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美術館で旅する日本〜山種美術館『日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―』

美術館にいながら、日本各地の風景を巡る。

名画の舞台となった「聖地」を巡礼するという趣向の展覧会が、広尾の山種美術館で開かれています。

日本画に特化した層の厚いコレクションの中から、今回は速水御舟の『名樹散椿』(重要文化財)が出品されるほか、東山魁夷の連作「京洛四季」4点が一挙公開されると聞いて、開幕を楽しみにしていました。

会場では、北海道から沖縄まで、北から順に名画とその「聖地」の写真が展示されています。
日本にはまだ見たことのない美しい場所がたくさんあるのだと、目をひらかれるようです。

圧巻は、奥田 元宋の『奥入瀬(秋)』。
壁一面を覆う巨大なキャンバスに向き合うと、本当に紅葉を踏み分けて奥入瀬渓流にやってきたような感覚におそわれます。
色づいた葉っぱを浮かべて流れていく、川の音まで聴こえてきそう。

今回、初めて出会った絵画の中で印象的だったのは山口 華楊の『木精』。
北野天満宮の境内にそびえるケヤキの老木を描いた作品だそうです。
根っこの上にちょこんとたたずむミミズクがかわいらしい。
大好きな日本画が、またひとつ増えました。

そして東山魁夷の「京洛四季」。
「京都を描くのなら、今のうちですよ」という川端康成のすすめで、魁夷が京都の春夏秋冬を描いたという連作です。
『春静』『緑潤う』『秋彩』『年暮る』と題された4作品どれもそれぞれの魅力があり、いつまでもキャンバスの前にたたずんでいたくなります。
1枚ずつ観るのも素敵ですが、四季がすべてそろうと構図や色彩の違いがわかりやすく、お互いの魅力を引き立てあうような印象です。

古くから日本で使われてきた紙や絹に、自然由来の顔料で描かれた日本画は、やはり日本の光や風、水と相性がいいんだなあとしみじみ感じました。

展示室を出て、併設のC a f e 椿へ。
展覧会にちなんだオリジナルの和菓子をいただけるので、毎回楽しみにしています。

選べる5種類のお菓子の中から、今回は速水御舟『名樹散椿』にちなんだ「散椿」を。
花びらのひとひらずつ、黄色い花托までこまやかに表現されていて、食べるのがもったいないくらいです。

画家の眼差しを通して、日本各地を旅したような充実感とともに美術館を後にしました。
やっぱり日本画が、好き。

※トップ画像は奥村 土牛『山中湖富士』

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