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くるくるしない、「春」お寿司。 【企画参加】

「へい!いらっしゃい。」

「こんばんは。ふたりいけますか?」

「奥のカウンターへ、どうぞ。」


いつもの、お寿司屋さん。

東京に来てから、”立ち食い”スタイルを知った。

お寿司を立って食べる、、?

立ち食いそばもままならない私に、、?

半信半疑、からのスタートだった。


何軒か、立ち食い寿司屋さんを見かけた。
土地がないのか、時間がないのか。寿司は立って食べるもの、という文化が東京には根付いている、ように感じた。

ためらいもあるのだけれど、やってみる。

郷に入っては郷に従え、と言うし。



「こんばんは!」

「こんばんは。」

「今日はお休みですか?」

「そうです、休みで。まだまだ観光気分でいろいろ出歩いたりしてまして。」

いつもの板前さん。フランクに始まる世間話が、持ち味。ついつい立ち寄ってしまうきっかけになったのは、この話術によるもので。

この道⚪︎⚪︎年のベテラン風おじさん。風格があるので、「大将」とこっそり呼んでいる。本当のところ業界が長いかどうかなんてどうでもよくて。ちらっとお店を覗くと、決まっていつもの持ち場におられるので、長く居る人、ということにしている。


「なににしましょう?」

「おすすめ幾つかお願いできますか?」

「はいよ!おすすめね。」

長いものには巻かれる、私たち。
季節の、今日の、おすすめを勧められるがままにいただく。



「へい、お待ち。」

キラキラっと輝く、透き通った物体。小ぶりのシャリがさらに存在感を際立たせる。

「これは?」

「シラウオだよ。」

不思議そうに尋ねる私に、夫が答えた。

しゅんだからね。」

と大将が言葉をそえた。


私は「しゅん」という言葉に弱い。
その季節の、限られた期間にいただける「特別」なお味。

いつ食べたって美味しいのに変わりはない。けれど、「旬」を味わうことは、何にも代えがたい。かけがえのない瞬間にもなりうる。

シラウオは、小さくて、甘くて、少し苦かった。
大将が歓迎してくれる温かさと、「旬」の命をいただく儚さが入り混じって、頭の中がぶわっとした。

きっと「春」を感じた、のだ。



回転寿司が好きだった。
くるくるまわるお寿司をみながら、どれにしようかなと、目で選ぶ。さっきもこれ食べたけれど、美味しそうだから、もう一回食べちゃう。子供みたいに、好きなものに囲まれて、満たされる。

それが、コロナウイルス到来によって一変。”回転”寿司なのに、レールには何もない。わさびとか醤油とか、宣伝用の小さいプレートのようなものだけ。タッチパネルで注文をして、機械で運ばれてきたお寿司を受け取り、いただく。確かに、美味しい。でも、、

「違う、これじゃない。」

道ゆく人を眺めるみたいに、色やカタチの違いを楽しむ。ぼーっと見つめて、ふっと手に取ったり、取らなかったり。こんな組み合わせもあるのか~と、頭の中で想像をはり巡らす。その漂う自由が好きだった、のだ。



”おすすめを勧められるがままにいただく。”

一見、受け身で面白味がない。

だが、「おすすめ」とは、いろんな意味を含んでいて。

季節ものだったり、今日よくとれたものだったり、握ってくれる人の都合だったり。

もう、それに、乗っちゃう。

レールに乗せられたお寿司みたいに、流されるがままに。シナリオ通りに進んだとしても、そこに「おすすめ」要素が合わさって、「特別」になる。

人と人、自然と世の中、のような組み合わせを感じるものがいい。
それが、私たち夫婦らしくて、きっと、「しゅん」なのだ。




※写真は口福について ∼ おいしいエッセイ ∼さんより、お借りしました。
ホタルイカも大好きなんですよね~🦑夫の一番好きなネタはもちろん、イカです🦑(『スルメを噛む男。』より)



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今週も、珈琲次郎さんの企画に参加させていただきました☕️
お題は、「パートナーとの特別料理」です。

みなさまもぜひぜひ、ご参加ください^^♪





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