佐原耕太郎

1951年生まれ。若い頃から書籍の制作や校正に携わっていました。いまは永田町近辺での仕…

佐原耕太郎

1951年生まれ。若い頃から書籍の制作や校正に携わっていました。いまは永田町近辺での仕事の合間に、小説らしきものを書きながら、林住期を楽しんでいる男です。車を走らせるのが趣味です。 冬にオープンカーで走るのは実に快適です🛻

最近の記事

『危機の外交――岡本行夫自伝』ノート

岡本行夫著 新潮社刊 著者の岡本行夫は元外交官である。外務省では1990年の湾岸戦争当時、北米一課長を務め、退職後は橋本内閣で新設された総理大臣補佐官に就任して沖縄基地問題の解決に奔走し、小泉内閣でも総理大臣補佐官としてイラク復興支援に尽力してきた。その後、外交評論活動やシンクタンク・岡本アソシエイツを設立した。 岡本行夫の活躍は外務省在職中から仄聞していたが、この本を読んで、あらゆる局面でわが国の国益を考えて行動してきた「もの言う官僚」としての印象をますます深

    • 『魂の旅 地球交響曲第三番』ノート

      龍村 仁 著 角川ソフィア文庫  著者の龍村仁は、NHK出身の映画監督である。独立後、ドキュメンタリー映画『地球交響曲(ガイアシンフォニー)』のシリーズを第一番から第六番まで制作している。このシリーズは、全国で220万人の観客を動員したそうだが、筆者は寡聞にしてこの映画のことは知らなかった。  この本は、筆者が星野道夫ファンだということを知っている友人が紹介してくれた。友人も星野道夫ファンで、いわば読書においての同好の士だ。  筆者の本棚を調べてみたら星野の本がほ

      • 『名場面の英語で味わうイギリス小説の傑作』ノート

        斎藤兆史 髙橋和子 共著 NHK出版 「英文読解力をみがく10講」という副題が付いている。  有名なイギリスの小説10編を時代順に取り上げ、その名場面の原文を英文法に則って精読し、原作者の緻密に工夫された表現を理解するためのガイドブックになっている。  取り上げられている作品は、順に『高慢と偏見』(ジェイン・オースティン)、『オリヴァー・トゥイスト』(チェールズ・ディケンズ)、『ジェイン・エア』(シャーロット・ブロンテ)、『嵐が丘』(エミリー・ブロンテ)、『ダーバヴ

        • 『人質の朗読会』ノート

          小川洋子 中公文庫  小川洋子の本はこれまで『博士の愛した数式』しか読んだことがなかったが、この本を友人から勧められて読んだ。  冒頭書かれている事件の発端と経過を読んで脳裏に浮かんだのは、1996年12月にペルーの首都リマで起きた在ペルー日本大使公邸占拠・人質事件であった。この事件の実行犯は、トゥパクアマル(MRTA)という左翼ゲリラ組織であった。翌年の4月に、フジモリ大統領の英断で、ペルー政府軍特殊部隊が突入し、最終的に日本人24人を含む72人の人質が解放されたが、終

        『危機の外交――岡本行夫自伝』ノート

          『磯田道史と日本史を語ろう』ノート

          磯田道史 文春新書  対談集を編むにあたっては、対談の文字起こしをそのまま収録しても、話が噛み合わなかったり、内容の深まりも不十分なことが多いので、それぞれの対談者に反訳を送り、発言者がそれぞれ手を入れる工程があるのが普通である。中には、対談集と銘打ちながら、往復書簡を対談風にしたり、特定のテーマについてそれぞれ勝手に喋った内容を編集して対談風にしたりというものもある。 『達人たちと探る歴史の秘密』という副題が付いたこの本は、江戸時代を専門とする気鋭の学者の磯田道史が

          『磯田道史と日本史を語ろう』ノート

          『大盛り! さだおの丸かじり――とりあえず麵で』ノート

          東海林さだお 文春文庫 誰しも特定の心理状態の時に開きたくなる本があるのかもしれない。  筆者の小学校から大学生までの長い時期は、ジュール・ヴェルヌの『15少年漂流記』であった。子ども向けの抄訳本から全訳本まで、何度読み返したかわからない。どういう心理状態だったかというと、きまって身の回りで何か面倒なことが起こったり、気分がどことなくモヤモヤして試験勉強などに身が入らないときだった。この物語の世界に逃避していたのかもしれない。関連本も含め、このnoteにも二度にわた

          『大盛り! さだおの丸かじり――とりあえず麵で』ノート

          『限界分譲地』ノート

          吉川祐介 朝日新書  30年以上前の話だが、懇談の席でスキー愛好家の友人から、越後湯沢のリゾートマンションを購入し、家族や友人家族を連れて毎年スキーに行っているという話を聞いた。マンション内には温泉大浴場もあり、スポーツジムもありで、ホテルの予約をする必要もないので、いつでもスキーができると自慢していた。一度しかスキーをしたことがない筆者には縁遠い話であった。  その彼も歳を重ね、以前ほどスキーに行かなくなったこともあり、子どもたちも独立して遠隔地に引っ越してしまい、毎月

          『限界分譲地』ノート

          『マルサリス・オン・ミュージックwith小澤征爾』ノート

          LD2枚組 ソニー・ミュージックエンターテインメント  今回取り上げるのは本ではなく、LDという昔のデジタル媒体に記録された『音楽について』という実演付きの講義の記録だ。  LDはレーザーディスクの略称で、大きさは昔のLPレコードとほぼ同じで、アナログレコードのように裏表に記録されている。DVDやBlu-rayに比較して大きくて重く、取扱いに注意を要する。LD専用のプレーヤー(既に製造中止)で再生するのだが、DVDやBlu-rayのように記録することはできない。  今年(

          『マルサリス・オン・ミュージックwith小澤征爾』ノート

          『2000年間で最大の発明は何か』ノート

          ジョン・ブロックマン著 高橋健次訳 草思社刊  この本の初版は西暦2000年1月1日。原題は、『THE GREATEST INVENTIONS OF THE PAST 2000YEARS』である。  著者のジョン・ブロックマンが「エッジ」というサイト(www.edge.org)を開き、彼が招待した人だけが参加している「第三の文化」のメーリングリストに連なる108人の第一線の科学者や思想家、アーティストやジャーナリストなどに、「2000年間で最大の発明は何か、その理由は

          『2000年間で最大の発明は何か』ノート

          『わが朝鮮総連の罪と罰』ノート

          韓光熙 取材構成 野村旗守 文春文庫  はじめに北朝鮮に関する筆者の記憶をいくつか記す。  中学生の頃(1964年頃)のことだが、「千里馬*」という日本人が監督をした映画のポスターを街角でよく見かけ、「チョンリマ」(正式な発音はチョルリマ)という言葉もよく耳にした。熱心に朝鮮語を学んでいる社会科の教師がいて、授業の合間に時々、この北朝鮮の記録映画に触れ、「北朝鮮は地上の楽園だ」という話をしていた記憶がある。 *「千里馬」とは朝鮮の伝説上の馬。翼を持ち、一日に千里を

          『わが朝鮮総連の罪と罰』ノート

          『正欲』ノート

          朝井リョウ 新潮文庫  書名からして難しい。手元の辞書にはない。正しい欲望という意味か。そういうものが果たしてあるのかどうかわからないが……。  本作品の冒頭にあるのは、書き手から読者へのメッセージである。 「世の中に溢れている情報はほぼすべて、小さな河川が合流を繰り返しながら大きな海を成すように、この世界全体がいつの間にか設定している大きなゴールへと収斂されていく」ことに、この書き手は気づいたという。  語学を身につける、能力を上げる、健康になる、などなど――それらの情

          『正欲』ノート

          『無人島のふたり』ノート

          山本文緒著 新潮社刊  友人からこの本を紹介されて、これまで読んだことがなかった作家の作品を、この本を含めて3冊まとめて購入した。  副題は、〈120日以上生きなくちゃ日記〉。作者はある日、膵臓がんで既にステージ4にあるという唐突な宣告を受ける。  標準治療である手術や放射線治療には不適応で、残る道の抗がん剤投与を受けたが、著者は肉体的にも精神的にもそれに耐えられず、在宅医療と緩和ケアを選んだ。この日記を書きはじめた2021年5月24日の翌々日にすでに「うまく死ねますよ

          『無人島のふたり』ノート

          『廃市』ノート

          福永武彦著 小学館刊  書店で久しぶりに福永武彦の名前を見つけた。戦時下の青春を描いた『草の花』や、男女間の苦悩と本質を描いた『死の島』や『海市』などを随分前に読んだことがある。  本を見つけたときに装丁を変えた『海市』なのかなと思って手に取ってよく見ると『廃市』であった。奥付をみたら初版が2017(平成29)年7月16日となっている。福永武彦は随分前に亡くなったはずだが、と思いながら、著者の「後記」(単行本では珍しい)があったので読んだ。日付は昭和35年6月となっ

          『廃市』ノート

          『歳月』ノート

          鈴木敏夫著 岩波書店刊 私事から始めて恐縮だが、所用で三鷹市に出かけた。人を待っている間に、この本を開くと、本文の書き出しに「三鷹の森ジブリ美術館……」とあるではないか。私はジブリアニメのファンで、本屋で背表紙の著者の名前をみて購入しただけで、中を開いてはいなかった。他愛もないことだが、最近、このようなシンクロが多いような気がする。 260ページ余りの本であるが、その内容がまた私的なシンクロ続きで面白く、一日で読み終えてしまった。  鈴木敏夫が仕事上あるいはプ

          『歳月』ノート

          『外事警察秘録』ノート

          北村滋著 文藝春秋刊 外事警察に関する本をnoteで取り上げたのは、2021年3月21日の『鳴かずのカッコウ』(手嶋隆一著/小学館刊)と、同年10月31日の『警視庁公安部外事課』(勝丸円覚著/光文社刊)の2冊で、これで3冊目である。  著者の北村滋は、1980年に警察庁入庁。警備局外事情報畑を歩み、2011年、野田内閣で内閣情報官に就任し、政権交代後も引き続き第2次から第4次安倍内閣まで同職に留任。2019年に国家安全保障局長に就任し、2021年に退官した。  足かけ

          『外事警察秘録』ノート

          『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』ノート

          ターリ・シャーロット著 上原直子訳 白揚社刊  副題は『説得力と影響力の科学』である。著者のターリ・シャーロットは、認知神経科学者だ。 〈はじめに〉で著者は、「人々は誰しも何らかの役割を担っている」が、「とても重要なメッセージを持つ人や、最も役立つ助言のできる人が、必ずしも絶大な影響力をもつわけではないように感じる」と書き、例として、「怪しげなバイオ技術に数十億ドルを投資するよう説得できた起業家がいる一方で、地球の未来のために取り組むよう国民を説得できなかった政治家もいる」

          『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』ノート