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NDLデジコレ所収の中世史研究工具書ほか

※2023.9.12「北条九代記」(『史籍集覧』)を追加。 個人的関心に基づき選定しているため網羅性はない。 工具書●細川重男『後期鎌倉政権における家格秩序の形成と得宗専制体制』(細川氏の博士論文。のち細川『鎌倉政権得宗専制論』吉川弘文館、2000) ・「鎌倉政権上級職員表〔基礎表〕」 ・「寄合関係基本史料」 ●石井良助『中世武家不動産訴訟法の研究』弘文堂書房、1938 ●佐藤進一『鎌倉幕府訴訟制度の研究』畝傍書房、1943 ●佐藤進一『増訂 鎌倉幕府守護制度の研究』東京大

    • NDLデジコレ個人送信等で閲覧可能な雑誌(日本中世史)

      年初に大幅アップデートがなされた国立国会図書館デジタルコレクションであるが、個人送信対象の書籍がいつのまにか館内限定になっていて見れず困った、という経験をしたことのある方は多いのではないか。どうやら一度公開された後でも公開を制限する事後除外手続があり、いつ何時制限がかかるかわからないようである(国立国会図書館HP)。 国会図書館は月単位で利用状況の統計を出しているが、たとえば今年10月のものを見ると『九州史学』が20件複写されており、もしかしたら次は…と不安にならないでもな

      • 2019年東京大学第1問(年中行事の整備と上級貴族の日記)

        【設問の要求】 A:摂関期の上級貴族に求められた能力 B:摂関期に上級貴族によって『御堂関白記』や『小右記』などの日記が書かれた目的 【資料文の整理】 (1)9世紀後半以降、朝廷の政務・儀式が「年中行事」として整備される。あらゆる政務・儀式の細部に先例が蓄積される。 (2)年中行事は上卿(上級貴族が担当。地位により担当可能な行事が異なる)の指揮下で実施。 (3)藤原顕光は「前例」に違う運営を行い、上卿として無能と評された。 (4)藤原実資は祖父実頼の日記を継承し、自身

        • 2020年東京大学第1問(漢字の普及と律令国家)

          【設問の要求】 A:都城・地方官衙から出土する8世紀の木簡に『千字文』や『論語』の文章の一部が多くみられる理由 →官人がなぜ『千字文』や『論語』を書きつけたのかを考える。 B:中国から毛筆による書が日本列島に定着する過程において、唐を中心とした東アジアの中で、律令国家や天皇家が果たした役割 →「具体的に」という条件があるので、事例の範囲は資料文に限定し、その意義を説明できるようにする。 【資料文の整理】 (1)百済から『千字文』・『論語』が倭国に伝来 →『千字文』は

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        NDLデジコレ所収の中世史研究工具書ほか

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        • 東大日本史(古代)
          9本
        • 東大日本史(中世)
          1本

        記事

          2021年東京大学第1問(9世紀後半における皇位継承・政務の安定化の背景)

          【設問の要求】 ・皇位継承をめぐる紛争がなくなり、「安定した体制」となった背景にある「変化」を説明 →何が「安定」したのかは必ずしも明示されていないが、(1)(2)より皇位継承方式の安定化、(3)~(5)より政務運営の安定化、の2点を読み取る。 【資料文の整理】 (1)承和の変以降、皇位継承方式は直系継承になる …桓武以降、平城・嵯峨・淳和の兄弟間継承がなされたことを想起したい。 (2)天皇個人の判断で有能な文人官僚を抜擢。承和の変の背景には、淳和派の官人排斥があった

          2021年東京大学第1問(9世紀後半における皇位継承・政務の安定化の背景)

          摂関政治の前提について

           東大2021年第1問を解くにあたり、そもそも摂関政治とは何であるか、その前提条件とは何か、を確認しておく必要があると考え、本記事を作成した。各社教科書における摂関政治の説明と、通史類にみえる摂関政治の前提条件をみていく。 【教科書における摂関政治の説明】 手許にある詳説探究・実教探究・新日本史(一般向け上下巻版)を参照した。  詳説日本史・実教探究では、摂関政治の定義を摂関が政権を掌握した時期とした上で、政務の運営方式を〈太政官の審議→天皇(もしくは摂政)の決裁→文書

          摂関政治の前提について

          2023年東京大学第1問(古代の国家的造営工事と国家財政・地方支配の関係)

          【設問の要求】 ①「国家的造営工事のあり方」の変化について、 ②「国家財政とそれを支える地方支配との関係を反映」させて説明する。 ➂ただし、律令制期、摂関期、院政期の三期に時期区分する。 【資料文の整理】 (1)律令制期:仕丁(労役)と雇夫(庸を財源に労働者を雇用)により工事遂行  →律令制期の国家的造営工事の費用負担者は公民 (2)平安初期:仕丁の不足と雇夫への依存  →律令税制の動揺を示唆 (3)摂関期:中央官司と受領に工事を割当て、以後定例化  →摂関期の国家的

          2023年東京大学第1問(古代の国家的造営工事と国家財政・地方支配の関係)

          2022年東京大学第2問(朝廷の経済基盤)

          【設問の要求】  メインの要求は、「⑸に述べる3代の天皇が譲位を果たせなかったのはなぜか」である。これについて、「鎌倉時代以来の朝廷の経済基盤をめぐる状況の変化と,それに関する室町幕府の対応」に触れながら解答を作成することが求められている。一般に、中世は院政が基本形態であるから、譲位は  A:新上皇の誕生  B:新天皇の即位 の二つを伴う。A・Bがそれぞれいかなる経済的基盤を必要としたのかに注意して、資料文を読んでいこう。 【資料文の整理】 (1)鎌倉期の上皇の生活は、

          2022年東京大学第2問(朝廷の経済基盤)

          【読書メモ】佐藤雄基『御成敗式目』中央公論新社、2023

           佐藤雄基『御成敗式目』を読んで、(元)高校教員的に関心のあるトピック4点につきまとめた。 1新しい権力観  本書では、かつての通俗的権力観(例:鎌倉幕府は朝廷の有する権限を積極的に奪取して強大化した)を相対化する説明が繰り返し現れる(下記の引用を参照)。  こうした権力観は、近年の研究史上のトレンドである。山田徹・谷口雄太・木下竜馬・川口成人『鎌倉幕府と室町幕府 最新研究でわかった実像』(光文社、2022)の第一章「部分的な存在としての鎌倉幕府」(木下竜馬)では、近年

          【読書メモ】佐藤雄基『御成敗式目』中央公論新社、2023

          授業準備に役立つサイトの紹介

          古地図国土地理院 古地図コレクション 国土地理院所蔵の古地図を閲覧可能。 国際日本文化研究センター 所蔵地図データベース 所蔵地図画像を高画質で閲覧可能。 文字資料国立国会図書館デジタルコレクション 今年の大型アップデートで利便性が超強化された。 たとえば『人事興信録』(当時の名士の家族構成・住所・職業などが載ってる個人情報の塊)がフルテキスト検索できるようになったことで、人物史の調査が圧倒的に楽になった。 ●叢書系 『国史大系』、『史料纂集』、『史料大成』、『増補

          授業準備に役立つサイトの紹介

          2022年東京大学日本史第1問

          リード文の分析 (1)文書には「正文」(しょうもん。原本のこと)と「案文」(あんもん。原本と同じ効力を持つ写しのこと。)がある。律令制の文書行政では、中央の指示を正確に地方に伝えることが重要であるから、京で作成された原本が放射状に地方へ送られ、各国の国司が写しを作成して国内で施行した。 たとえば、『江家次第』の改元の項目に、改元詔書の諸国への送達について、「給諸国八枚者謄詔書」(「謄」は「写す」の意)とある。 また、鐘江宏之「計会帳に見える八世紀の文書伝達」『史学雑誌』102

          2022年東京大学日本史第1問

          律令制と帝国構造

           律令編纂の意義について、大津透『律令国家と隋唐文明』(岩波新書、2020)はこう述べる。 帝国構造と蝦夷  帝国構造と蝦夷の関係については、東京大学2017年第1問Aが参考になる。解答すべき内容として、律令国家が蝦夷を「異民族」として位置づけ、服属させようとしたことは見やすい。では、その逆ベクトルの内容、すなわち蝦夷から律令国家に対して何が行われていたかを指摘できるだろうか。  (4)の砂金・昆布・馬などの東北の物産が貴族に珍重されたことから、これらが「異民族」たる蝦夷

          律令制と帝国構造

          共通テスト2023の撰銭令の問題について

          共通テスト2023年の撰銭令に関する史料問題の正答率が極端に低かったらしい。史学科出身者は「書いてある通りのことしか聞いてないじゃん」と思い、受験生(と一部業界人)は「そんなこと書いてないじゃん」「知識ゲーじゃないか」と思ってしまう、このギャップは何故生まれるのか。今後の史料問題対策を考える意味でも、簡単に整理してみよう。 史料文の確認 問題文中で提示された史料1・2の典拠を確認しよう。史料1は室町幕府の追加法で、『中世法制史料集 第二巻 室町幕府法』の追加法第320条が

          共通テスト2023の撰銭令の問題について

          【補講③】近代の経済の概観

           三谷太一郎『日本の近代とは何であったか―問題史的考察』(岩波新書、2017)という新書があります。本書の整理によりつつ、近代の政治を整理・区分してみましょう。 経済史の整理 ①自立的資本主義  不平等条約下で関税自主権を欠いた日本は、外資に依存せずに資本主義化を進めていくしかありませんでした。そのために行ったのが、 ・国家主導の先進技術の導入(官営工場の設立) ・安定的な租税制度の導入(地租改正) ・質の高い労働力を生み出す公教育制度の確立(義務教育) ・資本の蓄積を妨げ

          【補講③】近代の経済の概観

          【補講④】戦後の産業の概観

          戦後の産業を第一次産業・第二次産業・第三次産業に区分して整理しましょう。 ①第一次産業  農業部門では、占領期の農地改革とともに、1942年制定の食糧管理法(米・麦など主要食糧を政府が生産者から直接買い上げ、消費者に配給する)が重要で、同法により生産者米価(政府の買い上げ価格)は公定されました。高度成長期に入ると、都市労働者の賃金上昇に対して生産者米価が停滞したため、米価引き上げ要求が農家から出ます。政府はこの声に応えますが、1963年以降、売渡価格(消費者が購入する時の価

          【補講④】戦後の産業の概観

          【補講②】近代の政治の概観

           三谷太一郎『日本の近代とは何であったか―問題史的考察』(岩波新書、2017)という新書があります。本書の整理によりつつ、近代の政治を整理・区分してみましょう。 政治史の整理 ①藩閥  新政府の権力を掌握したのは、薩長を中心とする戊辰戦争で活躍した雄藩でした。彼ら藩閥に対して、権力から疎外された板垣退助(明治六年の政変)や大隈重信(明治十四年の政変)らは、自由民権運動を展開して権力への再接近を試みます。彼らの運動は結果的に大日本帝国憲法の制定を促し、衆議院を舞台に藩閥政府v

          【補講②】近代の政治の概観