スピンオフ小説「1/3の失恋」-最終回
第 15 章
6月下旬になって、いよいよ来月実施される林間学校に向けての準備が本格化してきたよ。
今日は各クラス一斉に、班編成会議をやってる日なの。
だから部活に来る3年生もちょっと少ないかなと思ったけど、女子は殆ど来てるから、どのクラスも班長に立候補した女子は少なそうね。
アタシ、山神恵子は、3組なの。
吹奏楽部の顧問のY先生の独り言によると、本当はアタシもミエハルくんやTちゃんと一緒の1組にしたかったみたいなんだけど、担任の先生の会議での優先順番があって、どうやらアタシは3組の担任のK先生に指名されたみたいなのね。
でもK先生が本当にアタシを欲しがったのかな…?
そんなことはもう誰に聞いても分からないし、知らないって言われるだろうから何も言わないけど。
さて吹奏楽部の部長、ミエハルくんは、どうやら班長に立候補したみたいで、今日の部活に来たのはもう終わりそうな頃だったよ。
「ミエハル部長、遅刻~」
って、後輩にからかわれてたけど、ちょっと寝坊しちゃってね~とか、わざと的外れな答えを返して、真正面から班長会議があったから仕方ないだろ!とか言わず、その場の雰囲気を楽しくするところが、ミエハルくんの良い所なんだよね。
そんな時に、練習しながらTちゃんが聞いてきたの。
「ねぇねぇ、ケイちゃんは林間学校で誰か同じ班になりたい男の子とか、クラスにいる?」
「えっ?アタシは…特にいないかなぁ」
悪いけど、3組にはアタシがときめくような男子はいないの。アタシは1組が羨ましいの。
「そっか、まだN先輩と続いてるもんね」
アタシは本音ではN先輩とはすぐにでも別れたいし、今一番告白したいのは3組の男子じゃなくて1組のミエハルくんなんだよって、心の中でTちゃんに語り掛けた。
「そういうTちゃんは、誰か気になる男の子はいるの?」
アタシはつい逆襲しちゃった。
「う、うん…。あのね、秘密の話だけど、ミエハルくんがアタシを同じ班にしてくれないかなって思ってるの」
やっぱりね。ミエハルくん、人気あるなぁ。後輩の女子も気軽にミエハルくんに話し掛けてるし。
その割に本人は鈍感なのか、バレンタインデーにチョコを義理ですら1個ももらえなかったことを今でも引き摺ってるけど。
その班編成は、どのクラスも明日の朝、発表されるんだって。
アタシはどうなることやら?
特に3組には気になる男の子もいないけど。
それでもなんか気になって、あまり寝付けないまま次の日登校したら、朝の学活で林間学校の班編成が発表されたの。
6人の各班長が前に出て、班員を発表するんだけど、アタシの3組の班長は男子が5人、女子が1人だったよ。
女子で班長に立候補した子は、アウトドア系が好きそうな女の子で、勿論体育も得意な子だから、適役だね~なんて思っちゃった。
アタシは特に可もなく不可もない、Wくんの班に入ってた。
でも何か意味があるのかなどうなのかな?
1組ではどんな班になってるのかな、ミエハルくんは班長として、Tちゃんを選んだのかな、って、他のクラスのことを気にしちゃうよ~。
「はい、じゃあ班編成とおりに、机を移動させて下さいね」
K先生がそう言ってみんなが机を動かし始めたら、ほぼ同時に他のクラスの机も動かしてる音が聞こえてきたから、どのクラスも同じような進み具合なんだろうね。
その日の部活に出たら、Tちゃんが昨日よりも嬉しそうな顔してた。それだけでアタシはもう分かっちゃったけど、一応聞いてみた。
「Tちゃん、1組の班編成はどんな感じ?」
「アタシ、ミエハルくんが班長の班に入ってたの♪」
「良かったね!これからは余計にミエハルくんのこと、意識しちゃうんじゃない?」
「…ウン」
Tちゃんが珍しく顔を赤らめて、そう答えた。
アタシは良かったね、Tちゃん!っていう思いと、Tちゃんのことが羨ましくて悔しくて堪らない思いの、二つの思いに襲われちゃった。
「あっでも、まだミエハルくんのことがよく分かんないから、好きとかいうレベルじゃないよ。気になるだけだから、本当に」
突然Tちゃんはそう言って、ミエハルくんのことを好きなわけじゃないと言ったの。なんでそんなことわざわざ言うのかな?アタシの内心を知ってるの?
なーんか、アタシを牽制してるのかどうなのか、分かんない。
林間学校のお昼ご飯の後とかを使って、可能ならミエハルくんに告白したいと思ったんだけど、Tちゃんが同じ班だったら流石に無理だよね…。
期待してたチャンスを一つ逃しちゃったなぁ。
第 16 章
林間学校も、アタシには何もなかったけど、とりあえず無事に終わって1学期が終わるのを待つだけのある日。
アタシが普通に部活に出てきたら、その後にミエハルくんとTちゃんが何か言い合いながら音楽室にやって来たの。
何言ってるんだろう?と思って聞いてたら、何かを教えてよ、いや、教えられないとか言い合ってる。
アタシはピンと来ちゃった。
でも黙って練習の準備をしていたら、ミエハルくんが先に音楽室に入って、後からTちゃんが入ってきたの。
その段階では、他の部員もいるからか何も話してなかったけどね。
そしていつものようにTちゃんがアタシの横に座って、クラリネットの準備を始めながら、アタシに話し掛けてきたの。
「ケイちゃん、遂にアタシ、ミエハルくんのことが、好きになったの」
遂に来たわ、この時が…。アタシはわざと小学校時代にいたTちゃんの彼のことを持ち出して、はぐらかそうとしちゃった。
「えーっ、ついにTちゃん、前の彼氏の影を吹っ切れたんだね!」
「前の彼って、小学校の時の話じゃん。アレは付き合ったと言えるのかどうか、アタシも分かんないし、影ならとっくに吹っ切れてるよ!」
「そっか、そうだよね、エヘヘ」
通じなかったわ…。
「でね、今日ミエハルくんに、好きな女の子はいるの?って、話しかけたら、ミエハルくんたらシドロモドロになっちゃって、逃げてばっかりなんだ。これって、絶対脈ありだよね♪」
「分かる。分かるよ~、ミエハルくんの気持ち」
「ちょっと、なんでアタシよりミエハルくんの気持ちに寄り添ってるのよ、ケイちゃん!」
だってミエハルくんは、アタシのことだって気になる存在だったはずだもん!って言いたいのをグッと堪えて…
「まあ、男子と女子には色々あるからね、えへへ」
と、苦笑いしながら、心の中では泣きながら、返したの。
「なんかケイちゃんはアタシの味方なのか敵なのか分かんないよ」
本当は敵だったんだよ。ライバルだったんだよ、ずっと。だけど…
「もちろん味方に決まってんじゃん!かなりミエハルくんを追い詰めたんでしょ?そしたらさ、今日中に決着つけたいよね」
「ま、まあね」
Tちゃんのこんな顔、見たことないよ。本当に恋する乙女って感じ。
「いつもTちゃん、クラリネット片付けたらとっとと帰ってるけど、今日はミエハルくんが音楽室の鍵を閉めるまで待ってて、最後に2人切りの状況になって、答えを言わなきゃ帰さない!って攻めてみたらどう?」
「そうだね、いつもアタシはとっとと帰ってたから・・・。うん、そうするよ!」
「応援してるよ、Tちゃん!」
「うん、頑張るね!」
アタシは心と裏腹なことを言ってた。心の中は大泣きしてた。N先輩と別れて、ミエハルくんに好きって告白したい、その思いでずっといたのに…。
ミエハルくんの方を見たら、バリトンサックスを熱心に練習してたわ。
何か、鬼気迫るものを感じちゃうほどに。
Tちゃんにこの後も迫られたら、どう返せばいいか?ってのも考えながら、ひたすら個人練習に打ち込んでたように感じたよ。
そしてその日の部活も終わりを迎えて、アタシはTちゃんに
「いい?絶対帰りにミエハルくんを捕まえるんだよ。じゃあね」
とだけ言って、帰ろうとした。
だけど、だけど…。
アタシ、まだミエハルくんのこと、諦められないよ!
2人がどうなるかを聞き届けてから帰ろうと思って、音楽室に上がる階段の下でしばらく待ってみたの。
そしたら、聞こえてきたよ‥‥。
「ミエハルくん!ミエハルくんの好きな女の子は誰なの?言わないと、帰さないよ~」
Tちゃん、凄い粘ってる。あんなTちゃんの様子、見たことない。
「Tさん、もうここまで追い詰められたら言うしかないとは思うんだけど…」
ミエハルくんは観念したのかな。Tさんが好きっていうのかな、それとも全然違う女の子の名前を言うのかな。もしそうならアタシの名前を言って!
「うんうん、誰が好きなの?」
「あのね、俺が好きなのは…、好きな女の子は、同じクラスで…」
「うん…」
あっ、アタシ、終わった…。
「同じ部活の…」
「うん…」
「同じクラスのね、あのね、出席番号が…NHKのチャンネルの女の子!」
ミエハルくんはそう言うと、すごい勢いで階段を駆け下りてったの。
何?これで終わり?
アタシは、ミエハルくんの意中の女の子がアタシじゃなかったのが悲しかったけど、スッキリしなかったから、思わずTちゃんのことを迎えに行ったよ。
「Tちゃん、頑張ったね!」
複雑な心を隠して、とりあえずTちゃんをねぎらったの。
「あれ?ケイちゃん、見ててくれたの?でもミエハルくん、しっかりアタシの名前を言ってくれた訳じゃないし、アタシはミエハルくんのことが好きって伝えられてないし…」
「なに言ってんの、まだミエハルくんは学校にいるんだから、ミエハルくんの帰り道に先回りして、しっかり最後まで告白し合わなきゃダメだよ!ほら、早く行かなきゃ!」
「そうだね、うん。ケイちゃん、ありがとう」
Tちゃんはそう言うと、ミエハルくんの先回りをしようと、駆け出した。
アタシ、何やってんだろう…。なんでTちゃんの応援してるんだろう…。
Tちゃんの背中を見送りながら、少しずつ涙が溢れてきた。
アタシの片思い、散っちゃった…。
最 終 章
夏の吹奏楽コンクールも終わって、アタシ達の中学校は銀賞止まりだった。
去年はゴールド金賞だったけど、県大会より上の無い、自由曲1曲だけの部門。
今年は県大会でいい成績を取れたら、中国地方大会に進むことが出来る、課題曲と自由曲の2曲を演奏する部門。
だから、結果は残念だったけど、ミエハルくんも部長として必死にみんなをまとめて頑張ってたし、吹奏楽部のみんなとしてはやり切ったんじゃないかな?
実はアタシ、ある2年生のフルートの女の子から、夏休み中に相談を受けたんだよ。
「ケイちゃん先輩、知ってたら教えて下さい、ミエハル先輩って、T先輩と付き合ってるんですか?」
フルートのYちゃんなんだけど、小柄で笑顔が可愛い子なんだ。
アタシの情報網では、ミエハルくんと同じサックスにいる、2年生の男子、Nくんが狙ってるって聞いたけど、Yちゃんはミエハルくんのことが好きだったんだね…。
アタシは動揺しながらも平静を装いながら、
「うん、夏休み前から付き合ってるよ、あの2人」
と、答えたの。
「えーーーっ。アタシ、ミエハル先輩のこと、好きだったのに…。コンクールで告白しようって思ってたんです。本当ですか…」
Yちゃん、すごくショック受けてた。
アタシだってまだTちゃんショックから抜け切れてなかったけど、Yちゃんもきっと初めて本気で好きになったのがミエハルくんなんじゃないかな?
だから、しばらくはすごい落ち込んでたんだよ。
でもミエハル先輩には言わないで下さい、勿論T先輩にも、って言われたし、アタシもそんなこと2人に言うことじゃないし、アタシの心の中に仕舞っといたの。
だからミエハルくん、君は3人の女の子の中から、Tちゃんを選んだことになるんだよ。
って言っても、本人は自覚がないし、モテないと思ってるから、やっとTちゃんとカップルになれた!って喜んでるだけだけどさっ。
アタシはというと、コンクール当日、会場にN先輩が応援に来てくれた時、やっとN先輩を捕まえてお話しして、やーっと別れることが出来たんだ。
今更だけどフリーになったし、前へ進むために、一度でいいからミエハルくんとゆっくり話をして心にケジメを付けたくて、学校に戻ったコンクールの片づけの後、Tちゃんに頼んで、ミエハルくんと2人で喋れる時間を作ってもらったの。
「Tちゃんごめんね、大切な彼氏を奪っちゃって」
「もう、奪うだなんてケイちゃんは大袈裟すぎるよ。本当にアタシからミエハルくんを奪わないでね?何か色々あるんでしょ?N先輩のこととか、その他にも…。後でちゃんとミエハルくんを返してくれればいいから」
一通り片付けも終わって解散になった後、アタシはミエハルくんと2人きりになって、お話したんだ。
「山神さん、話って何?」
アタシは敢えて、Tちゃんからミエハルくんに、アタシが話したい事があるから部活の後に残ってほしいと伝えてもらったの。
最後まで残ってた後輩男子はミエハルくんに、「先輩、二兎を追う者は一兎も得ずですよ!」とか言って茶化してた。
「そんなんじゃないっつーの!」
「ゴメンね、ミエハルくん」
「いやいや、あいつらも分かってて、からかってるんだよ」
「でもミエハルくん、男子にも女子にもモテモテだねっ」
「男子にモテてもしょうがないけどね。でも偶々Tさんと両思いになれたけど、モテモテだなんて、あり得ないよ」
ミエハルくんはやっぱり鈍感なんだわ(笑)
Tちゃんと付き合えた裏で、少なくともアタシとYちゃん、2人の女の子を泣かせてるんだから…。
それに、アタシが知らないだけで、もっと他にもミエハルくんのことを好きだった女の子がいるかもしれないのに。
だから、素直に言うの。
「アタシね、実は失恋したの」
「ええっ?もしかしてN先輩にフラレたの!?」
「ううん、違うよ」
アタシは苦笑いしながら言った。
「違うの?」
「N先輩は、アタシから別れを告げたの」
「えーっ、そうなんだ…初めて知ったよ」
「だからあえて言うと、失恋したのは、N先輩の方ね。実はね、アタシが失恋した相手は…」
「誰?」
「…実はね、ミエハルくん、君だよ」
「うん…って、ええっ!?俺?本当に?」
「アタシ、ミエハルくんのこと、好きだったの」
「まっ、まさかぁ!嘘でしょ?山神さんは学校中のアイドルだよ?男子の憧れのマドンナだよ?そんな女の子が、なんで俺なんかのことを?」
「卒業式のこと、覚えてる?」
「あっ、卒業式…。うん…」
「あの時、アタシがN先輩に抱き締められたのを、ミエハルくんに見られたよね」
「うん、窓の外を眺めてたらね」
「その後、教室に戻ったら、ミエハルくんがやっぱり山神さんはN先輩と付き合ってるんだね、って物凄い悲しい顔をしながら言ったんだよ。覚えてる?」
「覚えてるよ。今だから逆に言えるけど、2年生の時同じクラスで、山神さんは色々俺のことを助けてくれたよね。だから凄い嬉しくて、これはもしかしたらもしかするのかな?なんて思ってさ、俺もどんどん山神さんのことを好きになりかけてたんだ。N先輩がいなかったら、好きになりかけじゃなくて、ハッキリ好きになってたと思う。秋頃からは、ハッキリ言えば、山神さんに片思いしてた。だけどさ、あんな場面を見たら中2男子には辛いよ。山神さんはやっぱり自分が好きになっちゃいけない女の子なんだ、って思って諦めたんだ」
「その時、諦めないでほしかったな…」
「えっ!?」
「アタシ、卒業式の頃はもう、N先輩とはお別れするつもりだったんだもん」
「……」
「お別れを告げに言ったら、N先輩はあんな性格だから、アタシがお祝いに来たとでも思って、わざと見せびらかすように、みんながいる前でアタシの事を抱きしめたのよ」
「………」
「だからアタシ、N先輩に別れて、って言えなくなっちゃって」
そろそろアタシの涙腺も限界。涙が目から零れそうだよ…。
「アタシは本当は卒業式の日、N先輩と別れたら、ミエハルくんに告白するつもりだったんだよ・・・」
ここまで言ったら、涙が溢れちゃった。
「…そ、それは初めて聞いたよ…」
「アタシも初めて話すもん。しいて言えば、Y先生は知ってた」
「そうなの?」
「ミエハルくんが、卒業式の後、急に、アタシと喋らなくなったのに、気付いてたの、先生は」
泣きながら喋るから、言葉が途切れ途切れになっちゃう。
そんなアタシに、ハンカチをそっと渡してくれたの、ミエハルくんが。
どこまで優しいのよ、余計泣いちゃうじゃん!
「確かに、山神さんを好きになっちゃいけないと思って、喋らないようにしてたのは事実。そんなタイミングで、3年になって同じクラスになったTさんが、山神さんの代わりみたいに、クラスで俺のことを弄り始めてさ。そんなことされたら、気になっちゃうじゃん。山神さんを好きになっちゃいけない、と決めた俺の心に、Tさんが入り込んで来た、そんな感じだったよ」
やっぱりTちゃん、ミエハルくんのこと、意識してたんじゃない。気になるだけとか言ってたのは、アタシを気遣ってのこと?
「アタシは、ミエハルくんと、話せなくなったのは、自分のせいだから、自業自得、と思ってたの。でも、先生は、気にせず、話しかけな、って、背中を、押してくれたの」
「それで…ある日突然、バイバイとか、おはようとか、声を掛けてくれるようになったんだね…。そんなことがあったとは何も知らなくて…ごめんね」
「ううん、ゴメンなんて、言わないで。でも、アタシは実は去年の秋から、ずっとミエハルくんのことが好きだったの。これだけは覚えててほしくて、今日、Tちゃんに、無理にお願いしたの」
「じゃあTさんも、山神さんが俺のことを好きだったってこと、知ってるの?」
「アタシが、ミエハルくんのことを、好きだったって知ってるのは、先生だけよ。Tちゃんももしかしたら、何となく察知してるかもしれないけどね」
「でもでも、こんな時に聞くのはゴメンかもしれないけど、俺なんかのこと、なんで好きになってくれたの?」
ミエハルくんにそう聞かれたら、今までのミエハルくんとのやり取りとかがサーッと思い出されて、また涙が溢れてきちゃった。
「2年生になってね、同じクラスになった時はね、ミエハルくんのことは、存在を知ってるだけで、まだ、好きとは言えなくて、助けてあげなきゃって感じだったの。でもね、オドオドしてたミエハルくんが、どんどんバリサクが上手くなって、コンクール頃から吹奏楽部の中で、存在感を発揮し始めて、アタシもミエハルくんのことが、単なるクラスメイトから、気になる異性になって来たの」
「……」
「そんな時、Tちゃんが、N先輩に、髪の毛の件で、虐められたでしょ?その時、ミエハルくんが、トラブルを、上手く、早く解決してくれたでしょ?」
「まあ、Tさんが泣いてる現場を見ちゃったからね…」
アタシはもう泣きながら、ミエハルくんに向かって思いの丈を話し続けた。
「その時、ミエハルくんが、凄く大きく、カッコよく、アタシには、見えたの。N先輩なんかよりも。その時点でね、アタシ、いつも上から目線で自分勝手なN先輩とは別れたい、ミエハルくんの方が絶対に彼氏として楽しく付き合えるって思ったの」
「………」
「だから、ミエハルくんのことを好きになったのは、去年の秋」
「…そっ、そうなんだね」
「そうなんだよ。だからね、去年の秋から半年、アタシ達、両想いだったんだよ!」
気付いたら、ミエハルくんも涙を目に浮かべてた。けどアタシに悟られないように、横を向いたり、汗を拭くような仕草で涙を拭ってたよ。
「女の子にここまで喋らせちゃってごめん、本当にごめん!俺が悪いんだよね」
「ううん、ミエハルくんは、何も悪くないよ。Tちゃんも悪くないの。悪いのは、N先輩のことがもう嫌になってたのに、早く別れなかった、アタシなの」
ミエハルくんはそうじゃないって、大きく頭を横に振ったの。
「だからね、去年の秋から続く、アタシとTちゃんと、ミエハルくんの3人の物語は、ミエハルくんがTちゃんとカップルになったことで、最終回を迎えたんだよ。だからね、アタシは、3人の中で1人だけ恋が実らなかったから、1/3だけ失恋したんだ、そう思うようにして、夏休み、コンクールを過ごしてきたの」
「1/3の失恋…」
「そうだよ。だから、アタシには、まだ2/3の可能性があるって、なんの根拠もないけど、そう思って、ミエハルくんに今までありがとう、って伝えたかったの。絶対、絶対にTちゃんと別れたり、フッたりしちゃダメだからね!」
「俺こそ、ありがとう」
「えっ?」
「2年生で同じクラスになってからの、山神さんとの出来事を色々思い出すとさ、本当にフランクに接してくれて、俺が吹奏楽部に馴染みやすいように気を使ってくれたよね。時には俺の目の前でスカート捲って、体操服を脱いで友達に渡したりさ」
「アハハッ、そんな変なこともあったね」
「そんな明るい山神さんを泣かせちゃって、本当にごめん」
「本当だよ!アタシの青春を返してよ!」
アタシ達は2人で泣き笑いした。
「じゃ、じゃあ、あまり遅くなっても、Tちゃんに悪いし、アタシ、帰るね」
話し始めたころはまだ夕焼けが見えたけど、この頃はもう完全に真っ暗になっちゃってた。
「うん。今日はありがとう。気を付けてね」
「…ミエハルくん、最後に一つだけ、いい?」
「えっ?何?なんでもいいよ」
アタシはそう言うと、ミエハルくんに抱き付いたの。
「あっ、山神さん…」
「ちょっとだけでいいから、Tちゃんの所に帰る前に、アタシにミエハルくんを感じさせて。お願い」
「うん…」
ミエハルくんはそう言うと、しっかりとアタシのことを抱き締めてくれた。
アタシは名残惜しくて、ミエハルくんの胸に顔を埋めて、また溢れる涙を堪えてた。
ミエハルくんはそんなアタシの頭を、撫でてくれた。
しばらく抱き合った後、アタシから離れた。
「山神さん…」
「これで、卒業式の時のお互いの悔しさは晴れたでしょ?じゃあ、本当にバイバイ!」
アタシは泣きながらカバンを持って、ミエハルくんの顔を見ないようにして駆け出した。
これからミエハルくんとは、友達として接するんだ。Tちゃんを応援して、2人が上手くいくようにね。
まだまだお互いに3年生だし、部活も文化祭まで続くし、お互いの顔を見ることはあるもん。
でも…
ミエハルくん、Tちゃんと幸せになってね。Tちゃんを泣かせたら、許さないからね!
(完)
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以上で、私の中学時代の唯一のモテ期エピソードを含んだ小説シリーズは完結です。
最終回もほぼノンフィクションですが、一部フィクションが混ざっています(苦笑)
どの辺りがその境界線かは、皆様のご想像にお任せしますが、一つだけ白状しますと、コンクールの後にケイちゃんと2人きりで1時間以上話をしたのは、事実です(*ノωノ)
その他は、本来の本編小説、Tさんを主役にして書いた「元カレMくんの話」シリーズを対比させてお読み頂ければ、色々な伏線がその時から張ってあったんだな、この野郎!(笑)と思っていただけるかと(;^_^A
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
余談ですが、このケイちゃんとも4年前に中学の同窓会で再会し、FacebookやLINEで繋がれました(*ノωノ)
時代の発達に感謝です(*´∀`*)
サポートして頂けるなんて、心からお礼申し上げます。ご支援頂けた分は、世の中のために使わせて頂きます。