平均年齢70歳の、男の料理サークルの講師をしています。⑦

実はずんだ白玉を食べたおじさまたちを私は見ていません。
ずんだ白玉を食べた後は、市民センターの担当者さんがサークル化を提案するお話しをすることになっていたのです。

「先生はそのお話しに同席しなくて大丈夫ですから。私の方でしますので帰っちゃってくださいね。」

そう言われていたので、作り終わって着席したところで私は最後の締めの挨拶をして帰る事になっていました。


「毎週末ご参加いただきどうもありがとうございました。これから市民センターの方のお話しがあるそうですが、私はここで失礼します。慣れない調理室で毎回お疲れだったかと思います。私も至らない点が多々あったかと思いますが、この時間の中で何か心に残る料理がありましたら、ぜひご自宅で作ってみてくださいね。私もこの地域に住んでおりますのでもし見かけたらお声かけてください。本当にありがとうございました。」

するとおじさま達から拍手が。
「楽しかったよ、ありがとうね」
「毎週勉強になったなあ〜」と口々に。
みなさまジェントルマン。

「それでは、市民センターの方にバトンタッチしますね。
私はこれで失礼しまーす!」

というわけでアウェイ感満載の講座が終了したのでした。
あーホッとしたーーー!


この後は私はもう知らない。サークル化しても講師なんてやらない。
やりがいのある大きな仕事がたくさん控えているし、
オシャレじゃないからSNSネタにもならないし。
シニア向けのレシピなんて作れないし。
毎回あんなに疲れた顔してたし、きっとサークル化はしないだろうなー。
もう少し簡単な料理にしてあげればよかったかな・・・。
いやーもう振り返るのはやめにしよう!もう終わり終わり!!
頭のすみっこで反省会が続くのはいつものこと。
まずは無事に市民センターにバトンタッチできた自分を褒めてあげよう。
ぐるぐる考えながら帰路へ。




翌日、市民センターから電話が。
「昨日はどうもありがとうございましたー。
あの後みなさまにお伺いしたところ、サークルを作ろうということになりました」

えええええ〜〜〜っ??!!

「ほんとですか!あんなに毎回疲れてたのに」

「そうですよねえ。でも楽しかったし勉強になったからーっておっしゃってましたよ」

「そ、それはうれしいです・・・
あ、でもこの後の先生はできないんで、探してくださいね」

「はい、先生何度もそうおっしゃっていましたのでそのようにお伝えしました。
ひとり見当つけている先生がいらっしゃるのでそちらにお声がけしてみますね」

「あ、いらっしゃるんですね!よかったー」

「はい、でも今までの経過の中で聞きたいことがあったらまたお電話してもいいですか?」

「あ、どうぞどうぞ、遠慮なくいつでもご連絡ください!」

「ありがとうございます〜。それでは失礼します」


なんと、サークル化するってーーーー!(思わずバンザイ)
どんな料理が喜ぶか分からないまま引き受けて悩みながらやったけど、
引き受けてよかった。
おじさまたち、新しい先生とがんばってね!

その後、仕事仲間や友人には
「私さー、この夏に市民センターで平均年齢70歳のおじさま達相手に料理講座やったんだよねー」
「えー何それ?大変そう〜〜」
「そうなの〜〜大変だったのよ〜〜もう終わったからホッとしてるの〜」
「何作ったの?健康料理?」
「うーん、もうそのメニューから決めるの難しくて大変だったのよ〜〜」
「考えただけでつかれそーww」
なんて感じでいい笑い話のネタに。

その頃の私は日本酒の輸出販促支援で香港へ出張したり、キッチンスタジオ兼ギャラリーのオープンへ向けて動いていたり、カフェメニュー開発やら料理写真のスタイリングやらの仕事でスケジュールがぎっしりの毎日。
市民センターからの次の電話が来た時にこの講座はすっかり過去の記憶になっていました。

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