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恋する柴犬

犬だって恋をする。好きで好きでたまらなくてカラダをクネクネとよじったり、もどかしい胸の内を伝えようと唸るような声を絞り出すことだってある。多分記憶とニオイ、雰囲気を感じ取って、心に刺さる思いが込み上げる瞬間に、ヒューン⤴ドスンッ⤵と恋に落ちてしまうのだろう。

ウチの柴犬ミアは、男の人が好き。ひょろんと背が高くて黒っぽい服装をした人が立っていると、フラ~っと引き寄せられるように側へ行く。地面をクンクン嗅いでいる振りをしながら上目遣いでチラチラとターゲットを確認しているのを私は知っている。

二、三歳の頃までは、百発百中イケメン狙いだった。まあイケメン定義に賛否両論あるにせよ、二十代から四十代くらいの身なりが小綺麗な男子に惹かれていたのは間違いない。アメリカ西海岸が舞台のテレビドラマに出てくるような爽やかイケメンから、メガネをかけた知的オタク系イケメンまで。撫でてくれるのを待って側を離れない。撫でてもらっても、もっともっととおねだりしてなかなか側を離れない。トロ~ンと恋に落ちた潤んだ目でターゲット男子を狙い撃ちにしようとするその仕草は、まさにあざとい系女子。

そんなイケメン男子に撫でてもらいながら鼻息荒く、腰をフリフリ悦に入る犬、それがミアだった。

お陰様で飼い主もイケメンとお話しする機会が出来て、まんざらでもなかったけれど、去年あたりからなんだか少し方向性が変わってきた。

先ず、年齢層がグンと上がった。いわゆるおじいちゃん系の人にもアタックし始めたのです。初めて高齢の犬友おじさんにすり寄る仕草を見せた時は、おやつのおいしいニオイでもするのかな?くらいに思っていた。そしたら普通に、杖をついた動物好きそうなおじいさんにもすり寄るように。すり寄られた方のおじいさんはミアを見て嬉しそうに撫でようとするけれど、いかんせん、背が高い上に杖をついているだけあって、カラダを曲げられないから手が届かない。無理をすると倒れちゃうから、あ~あ~ダメダメ。
スミマセン。

ミアはビビリ犬なので、走り回る子供や若者が怖くて一切近付かないし、大げさなジェスチャーで犬好きアピールをする女子にも冷たい態度を取る。誰彼構わず愛想を振りまく犬ではない。なので、杖のカツンッカツンッと鳴る音が物珍しくて近づいているだけなのかもしれない。

それでも、近所のおじいさんを転ばせて怪我でもさせたら大変なので、適当に世間話をしておじいさんの目線を飼い主の自分へ向かせてその場をやり過ごすしかない。同じように杖をついているおばあさんに近づかないのは、やはり男性と女性を嗅ぎ分けているからだろうか??

そうこうしている内に、道端で仲間とお酒を飲んでくだを巻いている流浪の民の方へも興味を示すようになったミア。ん?こりゃイカン!どうしたミアちゃん!酔っぱらった流浪の民は飼い主の手に余るからやめてちょーだい!

最近のミアはイケメンというより、個性派狙いなのか?でもまあその流浪の民も、確かに背が高くて黒っぽい服を着ているから基本は外していない。彼女のストライクゾーンに入っているのだろう。

二、三人いる仲間たちの中でもスラッとした体形の人を選んでいるところが何ともいじらしいと言うか、悲しい気持ちになるのは何故だろう。人間の私が見ただけでも刺激的なニオイがするのだと察しが付く容姿なだけに、飼い主としては涙が出るほど惹かれて欲しくないお相手。やめてちょーだいと懇願するしかない。

前に書いたように、今年の私は体調不良続きで思う存分外出が出来ていない。山や草原、海沿いの開けた場所でのびのびと走りまわる回数も減った。もしかして、家にいる時間が長くなったことでストレスが溜まり、それが爆発して気の迷いが生じてしまったのか?

いやいやそれにしても、よ、ミアちゃん、ストライクゾーンの幅広げ過ぎ!!イケメン好きだったあの頃の気持ちを取り戻しておくれよ~。

イケメン好きだった頃のミア
セーヌ河のほとりにて



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