見出し画像

5年日記に綴られていた約束。彼はまだ覚えているのだろうか。

35歳でお互いまだ独身だったら結婚しよう。

2018年から2022年までの5年日記。

2年前の今日の日付にはそんな言葉が綴られていた。

・・・

そう、2年前の今日。私はある男の子とそんな漫画のような約束を交わした。

彼はきっと忘れているんだろうなと思いつつ、そのやりとりを思い出してそんなこともあったなと懐かしむ自分がいる。

いまとなっては不思議な半年間だった。友達以上恋人未満以外に、当時の私たちを表せる言葉はあったのだろうか。

いまならいえる。彼とは何にも始まっていなかった。

・・・

彼との出会いは小学生のとき。

私たちは小学校の同級生だった。おとなしい私と明るくていじられキャラだった彼。当時、ほぼ接点はなかった。正直なところ、記憶にあまり残っていないというのが本音。

彼は卒業後、両親の仕事の都合で県外へ。私はそのまま地元の中学校へ進学した。特別仲がよかったわけでもない私たちの関係は、卒業と同時にプツッと途切れた。

それから中学、高校と月日は流れ、小学生だった私は気づいたら大学生に。私は地元を離れ、進学のために新潟へ。そんな大学生活も終盤に差し掛かる。図書館に籠りひたすら向き合っていた卒論も無事提出し、残すは年明けの卒論発表会と卒業式を待つのみとなっていた。

そんなとき懐かしい名前がスマホの通知画面に表示される。

小学校の同窓会のお知らせだった。卒業してから九年。その期間中、一回も開催されなかった同窓会。

卒業し就職したら地元に帰ってこない人が出てくるだろう、この機会を逃したら二度と集まれないかもしれない。だから集まらない?

そんな誘いだった。

小学校の同級生にいまさら会っても。これから関わることもなさそうだし、思入れもそんなにない。別に行かなくてもいいかな。

それが同窓会に対する私の意見だった。けれど、まわりからの「せっかくだし行こうよ」という誘いを断りきれなかった私は足を運ぶこととなる。

大学4年生、雪の降る大晦日の数日前。

小学校の卒業式以来に顔を合わせる、そんな人たちだらけだった。男の子なんて見た目が変わりすぎて、誰が誰だか分からない。久しぶりだね。見た目も声も変わりすぎて誰だか分からなかったよ。いまどこで何しているの。そんな曖昧な会話から始まる同窓会。

同窓会が終わったらもう会うことはないんだろうな、そう思っていた。まさかその中にいたひとりと冒頭に書いた約束を交わすことになるなんて、そのときは思ってもいなかった。

とりあえず席が近くなった人と話す。それを繰り返していく。すると離れたところから、「お前いま新潟にいるの?」そう聞こえた。

誰に向けられた言葉だろう、そう思って視線を向けた先にいたのが当時明るくていじられキャラだった彼。坊主頭にメガネという可愛らしい小学生だった彼は、茶髪のマッシュヘアのいまどきの男の子へと見た目を変えていた。正直なところ、名前を聞くまで同一人物だとは思えなかった。

「ねえねえ、私ね新潟にある大学に通ってるよ。」
「え、ほんと?!〇〇大学周辺ならよく車で行ってるよ。」
「もしかしたらすれ違ってたかもね。」

別々の人生を歩んでいたはずの私たちは新潟に住んでいるという事実を共有した途端、他の人たちから離れて会話をしはじめた。

冬休みが明けたらお互い新潟に戻る。そしたらご飯行こう。そんな約束をして、私は同窓会を後にした。

共通点を見つけた私たちが仲良くなるまではあっと言う間だった。

数週間後、新潟に戻ったタイミングで彼に連絡をとる。車で迎えにいくよと彼が言うので、数日後ドライブをすることに。

小学校卒業から現在まで、お互い何をしていたのか。話しても話しても話題は尽きなかった。

お互い恋人と別れて数ヶ月経ったぐらい。だからなのか恋愛話もよくしていた。お互いの恋愛事情を包み隠すに話す、この人にはなぜだか話せちゃうと思っていた。

恋人はいらないけど、相手がいないのは寂しい。お互いよくそんなことを言っていた気がする。だから毎日のようにLINEをして、時間ができるとよく電話をしていた。電話をしていたら3時間が経っていたなんてことも。それが私たちにとっての当たり前だった。

予定が合えば迎えにきてもらって、ドライブをする。

とある日、一緒にお酒を飲もうよという話になった。その日もいつもどおりドライブをしていたわけだけど、彼は車を置くために一旦家へ。そしてわざわざバスに乗り、私のアパート付近にあった居酒屋まできてくれた。

店内に入るとばったり大学の教授に出くわし、「お、彼氏か。いいじゃないか。」とからかわれる。「違いますよ。ただの友人です」そんなありきたりな返事を笑いながらして、案内された席につく。

たくさん話した。ずっと笑っていた。目の前に座り、私に喋りかける彼をみてるだけで楽しかったんだよね。

でも楽しい時間はずっとは続かない。あっと言う間に時はすぎ、時計は二十四時を回っていた。そろそろ帰ろっか、その言葉とともに名残惜しく席を立つ。

彼は送ってくよと一言。居酒屋から私が住んでいたアパートまでは徒歩5分の距離、どんなにゆっくり歩いても数分とかからず着いてしまった。

その日はお酒のせいもあったのか、二人の間にはいつもと違う空気が流れていた気がする。

アパートの前で立ち話をする二人。すると彼が突然「あかねちゃんって意外と小さいんだね」とつぶやいて手をそっと頭に伸ばしてきた。

私はなんて言ったんだっけ。たしか「〇〇くんって案外大きいんだね」そう微笑みながら言って、彼の頭に手を伸ばしたはず。

そして冒頭の言葉だ。

35歳でお互いまだ独身だったら結婚しよう。

そう彼が私に言う。

恋人でもない私たち。何も始まっていないはず。

でもなんか嬉しかった。だけど素直にうんなんて頷けないから「それまでに結婚してやる」そう答えた。

数ヶ月後、就職のために私は上京する。彼は新潟に残り、地元の企業に就職することが決まっていた。私たちが離れ離れになることはすでに確定していたのだ。

だから私は一歩が踏み出せなかった。もしここで好きと伝えて関係が崩れてしまうのであれば曖昧な関係のままでいい。そう、私は傷つくのが怖かったのかもしれない。

それから私は新潟のアパートを引き払い、実家へ戻った。それでもLINEと電話は相変わらず続いていた。いつのまにか彼に日常のあれこれを話すのが習慣となっていた。

そして次に彼と会ったのは、卒業式の前日の夜だった。それが彼と会った最後。

いつもように迎えにきてもらってドライブ。その日は彼が「一人暮らしを始めたんだよ」と言い、流れで彼のおうちへいくことになった。

彼の部屋でただ喋り、なにもなくアパートを後にした。もしかしたら…そんなタイミングがなかったといったら嘘になる。でも、ここでも私は一歩が踏み出せなかった。

バイバイをして、ハンドルを握る彼の横顔を見つめる。「春休みに会えたら会おうね」と約束はしたけど、結局会えずに私は上京することになった。

上京後もしばらくはLINEも電話も続けていた。始めの頃は「一人暮らし寂しい」と時間を見つけては電話をしていたけれど、研修に飲み会にと予定が埋まっていくにつれて、そんな言葉をお互いに言わなくなっていった。

環境が変わると、いままでうまくいっていたものも歯車が狂ってしまったかのようにうまくいかなくなる。そのようにして私たちの友達以上恋人未満のような不思議な関係は、突然終わりを告げた。いわゆる自然消滅というやつ。

・・・

あれから二年。

彼とは一度も連絡をとっていない。SNSで繋がっているわけじゃないから、いまどこで何をしているのかなんて分からない。

でもたまに懐かしく思うことがある。

5年日記が思い出させてくれた大学生時代の甘酸っぱい記憶。

なんでだろう、急に思い立って手が動くままに当時の記憶を書き起こしてしまった。別に引きずっているわけでもないのに。

あの約束、彼は果たして覚えているのだろうか。ちょっと気になってしまった春の夜。





日々の楽しみに使わせていただきます!