冬花のふともも


 ぼくは小学生だった。おやつに、4つ入ったドーナツを食べても太らなかったあの頃だ。歯を立てたら、シャリシャリ鳴る甘さと、ジュワジュワ染み出る油をただのおいしい食べものと信じていた頃だ。


 冬花ちゃんはふーちゃんと呼ばれていた。ぼくもそう呼んでいた。浅黒い肌で、若い時のヒロスエみたいな長さの青みがかった黒髪だった。眉が太くて頬に小さな古傷がある。運動神経が良くて、特にバスケが上手かった。ぼくも小さかったけれど、中学のバスケ部の部員から「ふーは小さい」って言われていたから、今思えばあの頃からずっと小さかったんだと思う。




 あれは何年生の時で、何の時間だったんだろう。クラス皆が教卓の先生に向かって列をつくっていた。

 ぼくの後ろにはふーちゃんがいた。何の脈絡があったか、ぼくの脚の間へ、ふーちゃんの膝が割り込んできた。ふーちゃんは短パンを履いていた。ぼくは何を履いていたか覚えていないから、肌と肌が触れたかはしらない。


 ぼくは膝にもたれかかるようにゆっくりと屈んだ。ふーちゃんも合わせて、股の間に膝を入れたまま体を上下させた。

 ぼくたちがいるのは教室の、皆が並ぶ列の真ん中だった。着席していた人はいたのだろうか。前後の人は見ていたのだろうか。先生は気づいていたのか。でも、誰も何も言わないで、皆はそれぞれの世界にいた。しゅう と優斗の、リオとサヤの、先生と先頭の子の世界。それと同じように、ぼくとふーちゃんにもふたりの世界があった。

 後ろにある顔は近かった、と思う。短パンから覗いた肌はざらついていたかも。


 女の人を色っぽいと思ったのは初めてだったと思う。その頃から性に関して好奇心旺盛だったけれど、お風呂場で母の乳房を無遠慮に触った感覚を覚えているただの子どもだった。



 たまに話す仲でも、ふーちゃんとぼくは特別仲が良いというわけじゃない。中学に上がったらもっと話さなくなった。ふーちゃんはバスケ部の男子に人気だった。ぼくは帰宅部だった。



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