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AA! アイドル スターバスター・セラの追憶 後編

承前

『AA(アーマー・アラウンド)出演開始。第二演者、スターバスター・セラ』
「私、大! 見! 参!」
「「ウオワァァァァァ!!」」
スターティングポイントから射出された私は一直線に今日の悪魔……ミノタウロスさんへと向かい、弾丸装甲(バレットシェル)を脱ぎ捨てながら大名乗りを上げた。
射出の勢いで頭から血が適度に足下へと移動し、すごく……頭がスッキリする。
「さあさあさあさあ! 私が来たからには貴方なんかまっ二つよ!」
その結果、私はいつもこんな感じで頭より先に口が動くようになるのだ。

V、VMoooooooo!
ミノタウロス……牛さんが空を振り仰ぎ雄叫びを上げる。
『咆哮ね。あの後は有意に攻撃力が上がるわ。しばらくは様子を見て』
「了解!」
ヒ村さんの言う通り空中で戦斧を中段に構え、力に盛り上がる牛さんの腕と足に注目する。飛ばないが、跳ぶため、注意が必要だ。
ラージ級に至ると体高は10mに近づき、もはや小さなビルを相手に戦闘をする様なものである。
PiPiPi!
動体検知のサブシステムがアラートを発し、一瞬後、牛頭が勢いよく迫る。頃には私は後ろへ飛んでいた。それを追うように本命の牛さんの戦斧が横薙ぎに迫る。今日は戦斧と戦斧でダブル戦斧だね。

膝を抱えながら前方へロールし、壁のような戦斧の横腹を掠める。火が付きそうなほど熱い! その勢いを乗せて回転を加速させ、両踵をドロップキック気味に頭に叩きつける。
VuMoO……
きれいに眉間にヒット。しかし怯んだのは一瞬。牛さんは虫を払うように顔を上下左右に震わせ私はその軽自動車の乱舞に等しい空間を脱出する。
「やっぱり大きいと強いね」
『戦力の基本ね』
だがそれに文句を言う私ではないノダ!
牛さんは振りかぶる動作の隙を嫌ったのか、斧頭の逆、石突を槍のようにして滞空する私を突き上げる。遠目にはスローモーションな動きでも巨大な質量と莫大な筋力で繰り出されることが相まって凄まじい速度である。

豪、豪、豪と空気を切り裂いて三連打。しかしそのことごとくを私は避けちゃう。
「「「ウオオオオオオオオ!!!!」」」
『いいわね。沸いてるわ』
「じゃあモットモット、だね!」
そう言って私は再度突き出された石突の先端に乗って(三角コーンくらいの丸さだ)大きく空中へ飛び上がる。その後ろには、太陽。
目が眩んだのが、わかったよ。
「ミュゥージッック……スタァトォ! 聴いてねみんな。私のナンバー!」
そして私はそのまま重力にブースターの加速を乗せ、腰部スラスターを操作しそれを回転運動に変換。まだ戦斧は出さない。回転を高めつつそのまま落下してゆく。
「「「「大回転な(ローリング)ニぃぃぃぃチジョウ!」」」」
そして戦斧を降り出し、全運動エネルギーを乗せて叩きつける。
ファンと私でシンクロして、エネルギー変換された黄金色の電光がスパークして白く輝く。
牛さんの肩口を食い破り、大きく漆黒の構成粒子が爆散した。
でも、これで終わりじゃないよね。

VuGi、Moooooooooo!!

牛さんが肌で感じるくらい凄まじい音量で悲鳴を上げる。だけどあの体はまともに骨が通って筋肉が走る体ではないので、動きが鈍っても片腕が失調することはない。
着地した私に反射的に叩きつけられた戦斧を横っ飛びにかわすが、一瞬だけフィルターしそこねた音量が頭を貫き、衝撃で跳ねた自分の腕で鼻を強く打ってしまった。敵の攻撃は弾けても自分の手はたまに当たるんだよね。
【今日の朝はソーセージマフィンがいいな】
私の歌が聞こえる。うん、帰ったらしょっぱいのが食べたいな。
『セラ! あなた鼻血が!』
「いい。だいじょぶ」
鼻血が出る感触がする。
でも、それが楽しい!
【付け合せは、ホクホクのマッシュポテト「シェークも飲みたいな」でねっ! シェークも……】
あ、とちった。
『セラ……』

気を取り直して、足元を駆ける私に向けて牛さんは蹄でキック、ストンプ、戦斧薙ぎ払い。しかし地面に埋まることを見越した斧の一閃は途中で構造材に食い込みストップする。それを好機と私は斧の柄を足場に駆け上がった。
「スター……」
牛さんはそれを引き抜くこうとするが、地面のシャッターの自己修復機構も相まってなお食い込む。
「スター……!」
数度試したあと、牛さんはそれを諦め、迫る私を捕まえようと両手で迫る。
「大! スター!」
だが、それより私が踏み切るのは早かった!
「大スター☆バスター【おやすみ】牛さん!」
星型の斧頭が巨大化し巨大化し巨大化し、その大きさが牛さんと同じくらいになったとき、歌の最後の詩と一緒に私はそれを振り下ろした。
『地面にフィールド緊急展開! 底が抜けるわよ!』
ばっっっっつーーーーーん!
牛さんは予告通り、左右に真っ二つになり、その活動を停止する。

「だって、だってね、その女の人、ひらひらして、ふわふわして、キラキラしてたんだもの!」
「顔も見えないのに?」
「うん! 絶対可愛い人だよ!」
「そっか、だからセラは、アイドルだって言ったんだね」
「うん!」

「はァ、はァ、はァ……」
私はポップな後奏を聴きながら、あの日の、私の星を見つけた日のことを思い出していた。

【おわり】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。