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第12回カレリア語【ヴィエナ方言】 独学記録 - 単数語幹と名詞のタイプ

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カレリア語のうち、本カレリア方言-ヴィエナ方言を学ぶページです。
方言分類に関してはこちらの記事をご参照ください。
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NOMINIEN VARTALOT/名詞の語幹

第9回 名詞の格活用と場所格でも触れましたが、「名詞に格語尾をつける」と言いつつも、実際には格語尾は単数語幹と呼ばれる形につけなければなりません。単数語幹が単数主格と同じ場合もあれば、そうではない場合もあります。

単数語幹を作る際に名詞に起こる変化のタイプには様々な種類があります。一度に覚えるのは大変ですが、使用頻度の高い語のタイプから少しずつ覚えていくしかありません。

以下に記すのは、手元にある教科書に掲載されている名詞のタイプです。これ以外のタイプもあるかもしれませんが、出てきたところで追加で学んでいきましょうかね。

なお、以下タイプ分けの数字は、私が勝手に割り振った数字です。
カレリア語の教科書で、このようなタイプ分けがされているわけではありません。

1)-a/ä, -u/y, -o/ö で終わる語

⇒ 変化なし(単数主格=単数語幹)

          単数語幹  子音語幹
kala   魚  kala-    -
muamo  母  muamo-    -
koulu  学校  koulu-    -

例)Mie olen koulušša.  私は学校にいます。

2)長母音・二重母音(-ie, -ua, -uo, -iä)で終わる語

⇒ 変化なし(単数主格=単数語幹)

           単数語幹  子音語幹
puu  木    puu-    -
tie    道    tie-      -
mua    大地, 国  mua-      -
šuo  沼    šuo-    -
piä   頭    piä-     -

例)Šie olet tiellä.  あなたは通りにいます。

3)i で終わる語

3-1)⇒ 変化なし(単数主格=単数語幹)

           単数語幹  子音語幹
kahvi コーヒー  kahvi-    -

基本的には外来語等が中心です。

3-2)⇒ -i- が -e- に変化

       単数語幹  子音語幹
šormi 指 šorme-    -

多くの -i 終わっている語が、このタイプに含まれます。

例)Hiän eläy Šuomešša. 彼はフィンランドに住んでいます。

3-3)-li, -ni, -hi, -ri, -šiという組み合わせで終わる語
⇒ -i- が -e- に変化 & 子音語幹をもつ

          単数語幹  子音語幹
kieli   言語, 舌    kiele-   kiel-
šieni  キノコ   šiene-   šien-
tuohi 白樺の樹皮 tuohe-    tuot-
veri    血     vere-   ver-
lapši  子ども   lapše-     laš-

基本的には3-2)と同じで、語幹で -i- が -e- という音に変化します。

さて、子音語幹という項目を書いておきながら触れていませんでしたね。
その名の通り「子音で終わる語幹」を指し、特定の格への変化の際に使われます。最初に子音語幹を使うことになるのは、単数分格でしょう。どのように使われるかは、単数分格の回をお楽しみに。

3-4)-mi で終わる語
⇒ -i- が -e- に変化 & 子音語幹 -n- をもつ

       単数語幹  子音語幹
lumi  雪   lume-   lun-

基本的には3-3)と同じですが、子音語幹の作り方がイレギュラーです。
あまり例もないので、このまま覚えてしまいましょう。

例)Lumessa olet tiellä. 雪の中あなたは通りにいる。

3-5)-siで終わる語
 ⇒単数語幹は -je- となる & 子音語幹 -t- をもつ

       単数語幹  子音語幹
vesi  水    veje-   vet-

なんでこんな音に変わるのか、不思議ですよね。理屈はあるのですが・・・「水 vesi」は大事な語ですから、ひとまずこのまま覚えましょう。

例)Vejessä olen tiellä. 雨の中私は通りにいる。

4)-eで終わる語

⇒ -e- が -ie- に変化 & 子音語幹をもつ

        単数語幹  子音語幹
vuate  衣類 vuattie-    vuatet-

語幹で二重母音が発生します。ちなみに上の例で t が増えているのは、ktp交替という現象のせいです。今は触れません。

例)Vuattiella on mato. 服の上に虫がいる。

5)-aš/äš, -eš, -is で終わる語

⇒ -aš/äš は -aha-/ähä-に、-eš, -is は -ehe-に変化
 子音語幹は単数主格と同じ

          単数語幹   子音語幹
oppilaš  学生   oppilaha- oppilaš-
kaunis   美しい  kaunehe-  kaunis-
kirveš    斧    kirvehe-  kirveš-

複雑そうに見えますが、-h- という子音が入り込んでいるだけ、と考えればさほど難しくはありません。また、単数主格形がそのまま子音語幹として使えます。

例)Mie elän kaunehešša talošša. 私は素敵な家に住んでいる。

6)-uš/yš, -oš/öš, -eš, -is で終わる語

⇒ -ukše-/-ykše-, -okše-/-ökše-, -ekse-, -ikse-に変化
 子音語幹は単数主格と同じ

        単数語幹 子音語幹
oššoš  買い物  oššokše-  oššoš-
kakluš 襟    kaklukše- kakluš-
vereš   新鮮な  verekše-  vereš-
jänis    うさぎ  jänikse-   jänis-

これも複雑そうに見えますね。しかし、語の最後の -s/š が -kse/kše- となっているだけです。

-eš, -is で終わっている語は、5)と6)のどちらに該当するか判別が必要になります。
-is に関しては形容詞は5)です。6)は例にあがっている jänis くらいだと最初は思っていて大丈夫。
-eš は語によって覚えるしかない・・のでしょうか、もう少しよく観察したらルールがあるかもしれません。今後の課題。

例)Mie olen oššokšešša. 私は買い物中です。

7)-huš/hyš, -(v)uš/(v)yšで終わる語

⇒ -huo-/hyö-, (v)uo-/(v)yö- に変化
 子音語幹は-hut-/hyt-, (v)ut-/(v)yt- となる

            単数語幹  子音語幹
puhtahuš  清潔さ  puhtahuo-  puhtahut-
levevyš   (幅)広さ  levevyö-   levevyt-

例にあがっている語をみても分かるかもしれませんが、このタイプは形容詞を名詞化した場合の語彙がほとんどです。
少し覚えにくい変化ですが、文章の中で覚えていきたいところです。

8)-ni で終わる語

 ⇒ -se- となる & 子音語幹は -s-

      単数語幹   子音語幹
naini 女性 naise-  nais-

-ni で終わる語は 3-3)じゃないのか、って話ですよね。
これは何といいましょう・・・フィンランド語を理解される方なら一目瞭然でその違いが分かります。フィンランド語でいう -nen という接辞ですね。
つまり、基本的には「人(の性質や性格)を表す名詞、形容詞」が多く該当します。例をあげると、ihmini (人間)、naini (女性)、japanilaini(日本人の)など。慣れれば見分けがついてくると思います。

9)-h, -l, -r, -n で終わる語

 ⇒ 語尾に -e- がつく

           単数語幹 子音語幹
pereh  家族   perehe-  pereh-
aškel  一歩, 歩み aškele-  aškel-
manner 大陸    mannere- manner-
paimen 羊飼い   paimene- paimen-

変化自体は分かりやすいですね。
特に -h で終わってる語が多いのはカレリア語の特徴です。よく覚えましょう。

例)Pereheššä on yksi lapši. 家族には一人の子どもがいます。

10)-ut/yt で終わる語

 ⇒ -t- が -o- に変化 & 子音語幹は単数主格と同じ

        単数語幹 子音語幹
olut  ビール oluo-   olut-
lyhyt    短い  lyhyö-   lyhyt-

これも分かりやすいですかね。あまり例も多くはないので、文中で出会ったときに確認する程度で良いでしょう。

11)-(i)n で終わる語

 ⇒ -(i)n- が -(i)me- に変化 & 子音語幹は単数主格と同じ

        単数語幹   子音語幹
šoitin 楽器 šoittime-  šoitin-

-(i)n で終わっている語は道具を表す語がほとんどです。最初は苦労するかもしれませんが、仕組みが分かればさほど難しくはなくなります。

12)-(ma)toin/(mä)töin で終わる語

 ⇒ -(ma)ttoma-/(mä)ttömä- に変化 & 子音語幹は単数主格と同じ

              単数語幹    子音語幹
näkymätöin 目に見えない  näkymättomä-  näkymätöin-
hiematoin   ノースリーブの  hiemattoma-   hiematoin-

例にあげた語をみても分かりますが、-(ma)toin/(mä)töin は打消しの接辞(~なしの)で、基本的には形容詞になります。
これも変化が複雑に感じますが、決まった形への置き換えなので慣れてしまえば問題ありません。

以上が、現段階で私が把握した単数語幹をつくるための名詞のタイプです。その他、イレギュラーな変化をする語もときどきありますが、順次覚えていくしかありませんね。

さて単数語幹ができれば、後ろに格語尾をつければそれぞれの格を作ることができます。
ただし格語尾をつける際に、語幹の中の k, t, p , čを含む子音(の組み合わせ)が変化することがあります。これを「子音階程交替」と呼んでいます。この子音交替についてはまた今度、まとめます。

学習後のつぶやき

ようやく単数語幹と名詞のタイプについて触れることができました。

通常、教科書ではこのように一覧にまとまっては紹介されず、各課で小出しに説明されます。ですが、個人的には大人の言語学習ではひととおり全体を把握した方が、頭の整理もできて覚えやすいのではないかと思います(単に私の性格でしょうか)。

カレリア語(フィンランド語)では、この名詞のタイプに応じて単数語幹をつくり、さらに語によっては子音階程交替によって子音が変化し、やっと格語尾をつけて格変化させることができます。一単語を正しい形にするだけでも、とてつもない労力を必要とするんですよね。その小難しさが楽しいといえば楽しいのですが。

次回はいよいよ階程交替について・・といきたいところですが、少し小休止も兼ねて月の名前や曜日などの紹介にしたいと思います。

>> カレリア語【ヴィエナ方言】 独学記録 - もくじ

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