しゅーちゃんは帽子を被ったいぬと手紙をくれた
頭の中の夏はすきだが、実際は暑くてきらい。でも、しゅーちゃんに会えるかもって思える。アチアチでジリジリのアスファルトを蹴って蹴っていった先。畑と墓地とガソリンスタンドを横目に、上下にぐねった道を散歩していたら、しゅーちゃんがいるかも。
しゅーちゃんに、もし今、会っちゃったら、気恥ずかしくて修介と呼びかけるんだろうか。しゅーちゃんは、小学生の僕から見ても可愛かった。カワウソみたいな顔。色白のほっぺたはすごく柔らかい。指でつまんで引っ張ると「いたい!」と言うんだけど、それで怒られたことはない。ある時期までは一番、仲が良かった。
僕の家の近くの公園でしゅーちゃんとバドミントンをしたことがある。僕の母と、しゅーちゃんの父もいた。僕らはとても楽しかった。しゅーちゃんの格好良いお父さんと笑い合っている母を見て、幸せな気持ちになったのを覚えている。
それからしゅーちゃんに手紙を貰った。ありがとうというお礼の手紙。しっかりしたお家の子だから、お父さんが書かせたのかもしれない。一緒に貰ったのだ。ミニチュアダックスが帽子を被った小さなぬいぐるみ。僕はとっても嬉しかった。友達と、1学年上の女の子たちに囃し立てられても気にならなかった。
それはしゅーちゃんのことが好きだったからだ。そして、しゅーちゃんも僕をきっと好きだった。
しゅーちゃんのほっぺたにチューしたことがある。きっと校外学習のバスの中だった。何回もチューしたけど、しゅーちゃんは嫌がらなかった。それも別の男の子にからかわれたけれど、その頃にはもう「そうだっけ?」とごまかし方を覚えていた。
もっと大人になった夏。しゅーちゃんに「好き」と言われた。僕らはそれがどんな意味かも知っていた。僕はその気持ちを疑った。だって、ネトゲのチャットだった。僕らは学校で会うのに、知らないアバターから好きだなんて言われても全くピンとこなかった。
僕はしゅーちゃんが好きだった。
僕は「どういう意味で?」なんて聞いた。もったいぶった。多分、しゅーちゃんは「恋愛的な意味で」などと言う。かわいいしゅーちゃん。僕は全然可愛くなかった。言えば良かったじゃん。ちゃんと好きだって。でも僕はなんとか理由をつけて断った。
今しゅーちゃんとすれ違ったって僕はしゅーちゃんを見つける術がない。
でも、きっとまたあのでかい十字路でヒャクパーあのしゅーちゃんだって理解った日には、僕はドキドキして、しゅーちゃんって呼ぶと思うよ。
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