義理歩兵自伝(11)

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夢をつかみかけたところから一夜にして家もお金も失い、
泣く暇もなく逃げるのみ、
ただただ無抵抗にそれを受け入れるしかなかったあの状況は

記憶の辞書を引いてみると

「激しく揺れる舟の上で無情になだれ込み続ける筋肉質の水流に抗う術なく
伏せた身を転がされながら嵐が止むのをただ祈っているようなコントロール不可のありさま」

と難解に解説される、

ちょうど「洗濯機に放り込まれた布切れになったようなイメージ」で身体に残っています。

あの身体の感覚を簡潔に表すならば、

なんか溺れたときみたいな、だ~ず~げ~で~~って感じでしたねw

と書くことができますねw
 

 
所属する藩も君主も持たない向かう先のない捨て駒、つまりは歩兵ですらなくなってしまったただの義理浪士と大卒浪士、
そして最大の長所である頬の赤みを失ってしまったホオジロ、この
 
無職・住所不定の成人男女三名はその後、
 
親類に一時的に荷物や身の置き場所を頼るなり、
利用できる公的な弁護士に何度も会いに行って相談するなり、
自己破産や免責のプロセスを辿るなり、
逃げてきた実家に何度も夜中に忍び戻ってはそれに必要なものを取り戻すなり、
大卒浪士の父に保証人に立ってもらって借家を借りるなり、
ホオジロとグルメ官能のアパートを借りるなり、
おいなり、えなり、この胸の高鳴り、かなりかなり奔走して、
 

布切れの自分たちを弄び続ける洗濯機の脱水ボタンを叩き押して
ラストの遠心力の磔に耐えながら目の回るような忙しさを走りきって

「脱・ホームレス」に成功し、

ペッタンコにシワシワに脱水された心で互いに抱き合い、
陽の光の下に戻る前にその心にわずかに残った水分をスポイトで吸い取るようにしてようやく、それを涙にして流すことができました。

義理浪士「なんとがなったな、、、んだども・・・なんちゅう宿命だべな・・・・・」

ホオジロ「ほんとだな、、なんのバヂ当だってこうなったべな、、、、」

この「宿命」という言葉を、あなたはどの音で読むでしょうか。
この読み方によって、日本人を2つのタイプに分けることができます。

日本人には、この言葉を「しゅくめい」と読む人と、「さだめ」と読む人がいるのです。

前者の「しゅくめい」と読む人は、真面目できちんとしていて敏感で賢いタイプ。感情に流されすぎずに自分を保つことができるため安定した頼りがいがあり、冷静な自分を常にどこかに持っていられる人です。漢字の読み方に感情を持ち込まず、定められた読み方通りに読みます。

後者の「さだめ」と読む人は、鈍感で自分が不真面目であることにも気が付きにくい、おっちょこちょいなタイプ。感情に流されやすく、熱しやすく冷めやすく、冷静でいることへの憧れが強いが、根本的にそうあることのできない人です。演歌などから流れてくる歌詞そのままに、気分に流されて読み方を覚えてしまいます。
 
前者は「流行」を「りゅうこう」、「運命」を「うんめい」、「父親」を「ちちおや」、と読みます。
後者はそれぞれを、「はやり」、「さだめ」、「おやじ」、と読みます。

(ちなみに、「流行」を「ながれ」と読まれる方は、故・俳優萩原流行氏の熱烈なファンだと思われます。)
 
義理浪士は、読者のすべての方が見抜いておられるようにバリバリの後者なため、上記の発言も、さだめ、と言ったのでした。 

そして義理浪士には、直後にホオジロの言った「何のバチが当たって・・」という言葉に、確信的に思い当たることがありました。
 
働いていたクラブを辞めたいと幹部に告げ出勤をやめたその初日、義理浪士のいないお店にはたった二人のお客さんしか訪れなかったということでした。
結局お店はその後も閑古鳥が続き、

そのまま閉店に追いやられてしまったのだとボーイさんから聞いていたのです。
 
義理浪士が面接に行った当時、お店は35年の歴史を誇る老舗中の老舗で、様々な困難を乗り越えて生き残ってきた昔ながらの高級クラブでした。
そこに突然自分が入店して、まるでイナゴのようにそこの米を食い尽くして飛び去り、お店は無残にも死に追いやられたのでした。
 
義理浪士は思いました。
自分は、お店を繁栄させることができたのではなく、お店を利用して自分が稼いだだけだったのだ。
Jr.がっぱや藤岡揚げ、首固定、白魚長、それからなにより他のホステスさんたちとお客さんとをつないでいき、お店を楽しい場所にする、ということができなかったのだ・・・
自分が辞めたあとにお店がもっと盛り上がるための歯車になったのではなく、自分がトップのポジションを得ることのみを達成して去ったのだ。
そのバチが当たって、自分にもこんなことが起こったのだ・・・

お地蔵さんにおしっこをかけることはできない。キリストの顔を描いた絵を踏みつけることはできない。
私はそれらとまったく同じ種類の信念をもって、その罪悪感とこの状況を関連付けて考え、
「あれが原因となってバチが当たったのだ・・・!」と拳を震わせて強く信じ込みました。
 
このため義理浪士の家族への義理負い精神は、元々の大きさの二乗となってしまいました。

「自分の義理は、多額の借金のように雪だるま式に膨れ上がっていく・・まったく返すことができていない!!今後はさらに気合を入れて生きていかなくては・・・・!」
 

 
このホムレシ期の間、私たちの手の内には一枚のカードが残してありました。
それを洗濯機に放り込まれている間も、手放さなかったのです。

夜逃げの晩に皺くちゃに詰め込んで持ち出した、アロハの試作品。
これが義理浪士と大卒浪士の、唯一の望みの綱でした。

 
 
借家に住むようになる前、まだホームレスのままの状態で、私はスポンサーに会いに行き、別の柄の試作品を見せたり、商品化の話を進めていました。
売れるものなのか、実際に商品になるのか、そんなことはわからなくとも、とにかく鼻息のみを荒げて縫製方法を図にしたり、洗濯表示の記載方法を勉強したりして地道に準備をしていました。
 
借家に住んでからも変わらずそれを続けていましたが、その間に義理浪士が戦っていたのは、他でもない「ハッタリをかます恐怖」でした。

義理浪士には、手先がとても器用であるという自負以外に、服飾関係の仕事に携わるための自信になる要素など、皆無だったのです。
プロのパタンナーさんに型紙をお願いする際の指示書や縫製会社への指示書を作成する際も、お絵描き用紙(100円均一ショップにて調達)、鉛筆、消しゴム、のみで無知識のまま取り掛かろうとして、あまりに無謀で自分が世界一のアホに思えるのでした。
 
そして指示書を持って彼らに会いに行き、いろいろ専門的な質問をされてもハッタリで返答し、「あ~はい、そこはそれでやってもらっちゃっていいですよ♪」などとわかったフリをして、ヒヤヒヤしながら切り抜けていました。

服飾専門学校を出たプロのパタンナーさんや縫製会社に向けて細かい仕様を指示するというのは、毎回がミッション・インポッシブルだったため、プチ健様に酔う設定を一時的に「イーサン・ハント」氏に変更し、

「無知識をハッタリでごまかす崖っぷちの貧乏人」を「危機を乗り越える最高にクールな俺」に見ていく方向で酔っていかないとやっていられませんでした。
ニート時代に、ケンカに弱いヤンキーがハッタリのみでのし上がっていくという漫画「カメレオン」を読んでいなければ越えられぬ壁でした。

 
そしていよいよ、販売ホームページ用のモデル撮影を行うところまでたどり着いた義理浪士は、各モデルエージェンシーに条件を伝えて、該当するモデルたちのデータを送ってもらい、何百人にも及ぶモデルの中から男性一人、女性一人を選び出す作業に取り掛かりました。

モデルの選出後、なにかやっとのことでひと段落したような気になった義理浪士は、それを報告した際のスポンサーの一言で凍りつきました。

「撮影時の監督、用意できるよね?カメラマンとヘアメイクさんとモデルに指示する人が必要だから。それ、できるの?」

監督・・・・・!監督だと??どうやって用意するんだそんなもの!
 
「ヘアメイクさんは有名人のヘアを担当しているすごい人だからね」
 
 
・・・・・・・・!!!!!!!
どうするんだ、どうするんだどうするんだこの場の返事は・・・・・
いくらカメレオンを読んだからといって、いくら今は一時的にイーサン・ハントだからといって、ここで撮影監督をやれるなどと言うのは、あまりにも行き過ぎたハッタリじゃないのか・・・?
まさに・・・まさにミッション・インポッシブル・・・帰りに紀伊国屋書店に寄ったとしても、「スラスラわかる・かんたん撮影監督入門」などという書籍とは出会える気すらしねぇ!!
 
しかししかし、いつまでも黙っているわけにもいかない、このメッセージは5秒後には爆発するかもしれないじゃないか・・・・!
 

「じゃっじゃあ監督は私ということで!」
 

 
むわああああああああああああ言ってしまった言ってしまった言ってしまったーーーーーーー!!
自分で!自分でやんのかい!
観音様よ、あんた俺をどこまで追い込めば気が済むんだこのばかやろこのやろ!!

この時義理浪士に襲いかかったあの体感を簡単に説明すると、
 
 

なんか溺れたときみたいな、だ~ず~げ~で~~って感じでしたねw

と書くことができますねw
 
 
 
ってうまいこと言ってんじゃね!!笑い事じゃねんだったば!当日、一体なんとするんだ!!
 
 
 
次回はこのハント氏のミッションのゆくえと、
その後にアロハのビジネスに起こった、小さな奇跡と大きな悲しみ、の顛末をお届けします!

つづく!!!

毎日無料で書いておりますが、お布施を送っていただくと本当に喜びます。愛と感謝の念を送りつけます。(笑)