たまたま竜に生まれただけ

俺はO型。血をあげる。

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最近の記事

タッちゃんがゆく その2

 タッちゃんはひとりでどこかへ行くのが好きです。歩いてゆくのが好きです。目的地はあってもなくても良いそうです。目的がある時。たとえばタッちゃんは街から離れた町に住んでいるので、最寄りの駅まで歩こうとすると1時間かかります。いつもはスクーターで移動しますが、気まぐれに歩いてゆくことがあります。川を見ながら、丸い橋を渡りながら、暖かい時期に歩くそうです。  タッちゃんは音楽が好きなので、散歩をする時は必ずイヤホンを着けています。高校生の頃、田中さんが首に着けていた蛍光黄緑のヘッ

    • タッちゃんがゆく

       タッちゃんは中野が好きです。  自分が落ちた明大のキラキラしたキャンパスや高層ビルを横目に、汚え中野ブロードウェイが堂々、鎮座しているところが好きみたいです。  中野ブロードウェイに続く道は中央線沿線のよくある活気ある商店街って感じで、これも好きだって言ってました。中野は新しさと古さをバランスなど考えずに共生させています。タッちゃんは特にターリー屋が好きみたいです。タッちゃんはバターチキンカレーとライスをよく食べるそうです。チーズナンの時もあるらしいです。  エスカレ

      • 千波と腕を組んだ

         千波とはサークルからの付き合いになる。なんだかんだ6、7年の付き合いだ。仲良くなったきっかけは好きなアイドルが一緒だったこと。派手髪で怖いと思ってたけど、話してみると案外オタクで、突拍子もないこと言うし、ノリが良くて楽しかった。  千波が先に写真部に入ってて、あたしが後から入った。あたしは人を撮るのが好きで、千波は人じゃない、風景とか、そういうのを被写体に選んでいた。  千波は、あたしの言うことに賛成の時は、いつも「いいじゃん」と言う。反対の時は「やば」と言った。慣れた

        • 愛吏紗のランドセルにきのこを入れた

           どうしても死にたくない気持ちは、手でぎゅっと首を絞めたり、お腹の調子が悪かったり、車が目の前をびゅんって行ったりしないと、ちゃんとあるよって言ってくれない。  私、もし殺されるなら、愛吏紗が良い。  愛吏紗はおっとりしていた。おっとりってのはいい言葉。トロい。トロいっていうか、話が通じなかった。アメリカに住んでたみたいで、日本語を上手くしゃべれなかった。でも、英語を話せる訳でもなかった。もちもちしていた。ううん、太ってた。愛吏紗って名前が一人歩きするくらい、名前と見た目

        タッちゃんがゆく その2

          しゅーちゃんは帽子を被ったいぬと手紙をくれた

           頭の中の夏はすきだが、実際は暑くてきらい。でも、しゅーちゃんに会えるかもって思える。アチアチでジリジリのアスファルトを蹴って蹴っていった先。畑と墓地とガソリンスタンドを横目に、上下にぐねった道を散歩していたら、しゅーちゃんがいるかも。  しゅーちゃんに、もし今、会っちゃったら、気恥ずかしくて修介と呼びかけるんだろうか。しゅーちゃんは、小学生の僕から見ても可愛かった。カワウソみたいな顔。色白のほっぺたはすごく柔らかい。指でつまんで引っ張ると「いたい!」と言うんだけど、それで

          しゅーちゃんは帽子を被ったいぬと手紙をくれた

          冬花のふともも

           ぼくは小学生だった。おやつに、4つ入ったドーナツを食べても太らなかったあの頃だ。歯を立てたら、シャリシャリ鳴る甘さと、ジュワジュワ染み出る油をただのおいしい食べものと信じていた頃だ。  冬花ちゃんはふーちゃんと呼ばれていた。ぼくもそう呼んでいた。浅黒い肌で、若い時のヒロスエみたいな長さの青みがかった黒髪だった。眉が太くて頬に小さな古傷がある。運動神経が良くて、特にバスケが上手かった。ぼくも小さかったけれど、中学のバスケ部の部員から「ふーは小さい」って言われていたから、今思