佐原耕太郎

1951年生まれ。若い頃から書籍の制作や校正に携わっていました。いまは永田町近辺での仕…

佐原耕太郎

1951年生まれ。若い頃から書籍の制作や校正に携わっていました。いまは永田町近辺での仕事の合間に、小説らしきものを書きながら、林住期を楽しんでいる男です。車を走らせるのが趣味です。 冬にオープンカーで走るのは実に快適です🛻

最近の記事

『私の身体を生きる』ノート

島本理生、村田沙耶香ほか15人の共著 文藝春秋社 刊  人間は生きている以上、己の身体を意識せざるを得ない。  筆者は数年前、病を得て初めて自分の身体を意識したほど、身体に無頓着であった。だから病を得たのかもしれないが、それまではあまりに身体に無関心すぎたのか、感覚が鈍かったのか、理由はよくわからない。  本屋でこのタイトルを見て、身体を意識した自分に何か得られるものがあるのではないかという思いがあり、目次に何人か読んだことがある作家の名前もあったので、購入して読んだ。

    • 『ことばの番人』ノート

      髙橋秀実 著 集英社インターナショナル 刊  10月11日にこのnoteに書いた『誤植読本』(増補版)に続いて、校正に関して書かれた本を取り上げる。  本屋に行くと、誤植とか校正とかの文字が目について、つい手にとってしまう。  本書は単なる校正や校閲に関する本ではなく、それに携わる人たちに取材し、そのことを機縁として言葉や文字、漢字と日本語の成り立ちと言語としての課題などを考察しており、本居宣長やウィトゲンシュタイン(この本の表記のまま)の言葉に対する考え方なども引用・

      • 『ないもの、あります』ノート

        クラフト・エヴィング商會 著 ちくま文庫    9月13日にnoteにとりあげた『という、はなし』を読んだ方からコメントをいただき、あわせてこの本をご紹介いただいた。 『という、はなし』の著者である吉田篤弘・浩美夫妻が装幀とレイアウトを担当しているこの本の著者は、明治時代に創業したクラフト・エヴィング商會となっている。  ただしこの商會は吉田夫妻のユニット名であり、実在する会社ではない。そしてこの本は〈ないもの、あります〉の看板を掲げているクラフト・エヴィング商會の取

        • 『誤植読本』(増補版)ノート

          高橋輝次 編著 ちくま文庫  私事から書き起こして恐縮だが、筆者は45年ほど前、東京・市ヶ谷にあった日本エディタースクールに通っていた。 ある日、校正の授業でA4一枚のプリントが配られた。10か所の誤りがあるので校正せよとのことであった。既刊本の初校ゲラだったが、書名は覚えていない。  30人ほどいた受講生のなかで、筆者だけが「ヘ」の字の誤植を見つけた。ひらがなであるべき箇所にカタカナの「ヘ」が混じっていたのである。筆者はそれに気づいて〈ひらがな〉と赤を入れ、講師の先生にお

        『私の身体を生きる』ノート

          『厚田村』(上・下)ノート

          松山善三 著 潮出版社 刊  著者は映画監督で脚本家の松山善三である。上巻は1978年6月15日、下巻は同年8月25日に刊行されている。  下巻の裏見返しに、「生身の人間が描かれている。再読! 1978年10月14日」とメモ書きがある。もちろん筆者の字だ。  今回あらためて読んだが、登場人物や物語の展開をまったく覚えておらず、「再読」どころか、初めて読んだ気がした。ガラス扉付きの本棚の奥に収めてあったのだが、天に少し茶色の埃が溜まっていた。              

          『厚田村』(上・下)ノート

          『「本をつくる」という仕事』ノート

          稲泉 連 著 ちくま文庫  この本は、作家や著作者からいただいた原稿を〝本〟という形にする〝本づくり〟に携わる人々へのインタビューをもとにしたノンフィクションである。  いまはほとんどがコンピューターデータでの入稿であり、画面上で版下作りまでやってしまうので、写植に較べて効率的になった。とはいっても画面上でその原稿を整理し、幾度かの校正・校閲をしてゲラ刷りを出して、最終的に赤ペンで細かな直しを入れることは変わりない。  原稿を受け取った編集者の仕事は、まず本の判型をどう

          『「本をつくる」という仕事』ノート

          『アメリカン・ビート1』ノート

          ボブ・グリーン 著 井上一馬 訳 河出文庫  著者のボブ・グリーンは1947年生まれで、わが国でのアメリカン・コラムブームの火付け役となった作家である。  ボブは、高校時代は新聞部に所属し、地元紙のコピーボーイとして働いていた。そして大学在学中には、シカゴ・トリビューン紙の非常勤地方通信員――ストリンガーというそうだ――を務め、新聞学を学んで大学を卒業したあと、シカゴ・サン・タイムズに入社し、そこでのちにニューヨーク・デイリー・ニューズ紙の発行人となったジェイムズ・ホーグ

          『アメリカン・ビート1』ノート

          『という、はなし』ノート

          吉田篤弘 文 フジモトマサル 絵 ちくま文庫  このところ堅い内容の本が続いたので、少しやわらかい本を読んで頭のコリをほぐそうと思い、本を探しに近くの本屋に出かけた。  本棚を端から見ていって、『という、はなし』というタイトルが目についた。表紙の書名の『という、はなし』の文字に続いて、帯に「ってどんな話?」とある。  それぞれの物語に添えられているフジモトマサルの1ページ大のイラストがいい。というか、本を開いて、文章を読む前にイラストをみて気に入って買ったようなも

          『という、はなし』ノート

          『地面師』ノート

          森 功 著 講談社文庫  地面師とは、〈他人の土地を自分のもののように偽って第三者に売り渡す詐欺師〉〈他人の所有地を利用して詐欺を働く者〉と辞書にある。  ただ地面師は、一人でその仕事をするわけではなく、弁護士や司法書士、不動産業者、地主になりすます人間やその手配をする人間、売買代金の動きを複雑にしてその流れを追いにくくするためのトンネル会社、さらにはなりすます人物のための偽造運転免許証やパスポート、健康保険証、不動産の権利証や登記簿謄本などの偽造を専門とする人間などが集ま

          『地面師』ノート

          雨上がりの梓川の流れ

          雨上がりの梓川の流れ

          上高地の清流

          上高地の清流

          『写真が語る満州国』ノート

          太平洋戦争研究会 編著 ちくま新書  編著者の「太平洋戦争研究会」は、1970年に結成された在野の研究者集団である。代表を務める平塚柾緒は60年安保闘争のあと、徳間書店に入社し、戦争に関わる連載の編集者となった。現在は、出版やドキュメンタリー番組に写真を貸し出す「近現代フォトライブラリー」を主宰している戦史研究家である。  この団体は主に日中戦争や太平洋戦争を研究テーマとしており、これまで『満州帝国がよくわかる本』、『東京裁判がよくわかる本』、『日中戦争』、『占領下の日

          『写真が語る満州国』ノート

          『小さき者たちの』ノート

          松村圭一郎著 ミシマ社刊 「歴史の教科書に出てくるのも、英雄や偉人たちばかりだ。皇帝とか、国王とか、将軍とか。でも、そんな歴史に名を残した人たちだけでこの世界を動かしてきたのだろうか。彼らの住むところや着るもの、食べるものは、いったいだれがつくったのか。その『偉業』を可能にし、生活を支えたのはどこのだれなのか。」(P4「はじめに」より)  松村圭一郎は1975年生まれ。エチオピアの農村や中東の都市でフィールドワークを続け、富の所有や分配、貧困と開発援助、海外出稼ぎ、市

          『小さき者たちの』ノート

          『総員起シ』ノート

          吉村 昭著 文春文庫  吉村昭の作品は、これまで『戦艦武蔵』、『零式戦闘機』、『陸奥爆沈』、『深海の使者』、『帰艦セズ』などの戦史小説をはじめ、『ふぉん・しいほるとの娘』、『羆嵐』、『漂流』、『三陸海岸大津波』などを読んできた。  今回取り上げた『総員起シ』は、第二次世界大戦のなかで歴史の中に埋もれてきた出来事を当事者たちに丹念に取材して書き上げた短編小説集である。ここに描かれた事件の公式の記録はほとんど残されておらず、著者の取材がなければ日の目を見なかったものばかりで

          『総員起シ』ノート

          『老いの深み』ノート

          黒井千次著 中公新書  黒井千次は1932年生まれの作家で、いま御年92歳である。  帯には、「必要以上に若く元気でいたいと思わない。かといって慌てて店仕舞いする気もない――」(本文P135より)とある。作者は90歳の大台を超えた自分から見える風景をさまざまな出来事を通して描いている。  作者はこれまで読売新聞夕刊に月に1回、〝現代の老い〟についての文章を書いて20年になるそうだ。書きはじめたのは73歳の頃で、この『老いの深み』は、『老いのかたち』、『老いの味わい

          『老いの深み』ノート

          『密やかな結晶』ノート

          小川洋子著 講談社文庫 新装版  小川洋子の小説を取り上げたのはこれで2冊目だ。  以前、同じ著者の『人質の朗読会』を勧めてくれた友人からこの作品を勧められて読み始めたが、すぐに不思議な物語の中に引き込まれた。  読み進めていくうちに筆者(私)自身がこの小説を読んでどう感じるか確かめたい、言い換えればこの作品から「お前はどう読むのか」と挑戦を受けているように感じた初めての小説だ。  主人公は小説を書くことを生業としている女性。舞台はある島――物語の後半には特急が走る鉄道が

          『密やかな結晶』ノート