【補講③】近代の経済の概観

 三谷太一郎『日本の近代とは何であったか―問題史的考察』(岩波新書、2017)という新書があります。本書の整理によりつつ、近代の政治を整理・区分してみましょう。

大雑把な見取図。各自増補すべし。

経済史の整理
①自立的資本主義
 不平等条約下で関税自主権を欠いた日本は、外資に依存せずに資本主義化を進めていくしかありませんでした。そのために行ったのが、
・国家主導の先進技術の導入(官営工場の設立)
・安定的な租税制度の導入(地租改正)
・質の高い労働力を生み出す公教育制度の確立(義務教育)
・資本の蓄積を妨げる対外戦争の回避
です。大久保利通の路線は松方正義に継承され、彼の財政の下で日本の産業革命の条件が整備されました。

②国際的資本主義
 ①の前提であった不平等条約が漸次改正される中で、日本は日清戦争・日露戦争で外債を募集します。さらに金本位制の確立が外資導入を容易にしました。こうして日本は外債への依存度を急速に高めていきますが、それは日本が「一等国」となり、列強を中心とする国際金融ネットワークに包摂される過程でもありました。そこで活躍したのが高橋是清に抜擢された井上準之助で、ワシントン体制下の経済外交をリードしました。たとえば東洋拓殖会社社債や、関東大震災からの復興のための政府公債が米英銀行団によって引受発行されました。こうした国際金融資本とのつながりは金本位制の維持を前提としており、そのために井上は緊縮財政金解禁を断行します。1920年代の軍縮は、世界大戦後の国際的な反戦機運の高まりだけでなく、当時の国際金融資本が要請したものでもありました。その井上が暗殺され、金本位制からの離脱と世界的な自由貿易の収縮というこれまでの世界経済の条件が破綻すると、経済ナショナリズムに基づいた③への移行を余儀なくされます。

③国家資本主義
 世界恐慌下で日本経済を立て直すために高橋是清が採用した財政政策は、公共事業費や軍事費の増大を特徴とします。高橋は明治初期の国家主導による積極財政への回帰を目指したといえますが、この路線は二・二六事件で高橋が斃れると破綻し、戦争体制に従属する資本主義への変質を迫られます。

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