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宮島ハ晴天ナリ 初めてのひとりぶらり旅①

「この飛行機は間も無く広島空港へと着陸いたします。皆さまシートベルトを…」

客室乗務員がアナウンスし、飛行機は旋回するとガタガタと揺れた。
何回乗っても、離着陸時には手を強く握りしめてしまう。

「今日は揺れない方だよ。いつもはもう少し揺れるから、今日のパイロットは着陸が上手だよ!」

後ろの席でカップルの女性が、そんな話しを彼氏であろう人にしていた。

〝そういうものなのか。
生まれた故郷でデートをするのかな〟

手を強く握りしめながらそう思っていた。


わたしは生まれて初めて広島に降り立つ。

そして、本格的な一人旅も初めてだ。
一泊2日、どれだけひとりを楽しめるのか自分に期待をしていた。


行きたい場所の定めはついていた。

•宮島
•大久野島
•原爆ドーム

牡蠣とお好み焼きとあなご飯と揚げ紅葉は絶対に食べるのだ!!!

事前に携帯で調べた広島観光情報が、ちょっとだけ頭に入っている。
旅のしおりでも作ろうかと思ったけれど、仕事を言い訳に作らなかった。

ひとり旅での1番の心配毎は、方向音痴であることと鉄道関係に疎いことだ。


けれどその苦手は「まぁ道に迷っても、どうにかなるだろう。」という考えでカバーする。

そんなマイペース主義は、広島空港に降り立ちバスに乗る最後の最後まで、どこに行くかを決めかねていた。

宮島からの原爆ドームコースか、大久野島でうさぎと戯れるのか。

時間は午前11時30分。

〝うーむ〟

ネットより、うさぎは薄明薄暮性で夜間や日中に休むという情報を手に入れた。

ならば白昼堂々とうさぎに密会を求めても、逢いには来てくれないかも知れない。勝手に諦め、それ以上調べることをやめた。

〝1日目は宮島に行こう〟

広島駅まではリムジンバスで向かう。案内板が見やすく、すぐにバスに乗車することが出来た。切符を買わなくても交通系マネーで支払いは完了する。

空港から広島駅までは1時間とちょっと。
車窓から見る景色は木々の葉が青々と茂り、気がつけば口を開けて眠っていた。

間抜けな自分の顔が窓ガラスに映り、びっくりしてシャンとした。


広島駅に着く。目的地である宮島への交通手段はタクシー、JR、広島電鉄と複数あり、わたしは30分で行けるJRを選んだ。

危うく違う電車に乗り違えそうになったが「これじゃない!」と勘が働き、向こう側のホームにある宮島口行きの電車へ飛び込んだ。

あとは着くのを待つだけだ。さっきの間抜けな居眠りのおかげで目は冴えている。

乗車から約30分。

宮島口の改札を抜けて外に出ると、フェリー乗り場までの地下道がある。辺りは外国人ばかりで、まるで異国の地に来たようだ。
今日はわたしはひとりなのだ。
少しだけ不安を覚えると、羽田空港からの飛行機と、広島空港からのリムジンバスで一緒の便に乗っていた若い女性がフェリー乗り場を目掛けて歩いている。

〝あっ!あの子だ!同じく1人旅なのかな〟

乗り場に着くと待つことも無く、フェリーに乗ることができた。ここでも交通系マネーが使える。

JRの船🚢



10分程の船旅は、わたしの心を解放した。

〝あれが噂の鳥居だ!!〟

島に降り立った時は既に13時30分を回り、お腹が空いて仕方がなかったが、どうしても鳥居だけは始めに見ておきたかった。その道中でめぼしい店を探しながら。
それに満腹になった後に鳥居の前に現れるのも、なんだか神様に申し訳ない気もした。


日差しが肌を照り付け、日焼け止めを塗った。

鳥居まではあともう少し。


右に見える砂浜には波が打ち寄せ、海がキラキラと光っている。左側では牡蠣が焼かれ、あなご飯のお重箱に、もみじ饅頭、ソフトクリームと色とりどりの食べ物がわたしを誘った。

そして鹿が木陰で休んでいる。可愛いくて顔がほころんだ。
今日初めて笑ったかもしれない。

〝ひとりってこういう感じなんだ〟

ひとりは好きだ。でもそれは普段はあまり1人になる時間が少ないからなのだろう。



鳥居に近づくには浜辺へ降りて歩く必要がある。ザクザク砂を踏みつけて、鳥居の側まで行った。

〝わぁ!とうとう雑誌やテレビで見ていた、この場所に来ちゃったんだ!〟

鳥居は大きくて立派だ。とても美しい。
人の群れを潜って、沢山の写真を撮った。こんなに近くまで来れるなんて夢みたいだ。



気が済むと、一気に空腹感が増した。

〝もうだめだ、倒れそう〟

店は色々探してはみたけれど、どこもかしこも並んでいたし、「あなご飯完売」の文字もチラホラ目に入った。


悩んだ挙句に入った店は牡蠣専門店だ。
焼き牡蠣、牡蠣ポン酢、牡蠣酢、カキフライのみのメニュー。

わたしは猛烈にお腹が空いている。どのくらいの量の牡蠣がやってくるかも聞かずに、

「生ビールと、焼き牡蠣、牡蠣ポン酢をくださいっ!」

「あいよっ!」


注文してすぐにビールと牡蠣ポン酢が運ばれた。ビールは格別だったが、空腹の身体にはすぐにアルコールがまわった。

フライパンで炒めた牡蠣にポン酢!

更に焼き牡蠣も運ばれて、牡蠣に夢中になった。

牡蠣は爪楊枝で食す!

「おいしい…。」

牡蠣は大好物だが、ここまで身の詰まった大きな牡蠣を沢山食べたことはなかった。贅沢だ。本当に。

少しずつ空腹が満たされると、宮島で貰った島内の地図を広げた。
全ては周れないけれど、あと一カ所くらいは行けるだろう。

目を凝らして探し当てたのは大聖院だった。

〝大聖院 願い事をひとつだけ叶えてくれる一願大師!?これは行くしかないっ!!〟

最後の焼き牡蠣を頬張り、会計を済ませた。
まだ一皿食べたかったが、わたしは揚げもみじも食べるのだ。

「ご馳走さまでした!美味しかったです!」
「ありがとう、お忘れ物ないように!」


地図を見ながら大聖院へ向かう。

方向音痴にとって地図は無意味な時が大半だ。何度も地図の向きを変え、来た道を戻り、結構険しい坂道を進んだ。

どもども!



〝あった!!〟



方向音痴にとって、目的地に辿り着ける感動たるや、方向音痴であって良かったと思える唯一のメリットである。

中では丸っこい愛嬌のあるお地蔵様が何体も目に入る。可愛いくてまた顔がほころんだ。

五百羅漢庭園も圧巻だった。本当に500体あるらしい。

先をまだまだ進んでいくと、目的地の一願大師様。

尊い

きっとここに辿り着くまでみんな断念してしまうか、一願大師の場所を間違えているのではないかという位に、辺りには人も少なく静まり返っていた。


〝わたしの願いを叶えてくれますか?〟

このひとつの願いが叶った時、またお礼参りに来れば、また新たな願いを叶えてくれるとのことだが、きっとわたしの願い事はわたしが命を全うした時に叶っているか否かがわかるものだから、違う願い事をすることはないだろう。

そう思ったら、その最期の日すらワクワクする。

〝ねぇ、その時のわたしは誰といるんだろう〟


そうこうしていると15時30分。

〝今日、原爆ドームまで周れる時間はあるのかな?〟

また鳥居の方に戻ると、さっきよりも鳥居の足が海に浸かり水が増えていた。

〝わぁ!こんな短時間で変わるんだ!〟


また写真に夢中になってしまった。



〝もう行かなくちゃ〟

鳥居との別れを惜しんで、広島駅に向かうことにした。何度も振り向き〝また来るね!〟と心の中で伝えた。

もっと居たかったが、わたしには移動しなければいけない最大の理由が出来た。


携帯電話の充電の残りが10%になったのだ。

わたしは財布と携帯さえ持てば、どこでも生きていけるだろうと考えている。

そのどちらかが戦力外になるなんて、きび団子を紛失したももたろう位のピンチだと思う。

あろうことか、充電器を自宅に忘れてきたみたいだ。それは鬼ヶ島に退治に行くと堰を切っていた桃太郎が、当日インフルエンザになるくらいショッキングなことだ。

それに加えてわたしは方向音痴なのだ。泊まる宿にだって辿り着けるのかわからない。
これは急ぐしかない。

乾電池式のモバイルバッテリーを購入すれば話しは早いのだが、わたしはそれを買ったら負けだと勝手に思い、10%で生きる道を模索したのだ。

1、まずは広島駅から程近いはずの宿泊先の位置をを把握すること。

2、現在キャンペーンで、ファミリーマートのモバイルバッテリーのレンタルが30分無料らしい。
借りて充電をしながら100均に向かい、充電器を購入すること。

ちゃんと準備をしない自分を恨んだが、いまは自分を責めている場合ではない。
一刻を争うのだから。

テケテケテケ、急げ急げ💨

わたしは電車に乗り、恐る恐る宿の場所が駅の南口にあるのか北口にあるのかを調べた。そして目印になる建物を頭にインプットした。


〝わたしの記憶力!頼むぞ!北口だぞ!銀行のそば!もう携帯は開けないんだから!〟


広島駅に着くと、宿のある北口を目指した。
北口を出て、右か左か。それとも…。


〝わたしときたら…ダメだ!全くわからない!一か八かで携帯にナビをお願いするしかない!〟

念じて携帯を操作した。
長年連れ添ったわたしの携帯は、バッテリーの減りが早くなっていたものの、この日はとても優秀だった。命からがら、宿まで連れて行ってくれたのだ。

〝ありがとう。今充電してあげるからね!〟

幸い近くにファミリーマートがあり、モバイルバッテリーを探した。


?!
QRコードを読み取らないといけないらしい。
〝こんな時に!読み取る力はあるのか?〟

携帯を読み取りモードにしたその時、相棒はお逝きになった。

合掌。

近くの電気屋で充電器一式を購入し、宿で充電することにした。その間に、原爆ドームやうさぎの島について調べよう。そういえば、揚げもみじを食べていなかったことにも気がついた。


わたしの携帯は息を吹き返したので、駅周辺を散策し晩餐の場を探しに外出した。時刻は19時過ぎ。もう原爆ドームに行く時間ではなかった。

〝広島焼きが食べたい〟


今日は広島カープが試合に勝ったみたいだ。
辺りは赤いユニフォームを着た人達で賑わっていた。お好み焼き屋を探すもどこも混んでいたし、カープファンの人たちが楽しそうに宴中だった。
そんな中独りでポツンと居るには気まずすぎる。わたしは野球のことは1ミリもわからないのだから。

探し回るとカウンター席しかないが、落ち着いた雰囲気のお好み焼き店を発見した。客も4人だった。赤いユニフォーム姿も見当たらなかったので入ることに決めた!!

「1人です。空いてますか?」

「どーぞー」と店主の女性。ひとりで切り盛りしてるみたいだ。

店内の客はみんな50代くらいだろう。女性2人組、女性1人、男性1人の客構成だった。
2人組の隣はひと席空いており、その隣に女性客と男性客が座っていた。

入るなり2人組の1人が「ここどうぞ、座りなさいよ!お腹すいたでしょう。」と空いている隣の椅子を叩いて声をかけてくれた。

しかし内心、

〝まじか。それは無理だ。奥の席にぽつんと座りたい…よしっ!断ろう〟

と思い、「あ!わたし奥で大丈夫です!」ニコッと奥のカウンター席に着き、メニュー表を見た。

〝そばがうどんにも変更可能なのか〟

独りで可哀想に見えたのかもしれない。

「こっちに来なさいって。目の前で焼いてくれるんだから!さぁさぁ!」とまた誘われた。

〝ダメだ、もう断り切れない。行くしかない〟



「良いんですか〜なんかすいません、お邪魔します。」と言って、小さくなった。

〝なんだこれ…〟



「何食べる?ちょっと時間はかかるかもしれないけど。」と2人組の1人のおばちゃんはわたしに言った。

「とりあえず、生をひとつ。」と伝えると、おばちゃんは「あぁ、ジョッキは無いのよ、瓶ビールしか!」と言った。

〝きっと常連さんなんだろう〟

すると男性客も「アサヒとキリンがあるよ、どっちにする?」とわたしに言った。
キリンを選ぶと、その男性客が冷蔵庫から瓶ビールを取り出し栓まであけてくれた。
「ありがとうございます!」
〝気の良い常連さんが多い店なんだな〟

わたしは豚玉牡蠣そば焼きを注文した。

少し時間は掛かったが、カウンターに飛び交う会話で待ち時間は短縮された。

訊けば2人組はカープファンで、東京から遠征してきたそうだ。もう1人の女性客もカープファンで聴覚障がいがある様子だった。男性は地元民のカープファンだった。


やっと出てきた広島焼き。
こんな美味しい広島焼きを食べたことがなく、ただただ夢中で食べた。おまつりの屋台でしか食べたことがなかった。コテの使い方や食べ方を店主に教わった。

イカ天が入ることで一層美味!
コテを極めたい!



晩餐が終盤を迎える頃には、世話好きなおばちゃんの常連客のような立ち振る舞いを〝この方の強みだなぁ〟と思えるようになった。
帰り際にも「じゃあねぇ!」と前から知ってるかのように振る舞うおばちゃんとの別れは、なんだか少し寂しくもあった。

「ありがとうございました!」

〝良い方だったな〟

もう1人の女性客も食べ終えると帰っていった。昼にも違う店で広島焼きを食べたそうだ。わたしも、また明日も食べたいなと思った。

静まり返った店内で、ただついているだけのテレビの音が響いた。

わたしは店主の女性と男性常連客に、うさぎの島についての情報や、交通手段を尋ねてみた。

「あぁ!大久野島ね!」

男性常連客は事細やかに島について教えてくれた。交通手段、スタンプラリーがあるが物凄い近距離でのラリーなこと。どこらへんにいるうさぎがよく餌に喰いつくか、昔島でキャンプをしたことなど。

〝誰かに似ているな〟


情報を漏らさずに聞きながら、それが誰なのかを考えた。


〝あっ、上司だ!〟

わたしの上司はひとつ質問をすれば、10くらい丁寧に教えてくれる。
いつも凄いなぁと思っているが、話し始めると止まらないのが難点だ。

その状況にとても似ていた。

他にも店主を交え、宮島の話し、キャベツの値段が高い話し、東京の広島焼きも最近は美味しい話し、そもそも広島焼きとはいわない話しも聞かせて下さった。ありがたかった。


丁重にお礼を伝え「明日行ってみますね!」とお別れをした。




宿に帰りシャワーを浴びて、寝床に入るとすぐに眠りについたみたいだ。

〝明日のことはまた明日考えよう〟

お得意の思考のままに。


いい日だった。ひとりは好きだがやっぱり人も好きだ。



                  つづく

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