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少女ファイル 満ちぬ街のムメイとクーニグンデ #1

1話 製造された少女

(死体、か)
スポイルドシティのはずれ、ジャンクの山の陰にうずくまる白蝋の肌をした少女の前で、黒猫が心中で呟いた。

(我が依代となり、新しい生活を送ろう)
セーラー服と砂色のポンチョを羽織った彼女に向けて猫は瞑目し、祈りの念を捧げ、そして、目を見開き少女の手指に牙を立てる。
「痛ッ……」
(あれ?)
油の切れた人形のようにぎこちなく顔を上げて、少女は指先にかぶり付く猫を見た。

(生きておるのか……?)
「え? 喋った?」
少女と目が合い、なう。と猫は驚きの声を上げる。そして……逃げた。

(魂が、見えぬではないか!? 其処ほど耄碌したか、ワシは!?)
ちょっと待ってくださいよ猫さん。と言う声と、倒れる音。その2つを背に、しなやかに疾駆しながら猫は……否、猫に宿った魔女クーニグンデが嘆息する。

潮時か。そう思いながらなんとなしに振り返る彼女の目には、巨大な魂の煌めきが映った。
およそビルの5階分。遥かにジャンクの山より高くそびえる、プラチナの輝きを持つ球体。

それが、戦闘人形の少女ムメイと、魔女クーニグンデの”最初”だった。

つづく

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。