千波と腕を組んだ


 千波とはサークルからの付き合いになる。なんだかんだ6、7年の付き合いだ。仲良くなったきっかけは好きなアイドルが一緒だったこと。派手髪で怖いと思ってたけど、話してみると案外オタクで、突拍子もないこと言うし、ノリが良くて楽しかった。


 千波が先に写真部に入ってて、あたしが後から入った。あたしは人を撮るのが好きで、千波は人じゃない、風景とか、そういうのを被写体に選んでいた。


 千波は、あたしの言うことに賛成の時は、いつも「いいじゃん」と言う。反対の時は「やば」と言った。慣れた今も冷たく感じるけど、仲良くなると、千波は誰に対してもそうだから、あまり気にならなくなった。


 好きなものは似てるけど、見方はいつも違ってて、あたし達は確かにA型とB型だった。全然違う
のが初めは楽しかったんだけど、お互いにだんだんと「ああ、なるほど」と埋められない距離を自覚していった。


 結構前、2人で阿佐ヶ谷に行ったことがある。中央線沿いの温かくて汚え商店街が好きだから、友達と行きたくなった。ロフトに何か観に行ったのかな。コッペパンを食べに行ったんだっけ。目的は覚えていないが、千波の腕を掴んだのは覚えている。あたしは千波に限らず、友達の腕をすぐ触りたくなるから、それで組んだのだ。


 なんかわかんないけど、千波は潔癖症で、人から触られるのが嫌なのかなって思ってたから、あんまり触ったことがなかった。でも、別に何も言われなかった。


 千波は男の人が好きじゃない。でも、女の人が好きなわけでもない。それを知ったのは徐々に付き合っていく内にだったけど、この日が明確に答えを知った日かもしれない。なんとなく好きな対象の話になったのだ。


 大学生活に浮き足立っていたわりに彼氏がいなくてムズムズしていたあたしから話を振った。

「彼氏はいらないなぁ」

「彼女とかでもないんだ?」

「そうだね」

 見上げたところにあった顔はいつも通りでしかなかった。あたしたちは腕を組みながら歩いていたから、傍から見る分にはカップルでもおかしくないのに、全くそうじゃなかった。あたしは何となく寂しくなった。


 それが変だなと思った。あたしは千波とキスしたいなんて思ったことないのに、千波に「あなたはキスする対象ではありません」と言われて悲しんでいるのだ。あたしは別に好きじゃないのに、相手に好きだと一方的に思われたいなんて、勝手な野郎である。あたしは誰かの特別になりたいだけだった。


 たまに千波から連絡がくる。あたしはたまにそれを返す。お互いの世界のひょいとした外れで、あたしたちは違いを確認し合う。


 

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