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スルメを噛む男。

夫は歯並びがいい。うらやましいほどに。

幼少期に治療済み、とかではない。
生まれつきらしい。

笑った口角はぐんとあがり、収まりの良い歯が綺麗に陳列されているのがうかがえる。

本をたいせつに本棚にしまうみたいに、気持ちのいいくらいに。



私だって、歯並びには自信があった。

白い歯を思いっきり見せて笑ったりなんかしていた。

していた、、。

のに。


先日、歯医者にXO万円課金した。

歯科矯正費用だ。

1年ほど前に予期せぬ虫歯に遭遇し、それ依頼、歯に気を配っている。こまめに定期検診にも行く。

かつての歯並びにも限界が訪れ、いつしか前歯に微かな隙間があらわれた。気のせいだと思いたいが、明らかにソレがある。

夫に確認を取った。

「私の前歯、隙間があるよね?」

「ほんまや。すきっ歯や。」

なんのオブラートもない。どんと現実を突きつけられた気持ち。
そんなことないよ、と言って欲しかったのではない。

、、だが、しかし、落ち込みはする。


くよくよしている暇があれば、歯医者へ!

「このままでは隙間がもっと広がりますね。」

お医者様の恐ろしい言葉。
選択肢は、治療する、一択である。



とはいうものの、何を隠そう、私は無職だ。
働いていてもXO万円の出費は大きいのに、無職ならなおさらだ。

しかし、

すきっ歯として生きていくには、まだ先の人生が長すぎる。

お貯金様と相談し、「どーんといけ」と回答を受けたので、歯科矯正に踏み切った次第である。




昔から、自分にお金をかけることは苦手だ。

経験になることは、惜しみなく時間をかけてはきたけれど、お金となるとまったく別モノ。

有限で物質的なモノにはどこか躊躇してしまう。


先日、50代くらいの女性が仰った。

「年齢を重ねると、身だしなみに気を使っていないと、ちゃんとした人に見えなくなる。」

さすが東京のお方だなと思った。意識が高い!と。


一方で、確かにそうなのかも、、とも思った。

以前どこかで、このような言葉を目にした(耳にした)。

「若い頃はカラーリングした髪にお金がかかるけれど、年齢を重ねると黒髪でいることの方がコストがかかる。」

30代に入り、じわじわとその意味を実感する。綺麗な自然体でいるためには、それなりにコストがかかると。





夫は、そのままでいいよ、と言ってくれる。
その言葉はありがたいし、ちゃんと受け取る。

けれど、治療費は私にとって必要な出費だった。
夫とこれからも思いっきり笑い続けるために、使えるときには思い切って、お金を使おうと。

かかるコストに納得して、より良い人生になれば、と願う。



追記:🦑
先日、リビングでうたた寝している夫の口がモゴモゴしていた。口内を覗くと、これはスルメか??!

以前、義母が言っていた。
夫は幼少期、寝ながら口をモゴモゴさせていて、開けてみるとその中にはスルメが入っていたと。寝る間も惜しんで、スルメを食べていた子ども。

寝ながら好物を食べ続ける夫。
歯並びの秘訣はスルメにあるのだろうか、、。


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