短編小説『天使の詩』
割引あり
夢のなかで天使に逢ってからというもの、私は少しだけ変わったような気がする。別に聖者になったわけではない。空から降ってくる雨の一粒一粒にあなたを見出せるようになったのだ。あなたの笑顔には一点の曇りもなく、目が合えばこう囁きかけてくる。
いつも傍にいるよ。
あなたが降ると、周りのひとたちは傘を差すか、家に籠もるかのどちらかを選ぶが、私は空に向かって語りかける。時に雨粒に宿るあなたの表情に憂いを見つけると、やり場のない気持ちでいっぱいになる。川沿いの散歩を終えて家路につくと、引き出しのなかから思い出のペンダントを見つけ、涙を落とす。大抵のものは処分したと思っていたのに、誕生日やクリスマスにもらったプレゼントだけは残してある。だからと言って強い未練から、 あなたが見えるようになったのではない。私は天使しか持っていない、天使の眼を譲り受けたのだと信じている。あなたはまだ降っているだろうか。窓から外を見やった私は目を丸くした。
雪だ。
あなたが白く美しく凝固されている。
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