寄稿「空き家を地域資源とみなし、住居と仕事に変える試み」
公益財団法人えひめ地域活力創造センターが発行する『舞たうん』vol. 152に、空き家にまつわる私の活動についての近況をご報告させていただいた原稿を寄稿させていただきました。今年5月に用意した文章とはなりますが、このほど、その号が発行され、同センターより転載の許可をいただきました。テキスト形式の原稿を、noteの一記事とさせていただきます。以下、寄稿文となります。
今年の春に上島町の弓削島でオープンした「ゲストハウスみちしお」の建物は長い期間、空き家の状態で放置されていました。改修工事では、いくつかの部屋で畳敷きをフローリングにするなど大幅に手を加えましたが、キッチンや風呂、2階のシングルルームなど、ほとんど手を入れていない所もたくさん残っています。天井や壁の至る所で、築40年以上となる元の建物の面影を見出します。この建物は、弓削島や生名島から多くの人たちが因島の造船所に通勤していた時期に建てられており、建てた方も因島で働いておられました。私はこの建物で時間を過ごすときによく、その頃の弓削島の生活を想像します。縁あって、空き家だったこの建物をゲストハウスとして活用させていただくことになり、建物を通して地域の歴史とつながったような気がしています。
ゲストハウスのオープンから、およそ3カ月が経過しようとしています。ほとんど毎日、このゲストハウスで過ごすようになって今、私が思うのは、空き家にただ改修を施すだけでは十分ではなく、人がそこで実際に生活するようになって初めて、家屋は「暮らしの空間」へと変質し、その住み心地は日々良くなっていく、ということです。
協力隊としての2つのゴール
私は、令和2年4月から令和5年3月までの3年間、上島町で島おこし協力隊として勤務しました。移住相談や空き家バンク運営などを業務内容とするミッション型での勤務でした。協力隊に応募した時点より、任期の終了までに達成しようと決めていた2つのゴールがありました。ひとつは、任期終了後も地域に住み続けるため、生業としてのゲストハウスを空き家を改修して開業する、というものでした。もうひとつは、任期中の空き家問題への取り組みを任期終了後も継続できるように、活動の基盤となる団体を設立する、というものでした。前者は「ゲストハウスみちしお」として、後者は「NPO法人かみじま町空き家よくし隊」として形にすることができました。
空き家は、住居として使用できるだけでなく、私のようにゲストハウスとして使用するなど、事業用の店舗などの建物としても使用できます。ですが、人が住まなくなった空き家の状態は急速に悪化し、最終的には、お金をかけて解体するしかない、という状態に至ります。「譲る」「売る」「貸す」という、空き家活用についての決断が遅れると、「解体する」の一択しか選択肢が残らなくなってしまうのです。
上島町は、瀬戸内海に浮かぶ離島によって構成されており、風光明媚、自然豊か、よそ者を受け入れる気風もあって、尾道や福山といった都会にも近い、という条件を備えており、移住先としてもっと人気があってもおかしくはない、と私は思っています。ですが阻害要因として、移住者が買ったり借りたりできる空き家はほとんど無く、また勤め先の情報を見つけることも容易ではない、つまりは仕事がありません。すぐに住むことのできる空き家を紹介することができ、また仕事情報を提供することができれば、上島町への移住者はさらに増えると考えます。どちらも簡単なことではありませんが、今できることからやってみようと取り組んできました。
住居と仕事をつくる
私は協力隊の任期中に、先述の通り「NPO法人かみじま町空き家よくし隊」を設立し、またゲストハウスを運営する会社として「合同会社みちしおプロジェクト」を設立しました。「かみじま町空き家よくし隊」の方は、主にDIYにより空き家をすぐに住むことのできる状態に改修し、移住希望者に貸し出す、ということを主な活動内容としています。また「みちしおプロジェクト」では、まず弓削島でゲストハウスを開業しましたが、ゆくゆくは上島町を構成する生名島や岩城島といった島々でもそれぞれゲストハウスを展開し、ゲストに町内での「アイランド・ホッピング」の体験を提供したいと構想しています。どちらも地域資源としての空き家を使った事業展開となります。NPOと会社の活動を通し、不足している住居と仕事をつくり出すことによって、移住者が増えて、それが地域社会の維持につながれば、と願っています。
協力隊任期3年目となる令和4年度には、「みちしおプロジェクト」としては弓削島で「ゲストハウスみちしお」を、「かみじま町空き家よくし隊」としては生名島で移住希望者向けの賃貸住宅を、また高井神島で「地域交流拠点」としての活用を予定する建物を整備することができました。協力隊の任期が終了した今、会社として、またNPOとして、空き家の利活用を通して、地域貢献あるいは地域との協働をすすめてゆきたいと考えています。
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