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W.B.G2012 防衛者(中編)

【承前】

噴水のように、ぬるい血潮が私の顔を濡らす。反射的に銃のセーフティを解除し、振り返りざま三点射でアラクネ(と呼ばれていたバケモノ)の頭を銃撃する。
「オープンファイヤ!」言う前に撃ってしまったが誰も咎めやしないだろう。ばん、と、内側から裂けるように虫の頭の半分はなくなった。が、気にする様子もなくこちらへ歩みを進め、思い出したように脚に絡む生首を投げ捨てた。二腕、四脚。上半身は人間風だが、下半身はキモチワルイ虫のそれだ。

『高エネルギー! 次々来る!』
じっじっじっじっじじじっ
キチチチ!!
そして眼の前の奴が鉤爪で私に躍りかかるとともに、耳障りな音が精神をかき乱す。爪はなんとか躱すが、視界の端に収束する黒光。
またくるのか? と言う思考をかき消し、空振りして姿勢を崩した虫を勢いのまま蹴り転がし、腹……に当たる上半身と下半身のつなぎ目を撃ち抜くと、ようやく沈黙した。が、振り返るとそこには二体のアラクネ。そして、反応は尚増えている。

「うおおおおおお!」通信班のコリンが新手のアラクネに支給の拳銃で射撃するが、頭の甲殻をへこませるだけで致命打にならず、虫が跳躍の後、胸の真ん中を爪で貫かれた。ごぷ、といやにその音が耳に響く。
「ナビゲーション! 相手は虫! 頭を吹き飛ばしても死なない」『そちらのヘッドカメラログを確認した。神経節が分かれているのだろう』どうでもいいわ!

『敵身体構造は虫と同様と推測。頭ではなく上下半身のつなぎ目を狙われたし』訂正。それらしい解析を通信で行き渡らせる。しかし、先の様子を見るに護身用程度の装備では通じるかどうか。

「引きつけろ」「くそ、そんな細かく狙えるかよ!」「腕が!足が!」「グレネード! 伏せろ」『敵、ポップ。総計12。反応小康』「掃射する。オブジェクトに当たっても構わんな!」戦闘班の機関銃手が数体まとめて打ち砕くが、動きが三次元的で一掃とはいかず、頭を斬り飛ばされた。
乱戦のさなか、私はといえばバディのカルラと合流して、慎重に作戦領域の反対側へと移動する。

「……駄目ね」
端的に彼女が評したとおり、そちらはもう、みな身体を引き裂かれていた。あっという間に、これで人数としては半「きゅぶ」分「べご」に……
「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!」
隣にいたカルラがその美しい身体を左右に割り裂かれ、強烈な臭気を放つ血と臓物のカクテルが爆散する。私は半狂乱で飛び退くが、すぐに背後にナニかの気配。横に再び転がりしたたかに頭を打つ。ああ、私の愛しい人。
『何が起こった! 報告しろブラボー1』「カルラが……カルラが……」
遠のく意識の中、一回り大きな虫が振り下ろした鎌状の腕を引き抜き、残った皆の方へと歩いていた。

そして、目を覚ます。
『ブラボー1! 生きているのかブラボー1!』頭に響くほど大音量でナビゲーションの声が私を呼んでいた。
「他の皆は……」『全滅だ……お前以外。なぜお前だけが襲われなかったのか……』そんなもの、私が知りたい。
そう考えていると、背を預けていたものの正体に私は気づいた。

「……ナビゲーション。【オブジェクト】は健在だ。支持を」ふらつきながらそれを支えに立ち上がり、果たして再度破壊などできるのか疑問に思いながら、そう呼びかける。
『……』
「ナビゲーション?」トントン、とヘッドセット横のボタンを二三度押して通信を試みる。
『』
だが、ホワイトノイズすら返さなくなり、周りを見回す。

ひどく静かだった。
設置されていた照明は遠くで倒れ、明後日の方向を照らしていた。

そして、眼の前には、真っ黒な人型。
ひ、と声が出る。ぬめらかな光沢をもつその表面が蠢き、膜が剥がれるように中身が露出すると、泥だらけの若い女性の顔……濡れそぼった戦闘服……弾が切れかけの拳銃……。
つまりはそれは、「私」だった。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。