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谷津矢車『絵ことば又兵衛』を読む

谷津矢車先生の『絵ことば又兵衛』(文藝春秋)読む。

「浮世絵の祖」といわれる江戸時代の絵師、岩佐又兵衛の一代記。

去年、東京都美術館で開かれた「奇想の系譜」展で、岩佐又兵衛の「山中常盤物語絵巻」を初めて生で見た。

「山中常盤」という復讐物語を題材にした、息を呑むような血みどろの凄惨な絵だ。

残虐な場面なのに、人物の表情や細部の描写があまりに魅力的で、目が勝手に吸い寄せられてしまう。

その絵を見て以来、岩佐又兵衛という人は、どんな心境でこの恐ろしい絵を描いたんだろうという疑問が、ずっと心に引っかかっていた。

小説では、又兵衛の心の闇の奥の奥まで描き込まれていて、リアルな人物描写にぐいぐい引き込まれる。

芸術に身を捧げるということはなんと幸福で、なんて業が深いんだろう。

街へスケッチに出かけた又兵衛が、偶然出会った長谷川等伯からかけられる一言が、圧巻。いったいどうやったら、こんな凄いセリフを書けるのか。

最後まで読み終えて、又兵衛がなぜ、あの凄惨な絵を描かなければならなかったのかという疑問に、ひとつの答えを見せてもらったような気がした。

ページをめくる手を止められないけれど、いつまでも小説の世界から出たくない。そんな幸福な読書の時間。


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