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【本と食べものと私】お正月なのでお雑煮のこと ー 田辺聖子さんの小説から ー

お正月といえばお雑煮。
でも私は子どもの頃からかなり長い間、ほとんど食べていなかった。
我が家のお雑煮が好きじゃなかったので。

母が作ってくれるお雑煮は、すまし汁にひとかけの鶏肉と青菜が入ったもの。柚子の皮を浮かべてあったかもしれない。
今ならば、もう大人なので(笑)このシンプルなお雑煮をおいしく味わうこともできるけど、なにせ子どもの頃のこと。ぜんぜん魅力を感じなかったし、食べたくなかった(ごめんなさい)。
縁起物なんだから食べなさい、という父の言葉も断固拒否して、でもお餅は好きなので勝手に自分の分のお餅はトースターで焼き、きなこ餅にして食べていた。

そんなわけで長い間、私のお正月にお雑煮は「ないもの」だった。
別にいらないし、お餅はあまいのが好きだし...

でもある時、ふと思いついた。
「自分の作りたいお雑煮」を作ってもいいんじゃないか、と。

もちろん、自分で作って食べるものなど何だって好きにしていいのだけど、なんとなく縛りがあるような気がしていたのだ。
お雑煮とは、自分の家のスタイルのもの、地域のものを食べるべきだ、と。
それ以外のものを作るという発想がなかった。

でも、帰省せずに一人で過ごしていたあるお正月、あのお雑煮を作ってみよう、と突然、思いついたのだ。ずっとおいしそうだなーと思っていた、それは、田辺聖子さんの小説に出てくるお雑煮。

田辺聖子さんファンの人なら、きっと知っていると思う。
いくつもの小説に出てくるから。
ほかの食べ物は、そう何度もあちこちの作品に同じものが出てくることはないと思うけど、このお雑煮だけは、出てくる。
それもその都度、けっこう詳細に。

だから私は今、本を引っ張り出してみなくても書ける。
そのお雑煮は牛肉が具であり出汁でもあり、ほかに昆布や鰹節といった出汁は使わない。にんじん、大根、子芋、が入り(みな丸く切る、丸くおさまりますように)、お餅は丸餅で焼かずに柔らかく茹でてお椀に入れる。白味噌がベースでほかの(何だったっけ?信州味噌?)お味噌も少しだけ。吸い口には湯がいた水菜。

材料を揃えて、この牛肉と白味噌でとろりと濃厚なお雑煮を作った十数年前のお正月。その年から後、このお雑煮が「私のお雑煮」になった。
もともと大のあまいもの好きなこともあり、このまったりとあまじょっぱい味が好みにぴったりきたのだ。お正月じゃないときにも食べたくなるくらいに。
田辺作品の中にも、お正月じゃないときに、お正月じゃなくてもいいじゃありませんか、と小料理屋のママさんがお雑煮を出してくれるシーンがある。

そんなわけで、このお正月も私は「田辺聖子さんのお雑煮」を作って食べた。作品によるとこの牛肉はちょっといいものを使うらしいけど、私のはそんなにいいものではない、という違いがあるものの、今年もおいしくいただいたし、まだ明日ももう一回、と思っている。まだお餅はたくさんあるし。

おいしいお雑煮でスタートできて、今年もきっといい一年になるはず。


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