知っているけど知らない言葉
アメリカに住んでいると、ときどき「英語で説明するのにスーパー難易度が高い日本語」に遭遇する。
以前、長男が通うスクールの先生に「お食い初め」の話をするのにえらい苦労した。まず、お食い初めという言葉自体に直接的な英訳はない。
だから日本語を分解することから始める。「お食い」「初め」。うん、二つに分けられそう。だとしたら単純に「first meal」かな。でも儀式っぽさが表現されていない。よし「first meal ceremony」でどうだ。みたいな。
ここに、生後100日前後でお祝いすることや、一生食べ物に困らない願掛けであることなど説明を加えていく。
あぁ、大変。
わたしが住んでいるエリアは移民が多いこともあって、他国の文化に寛容だ。だから、こういった「日本ならでは伝統」を面白がってくれる節がある。
ただし問題が出てくる。興味を持って聞いてくれた場合、わたしはお食い初めについてこれ以上突っ込まれても、何も知らない。「日本では昔からやっているのか」とか「この儀式が始まったきっかけ」とか、何も。
そう。日本語について、日本文化について、驚くほどに無知なのだ。
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先日、数ヶ月前に日本から引っ越してきたばかりだというママさんのお宅にお呼ばれする機会があった。若くて、おしゃれで、かわいい人だった。
3歳を少し過ぎたばかりの娘ちゃんがいるのだが、まぁ活発な子で、他の友達が連れて来た子どもと走り回ってはしゃいでいた。生後3ヶ月ぐらいの赤ちゃんもいたため危なっかしく、ママさんは何度か注意したのだけれど、彼女は聞く耳を持たなかった。とうとう大声が張り上げられた。
「ちょっと!いい加減にしないと天狗が来るよ!!」
思わず、飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。天狗て。アメリカに住んで8年、この間に天狗というワードを聞いたことがない。というか、最後に出会ったのはいつだろう。
鬼でもなくお化けでもなく、天狗がチョイスされたことに感動すら覚えた。こんなかわいい顔から天狗て(しつこい)。
日本の子育てに天狗が登場するのはスタンダードなのだろうか。たしかに、もし来たらめっちゃ怖い。
後日、アメリカ人のママ友とお茶をしていたとき。子どもが言うことを聞かないときの特効薬はなにか、という話の流れで、わたしはママさんの天狗発言がふと頭に浮かんだ。
でも、説明がむずかしい。鬼ならdemon、お化けならghostという単語で、なんとなくイメージは共有できそうだ。
天狗は?顔が赤くて鼻が長いアレ?人間なのか鳥なのか、妖怪なのか怪物なのか。そういえば、わたし天狗のこと知らない。
この日、家に帰ってから「天狗 何者」とググった。
天狗についてサッと英語で話せるようになったら、きっと達人の域だ。
そもそも、天狗を日本語で解説できる人がどれぐらいいるだろうか。「知っているけど知らない言葉」って意外と多いはず。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。これからも仲良くしてもらえると嬉しいです。