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マンガ家アシスタントのおしごと!-1- (「薔薇はシュラバで生まれる-70年代少女漫画アシスタント奮闘記-(笹生那実・著)」読了に寄せて)【前編】

どうも、くおんみどりです。サボらず続編エントリーできました(わーい)。あ、前エントリーでは紙版のリンク貼りましたが、上記のコチラは電子書籍版となりますよ。電書も便利ですよね。いつでも読める(^o^)

さて今回からは、ネタバレは避けつつ、作中のエピソードの解説・感想や自己の体験談、あとは関連の話が横道に逸れてドリフトしたりスリップしたりと、くだらん与太話も繰り広げられると思います。そういうスタイルでやってこうと思いますよ。(マイペース!)

ちなみに私のアシスタント期というのは、はっきりと時期を記憶しているわけではなく、非常にあいまいのですが、80年代中期くらいから90年代中盤くらい…だったかな?と言う感じです(プロデビューは1990年という、大変覚えやすく計算しやすい数字w)。だから、本作で描かれている時代とでは、アシスタント環境に多分10数年くらいの差異があると思われます。しかし、いわゆる「逸話」は、その当時のベテランアシの方々から多々聞くこともあり、その当時の知識は全くゼロ…というわけではありません。
…まぁ、ソレが正確かどうかという点は「その人が盛ってなければ、フカしてなければ」という話なんですけど(笑)。

第一章「職場はシュラバ」

お話は、この作品の作者「笹生那実さん(当時中学生)」が別マ(別冊少女マーガレット(集英社))編集部でネーム(映画やアニメで言うコンテ、ストーリーボード的なもの)を小長井信昌編集長(後の月刊LaLa(創刊時誌名:花とゆめLaLa)初代編集長、株式会社白泉社創立メンバー、のちに同社代表取締役社長、相談役に)に見てもらっているシーンから始まります。

ネームが不評で失意の笹生さんは、ちょうどその日、近隣の旅館で憧れの美内すずえ先生がカンヅメ(入稿締切日まで切羽詰まった時、本来の仕事場・自宅でない別所に隔離され、原稿を描く)状態と編集長から知らされる。ひょんなことから、一対一で美内先生と対面することになり、テンパる笹生さん…。そしてあこがれの先生を目の前にした笹生さんが、先生にお願いしたコトとは…!?

と、よく漫画雑誌で本編最初の1ページ下に書かれる、「これまでのあらすじ」風に書いてみましたがコレ、「プロの仕事風景知らない中学生が、前触れもなく唐突にあこがれの先生の執筆場所に初めて訪問したら多分こうなる」の好例ではないでしょうか(笑)。まぁテンパりますよね。今風に言うなら「かっ、神絵師が自分の目の前で神業を!」って事ですから。
漫画家の仕事場に来たら当然「描くトコ見たい!」という欲求は起こります。デフォルトです。ソレはいいのですが…しかしコレは…先生も描きにくいw。「前門の原稿用紙、後門の訪問者」です。そして、いつのまにか心理戦に突入するという…(表現は大げさではないと思う)。

笹生さんがどういう行動に及んだのかというのは…これは是非本編を御覧ください。もしあなたが絵描きさんだったら、両方のキモチ、分かると思いますよ、ええ(笑)。

あとココ、細かいトコですが…

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マンガの「漫画家の机の上」描写で「ペン拭き用のティッシュ」まで描かれるのって結構珍しいような(笑)。いや、漫画家にとって極当たり前の風景なんですけどね(制作風景にティッシュボックスやトイレットペーパーロールが置かれるのは珍しいことではないんです。むしろ定番アイテムですが)。こういうトコは「アシ視点ならではだなぁ」と感じました。

ちなみに、私が今まで出会った漫画家さんの中にはペン先を「水壺に漬けてインク流してからティッシュで拭く」や「拭いた後、ライターの火で炙る。そして水につける」という御方もいらっしゃいました。冷静に考えれば、ソレってペンに付いたインクを直拭きするより、ペン先寿命が短命になるんじゃ…って気もしますが、多分その方にはソレが効率的だったのかもしれません。テクニックそれぞれ、作家もいろいろですね。
そう言えば、ティッシュでペン拭くのもライターで炙るのも、制作環境フルデジタル化が更に進んだ今では、確実に忘れられていく技術であるんですよねぇ。うーん、ロストテクノロジィ…(遠い目)。

余談「カンヅメ」
私の時代だと「旅館に」カンヅメという文化は(存在はしていた気はしますが)もうそれほどメジャーなものではなかったような気がします(感想には個人差があります)。私が現役中によく耳にしたのは「(出版社の)会議室でカンヅメ」とか「ホテルにカンヅメ(風情的に分けたいw)」「編集部内にカンヅメ」といったもの。そういえばアシ先の某先生(手塚プロ出身)からは(御大の)旅館カンヅメ話はよく聞いた気がしますが、その時点であまりリアルみ感じて聞いていませんでした。そういえば講談社に行った時に、近隣を歩いていた時「あそこにカンヅメ旅館があったんだよ」という話を聞かされたこともありましたっけ…。
多分私の頃の「旅館(ホテル)にカンヅメ」という行為は、雑誌にとって重要な作家さんに限ったレアケースになっていたのかな?と勝手に解釈してます。なんだかんだでコストかかりますしね。客室を1~2部屋をまるっと借り切っちゃうわけですし。というわけで、あの頃の個人的インプレッションでは、私の中では「旅館にカンヅメ」は完全なファンタジーとなっていた感がありました(笑)。いや、わからんけどねw

あ、余談の余談になりますが「編集部内にカンヅメ」で一つ思い出しました。「カンヅメのため」ではなく、「漫画家の仕事場が編集部フロア内に常設」という例を知っています…。いやぁ怖いですねー、環境的に怖いですねー。端的に言って恐ろしいw。壁(パーテーション)一枚隔てた先には、担当編集者と編集長さんが毎日鎮座しておりますのよ。社員が終業して出払った後はフロアは真っ暗だし(仕事場区画内は明かりついてる)。ソレが何先生の仕事場なのか?…うーん多分(いや確実に)角が立つと思うのでソレは伏せます。言えません。ん?ホラ吹いてる?いえ、ソレはありません。

…だってソコ、私の仕事場(アシ先)だったのですから(ぅゎぁ)。

チーフアシから「この事は他に漏らすな」と釘を差されていたくらいですからね…察してつかーさいw。(時効かとは思いましたが、詳細を省いて制限モードにしました。持ちネタを書きたい欲求に逆らえなかったw)

枠外ローマ字メッセージ文化

なんか「カノッサの屈辱」のサブタイトルみたいになりましたが、作中のコレです。

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最近の作品、というかココうん十年の作品ではこういう「ローマ字で作中にメッセージを描く文化」というものを見たことがありません。しかしコレ、ある時期までは確かにあったものです。主に少女漫画にはソレが顕著だったと個人的には感じています。
作中で新聞や張り紙、本の紙面等を描く時に、重要性のない箇所では字の代わりにただ二重線が描いてあるだけ、というのはよくある描写方法です。ソレとともに「文面をローマ字にして描く(なお、内容は本編に関係無いw)」という事もよくされていました。また、まったく必然性がない箇所、例えばコマの枠線外とか目立たないところに、作者が遊び心で描く場合もありました。内容は例えば、執筆時のBGMタイトル・アーティスト名だったり、グチだったり(UWA~N, ONAKA GA SUITA YO~みたいなw)、「KONDO JULIE NO CONCERT IKUNODA! TANOSHIMI!」という近況報告なども見たことがあります。
「作家の公私混同」と言われればそういう気もしますが、ソレを見つけて読むという楽しみもありました。その欄外トークで作者を身近に感じられるという事もあり、アレはアレで良い文化だったと思うのです。今はそういうのは…やるとしたら、雑誌の目次コメントとか単行本になった時の巻末コメントページくらいなのですかね。(ローマ字は無いなw)

いつから廃れちゃったんだろうこの文化。調べたら面白そうだけど、量が壮大過ぎて、個人では無理ザンスよね (;´Д`)。個人的には、6~70年代の遺産かな?とは思うのですが。

漫画家の原動力

「お手紙、本当に楽しみにしているの。編集部からファンレターをもらうと真っ先に笹尾さんの手紙を探すのよ」(美内すずえ 談)

漫画家はマンガを「好きだから描く、好きだけで描ける」…というのは、まぁホントのことです。嘘ではない。でも、ソレだけで一生モチベーションが下がらないかと言えば…下がります。ええ、下がるときゃ下がるのです。降下具合が滑らかだったり急降下だったり、色々ありますが、やはり「人はナントカのみで生きるにあらず」的なこともあり、思わず不意に見舞われちゃうことも多々あるのです。

そんな時、漫画家(作家)を救ってくれるもの筆頭は「読者からのファンレター(リアクション)」でしょう。100%の褒め文章でなくても、もらえばそれだけで作家はテンション上げられます。アゲアゲです。私の場合、紙のファンレターはなかったのですが(同人誌ではもらったことはある)、当時のインターネットに自作の公式サイト(ホムペw)を構えていた時には、読者からのメッセージを掲示板で時々いただいていました。当時の私の作品はいわゆるTL(ティーンズラブ)ジャンルで、ちゃんと女子中高生が対象でありましたが、ぶっちゃけて言えば少々「えっちぃマンガ」だったのです。でも「作品読みました。くおん先生の作品好きです。頑張ってください(要約)」とかちゃんとあったのです。コレ書かれた日にはもうね、そこらに生えてる(生えてない)コカの葉の抽出物より何万倍もの高揚感が得られましたよ(言い方w)。

作中の笹生さんが寄せたファンレターは、絵付きでしかもカラーの凝ったものだったとあります。そんなのもう、もらった作家にとっては滋養強壮ドリンクやモカ(薬用眠気覚まし)以上の効き目ありますよね。
聞くところによると、今は紙のファンレターは結構数を減らしているそうです(ゼロではないでしょうけど)。今だったらSNSで直接とか、そういうのになるんですかね?まあソレでもいいですが(紙ならもっといい…のですけど)、ホントに好きで励ましたい、これからも作品を読みたいと思う作家さんには、億劫がらずにファンレターを出してあげてください。「漫画家(作家)は原稿料と読者の反応だけで生きてます」といっても過言ではありません。それだけ栄養素の詰まった物なのです。いや、出したら絶対良い事ありますって。

…あ、気がついたら4000文字超えてました。アカン…コレ以上は分けたほうがいいなと言うわけで、1の「前編」ということにして、一回閉じたいと思います。次に書く予定のネタ、特に「三日月会」関連に関しては生半可な事は書きたくないなぁと言うのもあるので…一回寝ます!(実は結構長時間執筆w)

長くなっちゃってスミマセン。字数制限がないとコレだからもう(苦笑)。

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