅かれたところは人間の感情の描写です。いっぱいあるんですけど、以下、5点に集約して書いていきます。


好きポイント① 夫婦の描き方

主人公コブには愛する妻モルがいました。コブはモルを純粋に愛してたし、大切にしてたと思います。でも、コブがモルを「幸せな夢」に誘い入れ、それが50年にも及んでしまった結果、モルは現実と夢が頭の中でごっちゃごちゃになってしまい、苦しみ、自ら命を絶ってしまいます。

「夢に誘い入れ50年」というフレーズだけ見れば、映画だからね、作り話だからねってことで片づけてしまいそうになりますが、実は、同じことは映画の世界じゃなくても、現実のこの世界でも起きます!! わたし自身がそれを経験しました。って言っても、まあ、もちろん比喩なんですけど。コブとモルの間に起こった感情のすれ違いは、程度の差こそあるでしょうけど、現実の世界の夫婦にも十分起こり得ると思います。というより、もうこれは結婚の本質そのものを描いていると思いました。

お互いの事をこんなに愛してるのに…とかそういう気持ちの問題じゃなくて、というか、むしろちゃんと愛してることは前提で、その上でもなお、このモルのような混乱は、結婚というものの構造の問題として起こりますよ。まじで。

女性は結婚すると一気に人生が多面的になります。いろんな役割がふえます。偏見承知で言うと、男性側よりは断然女性側に変化が大きくのしかかります。そして、妻がどれだけの大きさの変化まで耐えらえて、どこからは無理なのかを完全に理解している夫というのは少ないと思います。そもそも、妻がどれくらいの変化を強いられているかをわかってない人もいると思います。劇中でエレベーターに乗っていろんな夢を行き来するシーンがありましたが、結婚した女性の人生って終始あんなふうだなと思いました。ひとつの役割から別の役割に移るときって、本当に夢から覚めるみたいな感じです。

好きポイント② 父子の描き方

巨大企業の創始者モーリスとその息子ロバートがターゲットとして出てきました。この父子には確執があり、そこに付け入ることにしたインセプションチームでした。

映画の後半、ロバートは、父親が自分だけに宛てて残した特別な遺言が入っているという金庫を開けに行きます。実際にはそんな金庫も遺書もなくて、インセプションチームによって信じ込まされてるだけなんですけど、それを取りに行きます。

このときのためにインセプションチームが用意した世界は、人里離れた極寒の山奥の岩肌に要塞のように建てられた巨大病院と、そこに百戦錬磨の軍人のようなガードマンが何十人も配備されている状況でした。ロバートは、この戦場のような危険な道のりを自力で切り抜けて金庫までたどりつかねばなりません。

これを見て、息子が父に立ち向かうという事の要素というか成分だけを抽出して視覚的に再現したらこんな感じなんだなあとつくづく思いました。これは、大企業の相続話だからじゃなくて、ごく普通の家庭でもこうなんじゃないかと思います。世間では嫁姑問題とかよくありますけど、実の父と実の息子の関係も割とややこしい場合が多いなと思います。これに関しては①と逆で、女のわたしにはわかりにくいですけど、見てる感じ、そう思います。たいていはうまくすみ分けたり、ほどよい距離感でやり過ごしてますけど。

しかも、このシーンが興味深かったのは、ロバートが金庫に辿り着くまでに一度死んでしまったことです。これはインセプションチームにも想定外のことでしたが、このエピソードは親子の対峙がそう生半可なものではないことを表す結果になったと思います。さらに、それでも仲間(と信じ込まされてるだけですけど仲間といえば仲間)の助けを借りて、最終的には目的を達成することができたのはよかったです。

好きポイント③ インセプションの方法

インセプションチームの最終目的は、父親である先代とは違う経営方針をロバートに決心させることでした。それさえ果たせればその過程はどうだっていいわけなので、もしインセプションチームが悪い人たちだったら非人道的なやり方だってあったのだと思います。でも彼らが選んだ方法はものすごく人間らしいものでした。そして、何よりも効果的な方法だと思いました。人の生き方の理想と言ってもいいくらいかもしれません。

まあ、やってることはスパイ業…つまり詐欺みたいなもんだし、けっこう危険な状況に追い込んだりもするんでアレなんですが、方法に関しては人間としての温かみさえ感じました。

好きポイント④ チームワーク

これはもう、このまんまです。コブ、アーサー、イームズ、アリアドネ、ユスフ、サイトーがそれぞれの力を発揮し合ってピンチを乗り換えるところが好きです。何よりお互いを信頼しているところがいいです。

飛行機で目覚めたときと飛行機から降りたあと、一貫して他人のフリして散らばっていくメンバーたち。かっこよかったです。

好きポイント⑤ 結末

最後まで見終わって、すぐに「ああ、ハッピーエンドだ!よかった」と思いました。しかし、その後しばらくネットで拾い読みしてたら、ハッピーエンドかどうかが視聴者にゆだねられたラスト…みたいな考察をたくさん見かけました。その理由は言われてみればそうだなというものでしたが、わたしはもう直感的に、あのラストシーンでコブは確実に前に進めたと思ったので、ハッピーエンド一択です。

☆☆☆☆☆

以上、13年越しでやっとみた映画インセプションの好きな部分を書き出しました。

お読みいただきありがとうございました。

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