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関西人と大阪人、そして出身地を聞かれて悩む私

関西訛りで話していると、大阪の方ですか?と言われることがある。違うので、いいえ違いますよ、と答えると、どちらのご出身ですか?と聞かれる。

地方がクローズアップされることが多い昨今ではもうそんなことはないのだろうけど、以前は『兵庫県』と言ってもピンとくる人は少なかった。

関西圏の人なら、ああ兵庫ね、で会話が納まる。もっと私のことを知りたくて興味のある人なら、兵庫のどの辺りですか?と聞いてくるだろう。

だけど関西の地理に詳しくない人には『兵庫県』の位置は曖昧なようだった。なのでそういう人には直接、神戸です、と言うようにしていた。

その頃、テレビや雑誌でお嬢様ブームというのがあり、神戸という地名はお嬢様が暮らす街として全国区に紹介されていた。テレビや雑誌を見る人なら神戸という地名を知っていて当然の時代。


ここでちょっと断っておくが、私は決して『お嬢様』ではない。私立のミッションスクールに通ってはいたけど、それは学区の中学校へ行くのが嫌だったから近所の私立を受験しただけで、お嬢様だからではない。

もちろんテレビや雑誌で紹介されているようなお金持ちのお嬢様もいるのだろう。だけど神戸の人全員がそうではない。普通の人も暮らしている普通の地方都市なのだ。


ま、そんなことはさておき、神戸という地名の知名度は群を抜いていた。だから関西以外の人に地元は何処かと聞かれた時は、神戸、と答えた方が、兵庫、と答えるよりも話が早いので便利だったのだ。


☆☆☆


一般的に関西と呼ばれる地域は京都、大阪、奈良、滋賀、和歌山と兵庫だ。一聞には同じように聞こえる?のかもしれないいわゆる『関西弁』にも、地方ごとにイントネーションや言い回し、使用する単語までもが違うことがあり、習慣や習わしなどの文化も少しづつ違う。

なので関西特有の訛りがあるからと言って、関西人イコール大阪人、と思われるのには違和感がある。

大阪は関西の一部だけど、関西が大阪ではない、つまり、関西人≧大阪人ってところだろうか。


関西をひとつの国だとすると、大阪は首都的な立ち位置にある。関西の大都会、中心となる街。

有名アーティストのコンサートがあったり、何らかの全国試験の会場があったり、何にせよ主要な機関は大阪にあるので、関西人なら否が応でも必ず足を踏み入れる街、それが大阪。


ところが私の大阪デビューは遅かった。

神戸には生活に必要なものが何でも揃っていて、わざわざ大阪まで足をのばす必要がなかったのだ。映画館も美術館も、水族園も動物園も、山があり海があり、牧場があり滝があり、温泉まである。

確か高校生の頃、何だったかすっかり忘れてしまったけれど、何かの集まりで招集されて行ったのが初めての大阪だった。

それまでにも京都や奈良へ出向くのに梅田で乗り換えはしていたけれど、ガッツリとJR大阪駅に降り立って街へ出たのはそれが初めてだった。めっちゃ緊張したのを今でも覚えている。

三宮の比じゃないくらい大勢の人がウワァーって歩いてる。しかもめっちゃ速足。狭い通路に入ると周囲の速い歩調に合わせなければ後方から文句を言われる。何タラタラ歩いとんねん!はよ行けや!って。

ビクッ、こわっ。

声の大きい人がたくさんいて、なんかうるさい。数メートル離れたところに立っているおばちゃんが私の隣を歩いていたおばちゃんと怒鳴り合って会話をしていた。

うわっ声デカ!こわっ。

合流するまで1分とかからない距離だ。近くに行ってから話したらええのに。そんな怒鳴らんでもええやん。


そんなこんな体験があり、それから暫くの間、大阪出身の友達が出来る数年後まで、私は大阪が怖かった。

そう、知り合ってみると大阪の人は、気さくでいい人が多かった。裏表なくストレートに話をしてくれるから信頼も出来る。距離が近くて情に厚い人も多い。

あの時、高校生だった私が怖がっていた大阪は一体何だったんだろう。

夢か幻かと思うくらいに、私の中の大阪のイメージは一変した。


それよりも今度は地元神戸の人に、苦い思いをさせられることになる。


☆☆☆


それは留学先のアメリカでのこと。出身を聞かれると、先ずはJAPANと答えていた。そしてJAPANのどこかと聞かれると、KОBEだと答えていた。

港町であり、神戸ビーフでお馴染みの『神戸』は、外国でも『兵庫』より知名度があり、手っ取り早く話が進む。

するとある日、ひとりの大阪人男子が私に向かって「お前、嘘つきなんやてな」と言ってきた。

なんのこっちゃ?と思っていたら、「お前神戸出身ちゃうんやろ。嘘つきやん。○○がゆーとったぞ」と言ってきた。

はて?

私は○○さんをよく知らない。日本人女子だということ以外は何も知らない。なのにその子は私が嘘をついていると言う。なぜ?

嘘ちゃうよ。ウチの住所、神戸やよ。

そう言ってもその大阪人男子は、神戸って言いたいだけなんやろ、はいはい、と言って私の言うことを信じてはくれなかった。

関西人同士で気軽に話をする仲だったのに、嘘つき呼ばわりされた私は少し傷ついた。


知り合いの知り合いが○○さんのことを知っていたので話を聞くと、彼女の実家は芦屋だが、東京の有名な一流お嬢様学校へ通っていたという。

だから標準語なんや!

謎がひとつ解けた。彼女には訛りが全くなかったので、私は彼女が関西人かどうかも知らなかったのだ。

う~ん、でも。。。

それでどうして私が嘘つき呼ばわりされることに?

芦屋って芦屋市の芦屋よね。私は神戸市の神戸なんですけど。。。心の中でモヤモヤが広がって行く。


どうやら彼女は私が、神戸のお嬢様だ!と言いふらかしていると勘違いしたらしい。そんなこと一言も言った覚えはない。どこかで誰かが彼女にそう伝えたのだろう。

そして彼女には、なんですって!芦屋の金持ちの家に生まれた真のお嬢様は私よ!とかなんとかいう変なプライドがあったのかもしれない。確かに当時彼女は高級車に乗っていた。本当のお金持ちに違いない。

かくいう私は乾燥機をかけ過ぎてヨレヨレになったTシャツを着て、76年製のフォードのワゴンに乗っていた。付き合っていた彼氏(今の夫)が600ドルで買った車を使わせてもらっていたのだ。

どうひっくり返ってもお嬢様にはほど遠い。

もちろん、実際にお嬢様でもなんでもない。貧乏ではないけどお金持ちと呼べるほどでもない。日本が好景気だったから留学させてもらえただけのラッキーな一般人だ。


神戸イコールおしゃれ、とか、神戸イコールお嬢様、とかいうイメージが強過ぎるせいで、私は嫌な思いをした。一般人は高級感漂う神戸の名を語るな、と言われたも同然の扱いだった。

自分の出身地が有名なのは嬉しいが、偏った強いイメージがある場合は気をつけなければならないとその時に学んだ。

真実を真実のまま伝えても、受け取る側に思い込みや偏見があると、真実は真実として伝わらない。


☆☆☆


だけど実は、そんな嫌な思いをした経験があるにもかかわらず、今でも出身地を聞かれると、神戸と答えてしまう。もちろん有名で伝わりやすいからという理由もあるが、あともう一つ。

フランスではHを発音しないので、HYОGОの発音が超難しい。

カタカナにすると、ヨゥゴゥ、が近い発音だろうか。全然『ひょうご』に聞こえない。無理やり『ひょ・う・ご』と発音しても、フランス人にはHの発音が謎過ぎて聞き取れないらしい。


とりあえずお嬢様ブームはとっくに過ぎ去っているようだし、今更嘘つき呼ばわりされることもなさそうなので、今後も出身地は神戸だと言い続けることになりそうだ。


☆☆☆


本音を言えば、結局海外にいると、TОKYО、ОSAKA、KYОTО、以外の地名は、日本をよく知らない外国人には伝わりにくい。KОBEで伝わらない時は、ОSAKAの西、と言うし、それでも伝わらない時は、KYОTОの近く、と言う。

そしてKYОTОで通じなければ、JAPANの中央からちょっと西、と言ってみる。するとそれはもう兵庫でも大阪でも同じことになる。滋賀も奈良も一緒くただ。

世界規模で見るとそうなってしまう。東の果ての島国の中の小さな街のことだ。ピンポイントで伝えなくても、だいたいの位置さえ伝わればそれでいい。


あーだけどそれなのにそれなのに。。。やっぱり関西訛りで話をしていて、大阪の人でしょ、と言われると違和感がある。いいえ違います、とキッパリ即否定してしまう。

ごめん、大阪。

あなたが悪いわけではなくて、同じ関西人だけど、嘘でも大阪人にはなれない私がいる。



ちなみに、神戸とは阪神一帯を含む名称なので、芦屋市や西宮市に住んでいる人も、神戸市に住む人もみんな神戸出身、でエエんちゃう?

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