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少女ファイル 満ちぬ街のムメイとクーニグンデ #2

承前

(名前は)
「78式B-6-5-0601-999Aです」
(あー……? それは製造名じゃろ。ペットネームはなかったのか)
「うちの隊は本部直属でしたから」
(ちょっとよくわからんが……まあムメイとしておくか)

へんにょり倒れている少女の目前で、黒猫がちょこんと座って会話していた。ネーミングは直感だ。魔女は直感で名付けをする……それはファミリア《使い魔》へのルールなのだが。
どうやら、という但し付きで……確証はないが……先程噛み付いた際、微量ながら”魂”がムメイに流れ込んでしまい、念話ができるようになったのだと魔女は結論付けた。

(ワシは魔女のクーニグンデ。故あってこの様なナリをしているが、かつてはお主と同じ……同じ……? 人間であった)
「私も分類学上本来は人間ですから、それで合ってると思いますよ」
(さよか)
ぐう、と腹の虫がなく。
「お腹が減りました」
(さよか)

+++++++

(なんでほっとけないんじゃろ)
後ろを歩く少女、ムメイをちらと振り向く。一、二歩以上離れると声が届かないので、これは聞こえていないはずだ。現在、先のジャンク山から離れ、人通りのある通りへとたどり着いていた。

なんで、と言いつつ、彼女に理由は分かっている。
ムメイからヒアリングした結果はこうだ。
”大戦”後、所属の隊は解体。彼女ら戦闘人形は、廃棄が決定した。そして、逃げたと。

……クーニグンデは思考する。そして……憤怒する。彼女が魔女に身をやつした頃と何も変わっていない。
砂の幻《ミラージュ》と呼ばれる機械生命体との戦争を開始した人類は、その主戦力をクローニングし各種調整を施した少女達という『戦闘人形』に頼った。

永い”大戦”の末、辛くも勝利を収めた人類は、闘う相手の消えた彼女らを廃棄することに決めた。書類上はそういう事になっている。

猫の身で、傍観して把握しているのはそのくらいだった。

続く

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。