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フリーターから社長、そしてさらに起業。 My Story 〜デザイン経営への道 vol.2

こんにちは。&D、Cotton’sの尾崎美穂です。「My Story 〜デザイン経営への道」では、私が実際に行なってきた「デザインを活用した経営改革」について綴っています。vol.2では、デザイン・イラストの会社コットンズの東京支社に入社直後、目の前にあった様々な問題についてお伝えします。
>>vol.1はこちら

人が辞め、社内がまとまらない「ばらばら」な状態。

今から8年ほど前。アートディレクターとして入った当時社員だった私には、この頃の売上がどうなっているかとか、数字的なことは一切わかりませんでした。だけど、なんだかおかしいと感じたのは、入社直後の頃。

東京支社には元々、イラスト兼デザインプロデューサーの若い女性社員2名と、デザイナー2名。そして契約している外部のアートディレクターが1名いました。
デザイナー2名といっても、ひとりは私が入社すると同時に、退社が決まっていて、1ヶ月ほどで辞めました。もうひとりは、半年ほど前から来ていない。あまり詮索するのも何なので、特に触れずにいましたが、それから1ヶ月ほどで、お会いすることなく退社が決まったようです。

残るは社員と外部の方の合わせて4名。私の率直な感想は、一言で言いますと社内がばらばら」ということです。こんなに少人数なのに、それぞれ何をやっているかがわかりません。

ひとりのプロデューサーは、元々大阪本社で勤め、東京支社に転勤して来ましたので、度々本社とコミュニケーションを取っている様子が、電話から伺えます。ですが、他の社員にその内容が降りてくることはありません。

もうひとりのプロデューサーは、入社して2年目くらいのSさん。彼女がプロデューサーであることを私が知ったのは、数ヶ月後です。それまでは、正直、何をしているのかよくわかりませんでした。

経営層や社員への徹底的なヒアリング。

新卒から入ったSさんの第一印象は、不思議な小動物のようでした(笑:Sさん、ごめん…)。ちょこちょこっと顔を出して、にこっと笑って、さっと出ていったり。言っていることがミラクルでかわいらしいのですけど、どこか情熱的で、強い想いや芯がある。
だけど、残念なことに、「情熱的で、強い想いや芯がある」という面は、当時の弊社では発揮できていない様子です。

そのSさんからたくさんの悩みを聞かせてもらいました。それがこちらです。

●今までいた社員は、会社に対する考えがあれども、誰にも届くことなく、最後には諦めのような気持ちで、入れ替わり立ち替わり辞めていった。
●イラストをやるぞ!と言われたそばから、やっぱりこれからはデザインだ!と言われるなど、めまぐるしく変わる会社の方針に右往左往してきた。
●社内でのコミュニケーションが希薄で、みんなで一緒にいる意味が感じられない。
●誰にも仕事のスキルを十分に教えてもらえないから、どうやって仕事をしていいかわからない。
●経営層が何を考えているのか、この会社がどこに向かっているのかわからないから、何をがんばればいいのかわからない。

今まで辞めていった人と同様に、彼女も会社に対する考えはあれども、それを経営層に届けられずにいたのでしょう。彼女がこの数年で感じてきたことは、不満のようにも見えますが、実はそうではないと私は考えます。

ただの不満だとしたら、他の人と同じように辞めるという選択肢だってあったはずですが、彼女はここにいます。辛い状況とは別に、何らかの会社に対する愛情や期待を持っていて、変わってほしいと強く願っているのです。

だけど、残念ながらその声は、このままでは誰にも届きません。そこで私は、経営層と話がしたいと思いました。大阪本社の創業者である当時社長に、入社数ヶ月の私がアポを取ります。創業者はそれをはねつけるでもなく、大いに受け入れてくれました。その気持ちに感謝して「社員の不満を代表して訴えかける」のではなく、創業者が抱える悩みなどを聞かせてもらいました。それがこちらです。

●東京支社は、創業当時から資本提携している会社に運営を任せていた経緯があるため、経営を他社に委ねるしかない。
●ひ孫請け案件がほとんどで、十分な売上や利益が得られない。
●東京支社の赤字が続いていて、いずれ本社の売上ではカバーしきれなくなる。
●社員が十分に力を発揮していない。思うように動かない。
●将来東京支社をどうしていいかわからない。

社員にも確かに悩みはありますが、経営層もそうです。共通することもあれば、経営者だからこその悩みも尽きません。

私は、二者の話を聞くことで、経営層と社員のどちらの考えにも、深く感情移入していくことになりました。

たったひとりの社員を私の判断基準に。

東京では相変わらず日々の仕事に追われながらも、Sさんとはランチや夕食を共にしながら、話を聞きます。彼女は日々、悩みで悶々としている訳ではありません。大きな理想があります。今の会社の気に入っていることも含め、もっとこうなったらいいのに、こうあってほしい、という夢のような世界も語ってくれます。

●みんながもっとコミュニケーションが取って、同じ空間で一緒にやっている意味を見出したい。
●今、協力していただいている多くのブレーン(イラストレーター)さんと、もっと信頼関係を構築したい。
●会社のことをもっと外に伝えて、やりがいのあるお仕事をして、お客さまにも認められたい。
●もっとスキルを蓄えたい。
●この会社に勤めている意義を感じたい。

会社のあり方や理想の姿は、その会社によって様々です。私は、このSさんの考える理想の会社に近づけることこそが、「コットンズらしさ」を体現するための最初の一歩なのではないかと直感的に思ったのです。

そこで「Sさんの想いが全部叶うように、私がこの会社を変えていこう」と考えました。

今思うと、入社数ヶ月の社員の私が、そんなことを考えるのは、何というかおこがましいような気もします。ですが、この会社が抱える根本的な問題を解決しない限り、会社の、そしてみんなの未来がないように感じました。会社に所属したからには、「自分はアートディレクターだから」とか「社員だから」と言っている場合ではありません。

創業者が抱える悩みと社員が抱える悩み、それを解決するには、将来的にどのようになりたいか、というゴールが必要です。そこには必ずギャップが生まれます。そのギャップこそが問題定義へと繋がります。

さらに、「人」を中心に据え、彼らが抱える本当の悩みや欲求に耳を傾けることで、うわべだけの会社都合によって生まれた課題ではなく、自分たちにとって最もふさわしい正しい課題が生まれるのです。

課題が出れば、具体的に今すべきこと、将来すべきこと、などが見えてきます。次回は、課題を出すまでの過程についてお伝えしたいと思います。


こういった考え方は、当時の私は全く認識していませんでしたが、いわゆる「デザイン思考」です。デザイン思考は、イノベーションを起こすなどの効果がうたわれていますが、それだけではありません。社内外で起こる様々な問題解決へと導く力もあります。

そのような「デザイン思考」や「会社環境を整える」と言った内容も、2020年秋に刊行予定の拙著にも掲載しています。

>>書籍の一部内容はこちらから

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