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☆本#250 人生、振り返り大事かも「白光」朝井まかて著を読んで

主人公は江戸時代生まれの実在の人物山下りん。史実をベースとしたフィクション。
子供時代から晩年までを描く大河ドラマ。

先日読んだ「自転しながら公転する」も本が厚かったけど、これも厚かった。ひとりの人生を描いているので。ただ大半が苦労話的印象。

10代が明治維新後で、藩士の娘だけど嫁ぐことに興味はなく、家族の支援を得て、絵を学ぶために茨城の家を出て、東京に一人で向かう。

東京で苦労しつつ絵を学び、ロシア正教に入信し、それを家族に言えないままロシア留学する。言葉の問題や、修道院の女性らと交流がうまくいかず、体調も崩し、5年の予定が2年で帰国。

商売に失敗した兄は、技術者として生計を立てるも、後を継ぐと思っていた息子が軍人になると言い、よりによってロシアで亡くなる。それでも、兄は主人公に対し、息子の死は「戦争」のせいだといってロシアを責めなかった。その後、50代で病気で亡くなる。
母親はその10年後ぐらいになくなる。さらっと書かれていたけど、子供に先立たれた親はつらかったろう。

この小説で恋愛問題はほとんど出てこないけど、唯一出てきた強烈なのが、同じロシア正教の信者になったもと貧しい家の出身の女性で、その美貌を利用して(?)最初は同じ信者の弟と婚約するも、神学校の校長を若くして任された男性と結婚するため解消、5人の子供を産む。6人目の子はロシア人とのハーフで、その子を連れて彼のいるロシアへ家出。結局戻って、7人目の子供を出産後亡くなった。昔は出産で亡くなる女性が多かった。
明治時代って、外国へ行くのは大変なことだと思うけど、タフな女性だ。明治・大正に生きた女性は結構強い。

一方、主人公はまじめで実直で謙虚。60歳を過ぎて白内障で目が悪くなるまで絵を描き続ける。晩年は茨城に戻り、幼いころ子供のいない親戚に養子に出された弟の助けをかりて暮らす。白内障の手術もする。

この小説では70代まで描かれているけど、wiki情報だと81歳まで生きた。頑固者と描かれているけど、芯の強い人だったのだろうな。

先日見た映画「リスペクト」では、歴史上の人物キング牧師が出てくるけど、この作品ではニコライが出てくる。とても親日家で、日本人とロシア人の共通点が指摘されていて、好印象を持った。

主人公が留学したサンクトペテルブルクには一度行ったことがある。ここは北のヴェネツィアと呼ばれていて、川が多い。けど、ヴェネツィアのほうは車が入れなくて、迷路のような小道が多いけど、こっちは大陸なのでそこは全然違う。
エルミタージュ近辺は都市部で近代的だったけど、エカテリーナ宮殿への道のりは「田舎」だった。道が整備されてなかったり。もしかして、主人公が行った時と同じ風景があったかも。

主人公は人との交流が少なかったようなので、こういった小説にする際人とのかかわりを軸としたドラマが少なく、著者は大変だったのではと推測。それでも、晩年の語り部分は琴線に触れた。

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