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球児の母歴20年、100%文化系の私が3年前に思った「野球界、このままで大丈夫?」

今から3年前のできごと

「私の思いとここに至る経緯」を書いたのは今から3年前です。
WBCや今年の夏の甲子園を見るに、この3年でだんだん野球界も変わってきている気がしています。

私の長男は小2から高校まで、次男は小1から大学まで野球をやりました。
その間、超文化系人間の私が、今まで知らなかったスポーツのドキドキや勝利の歓喜、敗戦の悔しさを、ほとんど当事者として感じさせてもらえたのは息子たちのおかげ、野球のおかげです。
私たち親子は何度も野球に救われてきました。
だからこそ、旧態依然とした野球界に対して「このままで大丈夫なのかな」と思い、同じ思いを抱いていた高校の監督とワークショップを始めました。

野球部に対して漠然と抱いていた不安が一昨年くらいから現実のものとなり、「私も野球に楽しませてもらった元球児の母としてなんとかしたい」と思っていました。
清泉短大でコミュニケーションのグループワークに演劇の手法を用いたワークを取り入れはじめたのをきっかけにファシリテーションやワークショップデザインを学び、「これなら野球部の選手たちに応用できるかも」というところまで来ています。
添付ファイルにて私の思いやここに至る経緯とプログラムの提案をしましたが、まずは選手の皆さんに自由に話し合ってもらう対話型のワークショップからでもいいのではないでしょうか。
私もまだまだ手探り状態ですので、先生や選手の皆さんと一緒に作り上げていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

先生に宛てた初めてのメール

その先生と一緒に取り組んだワークショップについてはまた別の記事で取り上げるとして、ここでは先生に宛てた初めてのメールに添付した「私の思いやここに至る経緯」について書きます。


私と野球の関わり

  • 体育は常に3(運動は大の苦手。でも野球観戦は好き)

  • ドカベンはセリフを覚えるほど読み込む→野球の知識はここから

  • 中学高校の部活は演劇部(部活の運営はほぼ生徒だけ。顧問の先生の指示がなくとも生徒だけで主体的に取り組み、中学生でもしっかりした劇を上演できることを知っている)

  • 高校では放送委員→高校野球のアナウンスを担当したことも

  • 大学では体育会野球部のオレ様具合にうんざりして、野球部嫌いに

  • アナウンサーとして放送局に就職し、高校野球中継に携わる
    (非公式ではありますが、夏の高校野球地区予選の実況をした初の女性アナウンサーだと聞きました)

  • 結婚し、長男誕生、4年後次男誕生

私は体育会的思考は大嫌いなので、息子たちにそういう思考のチームに入りたいと言われたら嫌だな…と思っていました。
体育会系のあたりまえ(気合い、根性、体罰、理不尽に耐えるなど)を押し付けられるのは苦痛です。
青春の全てを捨てて野球に打ち込むことをヨシとされる風潮があったけれど、私は野球バカでいいはずがないと思っていました。
自分の意思に関わらずみんな坊主とか、納得できる理由を聞いたこともありません。
私は昔から野球が大好きですが、ドカベンのような個性あふれる選手たちがのびのびとプレーし勝ち進む世界観が好きなんです。

そんな私が球児の母になって20年。
自分の考えは都合よく変えていくタイプなので、「まぁ、いいか」を繰り返してなんとか全うしたけれど、折々に「野球界はこのままでいいのかな」とずっと思っていました。

野球に対する不安

不安1

10年ほど前にサッカーのジュニア育成についての講演を聞きました。
サッカーはピッチで選手だけで試合を動かさないといけないので、技術の練習と並行して「自分で考え判断して仲間に伝える」練習を小学生からするとのこと。
一方、バッターボックスに入ったらまず監督のサインを見るようにと指導されている野球少年のわが子たち。これは、将来大きな差になるのではないだろうかと思っていました。

不安2

保護者の入れ込み具合がすごい!親と子は別人格なのに。
野球部の保護者はこうあるべきという同調圧力たるや。親も体育会系。
わが子に野球をやらせたくないのは、お茶当番よりそういう雰囲気が嫌だからなのでは?
私はのらりくらりとやり過ごしてきたけれど、何度も嫌な思いをしました。
そして、その都度Twitterで愚痴ってました。笑

不安3

自分の成功体験をどの選手にも当てはめようとする指導者が多いのではないだろうか。
 選手が人間として成長するための指導が、「言われたことをきっちりこなす」「辛い練習や理不尽に耐える忍耐力を身につける」だけになっていないだろうか。
自分の思いを言葉にして伝えることが「わがまま」「生意気」とされていないだろうか。

不安4

野球やゲーム以外のこと(ほかのスポーツ、自然、アート、文学、音楽など)に接する時間がない青春時代で大丈夫だろうか。
広い視野、豊かな教養は、この先様々な場面で自分を助けるものになると思うけれど…。

ワークショップをやってみた

私が抱いた不安が現実のものとなっている昨今、野球に楽しませてもらった元球児の母として何かできることはないだろうかと、微力ながらささやかな一歩を踏み出したいと思い、野球部向けのワークショップを始めました。
当時同じ思いを抱いていた高校の先生とお話をしたところ、「野球はトップダウンの要素が強いスポーツだからこそ、試合以外の場面で選手同士対話をさせたい」と。
先生は、野球の普及のための子ども向けのイベントをやったり、指導者を集めて勉強会をやったり、ずっと野球部の監督として様々なチャレンジをしてきた方ですが、異動した先の高校では野球部でなくソフトボール部の顧問になりました。
今の女子高生は(私が勤務する短大の学生もそうですが)必要以上に周囲に気を遣い、コミュニケーションに苦手意識のある子が本当に多いのです。
先生も、今まで野球部でやってきたことと同じではダメだと、私にワークショップの依頼をしてくださいました。

半年間そのソフトボール部に関わり、先生から本当に嬉しい感想をいただきました。

草田さんのワークショップに出会って

明らかに「自己開示」の回数?頻度?は多くなっています。特に中学の時にバリバリソフトをやってきた生徒の方がその傾向があります。
「耐え忍ぶ」「怒られるのが当たり前」のような感覚が日本のスポーツ界に はあります。したがって、自分を出してはならないというような呪縛に囚われている生徒が少なくありません。

「自分を知ろう仲間を知ろうゲーム」では自分のことをしっかりと話してくれる生徒が多く、私も自分の失敗談を話すことができ、とても有意義だったと感じます。
全員が同じように「勝ちたい」「強くなりたい」と考えていますが、でもそれを「表現して良いか」「どう表現したら良いか」が彼女たちにはわからない、できないのだと感じます。草田さんが最初に言ってくださった「安心して心の中を話せる環境作り」はこれからも普遍的な目標であり、絶対に必要なことだと感じます。
ワークショップの雰囲気が 「ソフトボールをやるとき」と同じようになることが目標ですが、やはりまだまだです。

大会前にやっていただいた「声かけ分析シート」も大変有効だったと感じています。私はあまり「声を出せ」と言わないようにしていますが、 何処か強制的に出さねばという雰囲気を感じます。しかし、新人戦からは特に「心からの声」が多かったです。「声」というものを分析するという機会はなかなかなく、仲間がどんな声を必要としているかを知る機会であったと思います。私は「型式的な声」は『声』ではなく『音』だと思っていますので、草田さんのアプローチのおかげで、他のチームに はない雰囲気が作れているのは間違いありません。

彼女たちは、草田さんが思うよりも毎回のワークショップを楽しんでいますし、チームの雰囲気は確実に柔らかく、矢印が同じ方向に向くものになっていると思います。

「私のこと、話していいんだ」「みんな、そんなふうに思っているんだ」 が多ければ多いほど、その組織は成熟していくと思います。本当に有益 なワークショップと講師に出会えたことに感謝しています。

先生とソフトボール部の皆さんは、ワークショップデザイナーとして歩み始めた当時の私のファーストフォロワーです。
本当に感謝しています。

参考

野球部出身の若手社長の言葉

今勢いのある企業の経営者は、「同じ大学体育会でも野球部は指示待ち人間が多いから取らない。自分で考えて仲間とコミュニケーションしながら仕事をデザインできるサッカー、バスケット、ラグビー部の学生を取る」と一様に言う。

野球部出身の若手社長と川崎宗則選手のトークショーより

ノーサイン野球は可能か 弘前学院聖愛の能動的プレー

2001年の創部時から率いる原田監督は43歳。ノーサイン野球を始めたのは5年ほど前だ。経営者向けの講演会で「これからの時代、一球一球、上司の顔色をうかがうような野球型の人間ではダメ」と聞かされ、「頭を金づちでたたかれたようでした」。
8年ぶりの夏の甲子園。敗戦後、言った。
「野球は無数の状況判断がある。監督が生徒の判断にふたをするのでなく、考えさせる。野球を通じた人間育成をしていきたい」
勝利だけをめざすなら、監督がサインを出した方が話は早いだろう。監督と選手の意思が通い合う成熟したチームを高校野球の2年半でつくれるかもわからない。コロナ禍で実戦機会が激減した今夏はなおさらだ。 それでも原田監督は選手の能動的なプレーに期待した。
自分で考え続けた時間が選手の将来への力になると、私も信じたい。
                              坂名信行

2021年8月21日朝日新聞

「子どもにどんなスポーツをさせるべきか」為末大氏の答えより抜粋

スポーツは大きく分けて「1演技系」「2対戦系」「3重さ・タイム系」「4チーム系」の4 種。(野球は「4チーム系」) 「4チーム系」は役割分担で結果を出すので、組織で力を発揮するスキルが磨かれます。
ただ チーム競技の中でも、ゲーム中の監督の権限が大きい競技と小さい競技に分かれていて、大きい競技ではフォロワーシップが育まれやすく、小さい競技はリーダーシップが育ちやすい、というのが僕の分析です。
前者には野球が当てはまりますが、競技人口の多い割に、野球経験のある経営者は意外と少ないですよね。
一方、後者に当てはまるラグビーやアメフトをやっていた経営者は実に多い。そんな違いがあります。
ただ、野球には個人競技的な要素も強くて、ピッチャーがたった1人で勝利を決めることもできたり、打順が平等に回ったりと、個人プレーの力を磨きやすい競技でもあります。

日経ビジネス「僕らの子育て」

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