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『人間関係にあらわれる未知なるもの―身体・夢・地球をつなぐ心理療法』ノート

アーノルド・ミンデル 藤崎亜矢子訳

日本教文社刊

 

 この著者の本を初めて読んだ。フロイトやユング、河合隼雄ら精神分析家や心理療法家との共通の術語もあるが、ミンデルはさらにそれらを発展させ、より人間の心理に迫ろうとするための新しい術語を使っており、その理解に時間がかかったが、多くの示唆に富む内容であった。

 因みに河合隼雄はご存じの通り、ユング派の心理療法家であり、私は彼の全集ほかほとんどの著作を読んでおり、いつかnoteに書きたいと思いながら、まだ手が出せないでいる。

 ユングは西洋の二元論の限界を乗り越え、様々な概念を提示したが、その一つが人類の「共通無意識」であり、「心身一如」であり、「シンクロニシティ(共時性)」であった。

 ミンデルは、この「共通無意識」の考えと「心身一如」を発展的に統合したものを「グローバル・ドリームボディ」と名付けている。「アントロポス理論」は、「汎神論」や「ガイア仮説」を統合した概念のように理解した。

 また「関係性」は、全ての出来事(人間的関係も含め)は「縁起」により生起されるという仏教的概念とほぼ同じ考えである。

 ダブルシグナル、一次・二次メッセージ、エッジという概念については、私は初めて聞いた。面白い考えである。

  いま挙げたいくつかの概念について、著者があげている分かりやすい一例を紹介する。

 著者の息子があるゲームに夢中になっているが、しばらくすると何かに気を取られて、集中できなくなる。彼は足を不規則に動かすが、何をしようとしているのかわからない。そしてとうとうゲームを止めて立ち上がり、トイレに走って行く。トイレに行くことと遊ぶことが葛藤状態にあったのだ。この子は遊ぶことには同一化しているが、おしっこをしたいという身体感覚には同一化していなかった。彼の意図(一次プロセス=遊ぶこと)と二次プロセス(トイレに行きたいという感覚)は一致しておらず、ダブルシグナルを発していたと著者はみる。このダブルシグナル、すなわち相反する二つのシグナルがあるということは、そこには一次・二次プロセスをさえぎる障壁(=エッジ)があるという。

 エッジは二次プロセスのメッセージをさえぎる。ダブルシグナルのメッセージは、一次プロセスと同一化している自我と反目するので、アイデンティティの危機をもたらすというのだ。そしてエッジは、自分が誰であるか、誰であるべきかについて定義付けし、意識の境界を形成する。すなわちエッジはその人の自己概念、根深い信念、人生哲学と常に関連していると観る。

 これは子どもの例であったが、〝エッジと信念〟〝エッジと夢〟〝エッジと病〟という括りで、牧師の妻の例、あるカップルの例、ある夫婦の例を取り上げられている。

 本の後半で、ミンデルがセラピストとしてクライアント(家族やカップル)に接している具体例が多く載っており、興味深く読んだ。

 人間の存在やその心理は多面的で、重層的かつ海に浮かぶ氷山のように無意識領域が大きく深く広がっていることがあらためて理解できた。人間というのは、なんと面倒な生き物なのかと言うのが実感であった。
『ものぐさ精神分析』等の著作で有名な心理学者の岸田秀ではないが、人間は〝本能が壊れている〟からこんな厄介な生き物になったのだろうと思う。

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