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妊娠しました。退職しました。②

助産師 Beniです。
助産師として働く中で、社会全体が女性の身体のことを理解できたら、
考え方や仕組みがアップデートされて、女性がもっと生きやすくなると考え、
日々考えていることや伝えたいことを綴っています。

今回は私自身の経験を書いています。
この記事を読むにあたり、きっと置かれている立場によって受け取り方や考え方は様々で、私と同じような思いを抱く人だけではないだろうな、ということも感じています。
ただ、守られていると思っていた雇用や権利が、妊娠や育児というライフイベントにおいて簡単に揺らいでしまうことを、身をもって経験したことに衝撃を受けたこと、そして、このような経験はおそらく私だけではなく、声をあげずに耐えている女性がいるのではないかと考えました。
そして、女性を取り巻く環境において、今現在どのようなことが起こっているのかまずは知ってもらいたい、という思いを持ち、書くことに至りました。

前半では、患者として不妊治療に取り組みながら、看護職として不妊治療のクリニックで働くことで得た経験をお話ししました。
今回は妊娠が判明してから退職をするまでの経験です。

もともと職場には不妊治療に取り組んでいることは公表していました。
不妊治療のクリニックですから比較的周囲のスタッフの理解を得られやすく、私の年齢(30代半ば)や家族構成から妊娠を望むなら不妊治療に取り組むタイミングを先延ばしにしないほうが良いとの後押しをもらうこともできました。
院長からも「応援するから。体調が悪い時は休んでいいから」と言われていました。
ただ、いざ妊娠し胎児の心拍が確認できた段階で、院長に妊娠の報告と「今後産休、育休を経て職場復帰をしたい」という希望を伝えた時から、風向きが変わりました。
育休はまず無理。
産休は検討はしてみるが、クリニックとしては産休前に退職する時期を検討してほしい、と。

首を縦に振られなかった理由は以下です。
・育休後、2人目を欲しいと思うかもしれない。
 確実に1年後に戻ってくるかわからないスタッフのために枠を開けておくことは、
 小さなクリニックでは難しい。
・現在、すでに育休中のスタッフが2人いる。
 今後、妊娠を控えている年齢のスタッフも多数いるため、そのようなスタッフばかり
 を抱えきれない。
・育休後も子どもの急な体調不良で休んだり、シフト勤務に穴をあけることが
 容易に予想できる。
・戻ってくるかわからない不確実なスタッフよりも、20代前半で未婚のスタッフの方 
 が、雇用してからバリバリ働いてくれる期間が長い。そういうスタッフを雇いたい。
 (すでに採用したいスタッフの目星がついている。)

胎児の心拍が確認できたとはいえ、まだ妊娠初期。今後、どのような経過を辿るのか、万が一、ということもあり得ます。
そして、今後子どもを育てる上で、一体どれくらいのお金が必要になってくるのかも未知数です。
それに、妊娠した今、新しい職場を探すということも相当ハードルの高いものになってしまいます。
院長と何度か話し合いを重ね、育休は諦めるとしてもなんとか産休までの取得はできないか、という希望も伝えました。
残念ながら結果として、交渉は虚しく、妊娠初期の段階での退職を提示され、退職に至りました。

もちろん、一旦は「労働局へ相談」という選択肢を選ぶことも考えました。
しかし、小さなクリニックの中で、残された退職までの日々を穏やかに過ごすには、揉め事は極力避けたいという思いから、そこに相談することはできませんでした。

こんなにも、女性の雇用って厳しいんだなと身をもって知りました。
無遅刻・無欠勤でも。
患者さんや同僚からのクレームがなくても。
大学・大学院を出ていても。
国家資格があっても。
妊娠・出産・育児に取り組む女性を雇用主がどう捉えるかによって、その雇用は不安定なものになってしまう。

このような経験をしている人は、きっと私だけではないと思います。
子どもを産み、育てること自体も簡単ではないのに、子どもを産み育てていくための仕事を確保することも難しいのでは、あまりに酷です。
安心して子どもを産み育てることはできないかもしれない、と不安に駆られます。

私がこの経験を活かして、ここから何ができるのか、それは模索段階ではあります。
でも、まず、子育て世代の女性を取り巻く雇用環境がどんな状況なのかを知ってもらうことが必要と考えました。
安心して子どもを産み育てることができる社会が訪れるよう、歩みを止めずに考えていきたいと思います。




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