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雨を感じる犬

午前二時半、耳元でゴソゴソと何かが動く気配がする。意識と感覚を取り戻し、頭を回転させて状況を思い出す。あたりは真っ暗で私は寝ている。枕元にはスマホとそれと。。。何だっけ?

小さな鼻息が聞こえる。これは小さな生き物。。。あ、犬だ。枕元でミアがソワソワしながら私が起きるのを待っているのだ。

寝ぼけて思考に動作が追い付かないカラダをゆっくりと動かしてみる。足が動く。指も動く。ゆっくりと手探りでスマホを手に取り画面を見ると、眠りについてからまだほんの数時間しか経っていない。

なになにどした?

スマホ画面の光に照らされて、暗闇にボウっと浮かぶミアの顔はじっとこちらを見つめている。懐中電灯をアゴから上向きに当ててお化けごっこをしているような影が揺れている。鼻息が荒くなって、時々キューキューと鼻声が洩れる。落ち着かない様子だ。

どしたの?そう言いながら手を伸ばして撫でようとすると、ヒョイッと避ける。手を引っ込めるとまた近づいてきて、何か言いたそうに見つめてくる。また撫でようとすると避ける。その仕草が、ちゃうちゃう、ちゃうねん、撫でて欲しいんちゃうねん。(なぜか関西弁)って言ってる反抗期の子供みたいで少し笑けた。

そうこうしているうちにだいぶん目が覚めてきたので、起き上がってこちらを見つめるミアの目を見つめ返してみる。

なんなん?どないしたん?この時私は少し不安になった。

まだミアが仔犬の頃、夜中に用を足しに外へ出たことが何回かある。柴犬は家の中で用を足すのを嫌がるのだ。その時もキュンキュン何かを訴えるように鳴き、ソワソワと歩き回ってトイレアピールをしていたのを覚えている。まさかまた?!こんな夜中にトイレ??

私が疑い深い視線を投げかけてもミアの一途な目線は揺るがない。真っ直ぐジーっとこちらを見つめたまま。小刻みに前足を動かして落ち着きのない様子のまま。何か言いたいけど言えない。気持ちが伝わらないのがもどかしい、そんな様子。

このままじゃらちが明かない。とりあえず寝室からテラスに出られる窓を開けてミアを外へと誘導する。外の空気を吸ったら気持ちが落ち着くかもしれないと思ったから。

すると、なんだかいつもと違う空気を感じた。あれ?

十一月に入ってから徐々に気温が下がり、ここ最近の朝晩はかなり冷え込んでいたはず。なのに、窓を開けても全然寒くない。そういえば、昨日の昼からセントラルヒーティングが故障して切れているのに、部屋の中も全然寒くない。

気になってスマホの天気予報を開けて見ると、気温が十八度になっている。寝る前最後に確認した時は晴れたり曇ったり雨だったりを繰り返すような週間予報のはずが、見事にまるまる連続雨予報に変わっていた。
【注:↓↓写真は翌日午後、この文章を書いている時の天気】

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カラダが寒さに慣れかけようとしているこの時期に、急に生暖かい空気がなだれ込んできて、空の低いところは灰色の雲でいっぱいになっている。幸い雷は鳴っていないけど、人間の私でもちょっとゾワゾワする怪しい空模様。

雨なの?変な天気なの?そうなの?

テラスから必死にキョロキョロとあたりを見回しているミアにそう声を掛けると、サッサと部屋の中に戻ってきて、シュンッと小さなくしゃみをした。そしてそのままスタスタと玄関にあるベッドへと直行。そのままクルクルっと丸まって、私の方に背を向けて寝てしまった。そのフワフワとした後ろ姿は、ひと仕事を終えた達成感で満足しているようにも見えた。もう全然ソワソワしていない。

な、な、なんと!?!?!雨が降るよって伝えたかっただけ?なのか?

ミアが寝たのを確認してから私ももう一度寝た。だって夜だから。グッスリと。意識がプツっと切れて夢も見なかった。

目が覚めたら九時前だった。雨はまだ降っていなかったけど、どんよりとしっかり曇っていて、普段は透き通るパステルブルーの空が広がる空間が、一面グレーな空気で染まっていた。まるで色のない世界へ迷い込んだみたいに、いつもの色彩がすべて見事に暗い灰色に侵食されていた。

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ああ、もの悲しや。


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