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洞窟の影 #14

夢野は目元の緊張を緩め、不思議そうに話した。
「ああ、さっきのか。なんか全然知らないでかいやつが入って来たのかと思ったわ。」
「何言ってんだ」
 彼の言っていることが全く理解できず僕は
問いただす様に質問した。夢野も自分の発言をよく理解していないらしく言葉に詰まりながら答えた。
「いや、なんか分かんないけど、脱力した感じ?なんかこう、化粧してる時とすっぴんみたいな。イメージね。」
「なんだそれ、誰かの見比べたことあんのかよ」
「ねーよ、そんなの。イメージって言ってんだろ、イメージって」
 夢野はけらけらと笑っていたが、その笑顔が発言者は夢野であることを認識させた。全身の毛穴が開いた。僕は脂汗をかいた鼻頭を指で触りながら悟られない様に聞いた。
「じゃあ、今の俺はどっちよ?化粧とすっぴん」
 夢野は笑いながら即答した。
「そんなの化粧に決まってるだろ」
 それだけ言い残し彼は自分の椅子に戻っていった。夢野の後姿は夢野でしかなく、どっから見ても間違うことまずはなかった。彼が
座っていた僕の椅子から伝わる熱すらも彼のものだと断言出来た。夢野は僕のずっと先に
いる気がしていたたまれなくなった。

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