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あの日、あの時、あの場所で。


今から話すのは、私の身に起きた本当のお話。

十年以上前のことになるけれど、猛勉強の末、行きたかった大学に無事合格。

「たくさん友達できるといいな~。授業楽しみだな~。」

夢のキャンパスライフが始まった。

少しずつ新しい生活にも慣れてきた頃、大学で懇親会が開かれることになった。

懇親会と言っても、授業の時間を使って、同じクラスになった人と仲良くなれるように、先生が企画してくれた会だった。

「自己紹介も終わったから、あとは自由に会話してくれていいよ~。」

先生がみんなにそう呼びかけた。 

それを聞いた私は誰よりも早く、イケメンのBくんのところに向かうことにした。

Bくんとは、授業が始まる前に大学内ですでに出会っていて、お互いのことは認識している間柄だった。

Bくんのところに行くと、「お!みいちゃろ!同じクラスやな!」なんて言って迎え入れてくれた。

心が躍る。嬉しい。

誰もこの間に入ってきてほしくない。二人だけで話したい。

そう思っていた。

でも、すぐに…

「よかったら、俺も入っていい?」

自分の椅子をわざわざ持ってきて、Bくんの横に座り始めた男子がいた。

「え…誰???(心の声)」

見るとそこには、可愛らしい顔をしたAくんがいた。

今まで、Bくんのことしか視界に入っていなかったからか、Aくんが同じクラスにいたことに全く気付いていなかった。

「うん、一緒に話そ話そ!」

そんなことを言いつつも、イケメンのBくんが気になる私。

話していくうちに、三人とも共通して好きなのが野球観戦だということが分かった。

「よかったら、アドレス教えてよ。」

話の流れから、みんなで連絡先を交換することになった。

懇親会が終わった後、Aくんからすぐに連絡が来た。

今となっては全然覚えていないのだけれど、Aくんが言うには、「今度ご飯でも行こうよ。」と誘ってくれていたらしい。

私はというと、その誘いをスルーして当たり障りのない返信をしていたようだった。

でも、その後はなんだかんだで、イケメンのBくんよりもAくんとの方が波長が合って、会話することが増えていった。

結局、大学を卒業するまで、Aくんとは同じグループで仲良くすることになった。

グループのメンバーで集まって、野球観戦に行ったり、鍋パーティーをしたり…

親睦を深めていった。


大学四年生になった、ある日、Aくんと教室に残って勉強する機会があった。

「今日の授業、難しかったな〜。あの理論って、どう解釈したらいいんやろ。」

「たぶん、こういうことちゃうかな…」

いつもと変わらず、真面目な時間が流れていた。

外を見ると、日が落ちてすっかり暗くなっていた。

「もうそろそろ帰ろうかな。」

私が帰ろうとすると、Aくんが話したいことがあるからと私を引き止めた。

「初めて見た時からずっと好きやった。俺と結婚してほしい。」

急にそう言われた。

Aくんの顔は、いつになく真剣だった。

でも、全く信じられなかった。

今までそんな素振りを見せられたことがなかったからだ。

「冗談は止めてよ。嘘やろ。」とAくんにひたすら抵抗した。

今でも、その時のAくんの顔がかなり戸惑っていたことを覚えている。

「ほんまやから信じてよ!お願いやから!」

一時間ほどかけて繰り返し説得されたことで、状況を飲み込んだ私は、その熱意に心打たれたて、Aくんとお付き合いする道を選ぶことになった。

お付き合いしてからのAくんは、今までよりもなんだか楽しそうだった。

二人ともお笑いが大好きなのもあって、ボケたりツッコんだりするからだろうか。

周りの友達からは「なんか夫婦漫才してるみたいやな。」なんて言われるようになっていた。

そして、お付き合いを始めてから、数年の月日が流れた頃、私たちは晴れて結婚することになった。

きっとこれから穏やかな結婚生活が始まるんだろう。そう思っていた。

でも、結婚生活は想像していたよりも大変だった。

Aくんがコロナに関わる仕事をしているからだ。

「今日も忙しくて帰れそうにない。本当にごめんよ。」

コロナの状況が悪くなるにつれて、Aくんとは文字でのやりとりばかりになり、会えない日が続くようになっていった。

そんな時、Aくんから、首のあたりに腫瘍が見つかったことを聞かされた。

本当に突然の出来事だった。

腫瘍ができた原因は分からない。

深夜まで残業する日が続いていたから、もしかしたらそのことが影響したのかもしれない。

病院に行くと、「腫瘍を摘出して病理検査に出さないと、良性なのか悪性なのかはっきりと分かりません。」と主治医から話しがあった。

また、首には神経がたくさんあって、手術中に神経を傷つけることがあるかもしれないこと、顔に麻痺が残る可能性があることも聞いた。

悪性だった時に手遅れにならないよう、二人で話し合って、腫瘍を摘出することになった。

コロナ禍での入院。首の手術だから、全身麻酔が必要。

初めて経験することが一気に襲ってきて、私は耐えられなかった。

でも、「毎日働かずに寝れるから、めっちゃ楽しみ。早く入院したいわ。あはは!」とAくんは楽しそうにしていた。

私は、戸惑った。

Aくんとは、病気に対する感覚がまるで違っていたからだ。

でも、だからこそここまで仲良くやって来れているのかもしれないとも思った。


手術当日、私は仕事だった。

忙しい職場で働いているから、上司に話をつけて少しの時間だけお休みをもらうことにした。

病院に到着すると、すぐに待合室に通された。

待合室内には、すでに五人ほどの人が座っていた。

コロナ禍で付き添いは一名までとされているから、みんな静かに一人で待っているようだった。

お腹のぐうの音が響きそうなほど、張り詰めた空気が漂っていた。

「早く来てください!もう赤ちゃんが生まれます!」なんて急に呼ばれて走って出ていく人、待ちくたびれて部屋から出て行ってしまう人…

私はいつ呼ばれるんだろう。

テレビドラマを見ているとよく手術室の前で家族が待っていたりするけれど、こんな気持ちなのかな。

そんなことを考えて、ただひたすら待っていた。

「ご主人、もうすぐ出て来られますから、こちらへどうぞ。」

しばらくすると、看護師さんが私のところにやってきて、待合室から出るよう促した。

ほどなくして、手術室から先生が現れた。

「手術、成功しましたよ。神経も傷つきませんでした。大丈夫でしたよ。」

全身から力が抜けていくのを感じた。

先生の後ろからベッドがやってきた。

そこには酸素マスクを装着された、Aくんが横たわっていた。

Aくんの目はかすかに開いているけれど、よく見ると、ぐるぐると黒目が移動していて、意識が朦朧としているようだった。

「来てくれたんやね…。ありがとう…。」

酸素マスクをしているからか、Aくんの声には力がなかった。

「当たり前やん…。頑張ったね。」

話したいことがいっぱい溢れてきて、どう声をかけたらいいのか正直、分からなかった。

当たり障りのない言葉しか出てこない私を見て、Aくんは微笑んでいた。

数分間の対面を果たした後、病棟に運ばれていく、Aくん。

コロナ禍だから面会は禁止。だから、Aくんとは退院するまで会えない。

先生から手術の詳しい話や退院日のことを聞いて、帰ることにした。


駅まで歩いている最中、「そうだ、無事に手術が終わったことをお義母さんに連絡しよう。」

そう思って、スマホを数時間ぶりに開いた。

待ち受けに表示されている日付と時間を眺めた。

「え…今日ってもしかして…」

紛れもなく、今日はAくんと付き合った記念日だった。

お互い忙しすぎて忘れていたけれど、とてもとても大切な日だったことを思い出した。

そして、歩きながら泣いている自分がいた。

何の涙かは、はっきりとは分からない。

ただ、今まで流したことがない涙だったように思う。


入院期間が終了し、退院の日がついにやってきた。

病院に迎えに行くと、ロビーにAくんがいた。

「迎えに来てくれてありがとう。やっと会えたね!」

Aくんはとても喜んでいるようだった。

退院後は自宅で療養して安静に努めた、Aくん。

体力が徐々に回復していったことや、病理検査の結果が良性だったこともあり、その後、無事に職場復帰を果たすことができた。

入院前と比べると本調子ではなさそうだけれど、今日も元気にコロナ対応にあたっている。


あの時、あの会話をきっかけに私たち二人の人生がスタートした。

Aくんが私に声をかけてくれていなかったら、私たちは付き合うことも結婚することもなかったように思う。

Aくんに病気が見つかったことは、本当に辛い出来事だったけれど、この経験があったことで夫婦の絆がさらに深まったように感じている。

これからも色々なことがあるだろうけれど、何が起きても二人で力を合わせて乗り越えていけたらいいな。

きっと私たちは最強のコンビだと思うから。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

以上、みいちゃろでした!

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