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「生産する」と「譲る」のyield

化学に携わるものを自称する私にとって、yieldの意味は生産するや生成するといったものでした。特に合成系の論文に目を通していると、AとBからCを合成したといったものがよく見られます。また、名詞のyieldは収率を意味します。

標識のyield

転勤でアメリカに来て、当然運転しなければいけないので道路標識を学ぶのですが、yieldという単語をよく見かけました。"Left turn yield on Green"といった具合です。動詞のyieldは生産するというニュアンスしか知らなかった私はどういう意味だろうと思いつつ、仮にも日本で免許を取っているので大きな問題なく車を運転できていました。SSNも無事発行された頃に現地の免許取得のため標識の勉強をし始めたころ、どうやらyieldは譲れという意味らしいということを学びます。先ほどの例文の場合には、青信号での左折は対向車に道を譲れということです。アメリカでは左折専用信号(日本での右折専用信号、青矢印の信号)が先に点灯して車を通し、その後に普通の青信号が点灯します。普通の青信号のときにも左折は出来ますが、その際に対向車がいたら道を譲れということですね。

Yieldのルーツ

生産する、譲るという全く異なる意味を持つように思えるyieldですが、それぞれどのように派生したのでしょうか?オンライン辞書によると、yieldは元々持っていた意味が現在の英単語にほとんど伝わっていないようです。本来yieldの由来となった語の意味がラテン語のreddereの訳語として置き換わってしまったものが現在伝わっている意味なのだそうです。ラテン語のreddereは何かに対して対価を支払うという意味を持っています。
生産するという意味のyieldは対価を支払うとは若干遠いですが、労働の対価を与えるというニュアンスだったのがいつしか労働とその結果そのものを表すようになったようです。
譲るという意味のyieldは、借金の借り手がお金を返す際にyieldの元となった語を使っていたところ、借り手は貸し手に頭が上がらないので平伏するといったニュアンスが追加され、譲るという意味が派生したようです。

Yieldとの出会い

以下は完全な余談なのでご興味なければ読み飛ばしてください。私がyieldと出会ったのは約10年前のことになります。学生実験の課題で、何かしらのコンセプトを決めて自由に錯体を作ろうというものがありました。化学便覧をぺらぺらと捲っていたところ見つけたのが1,10-フェナントロリンの錯体で、かなり身近な金属で赤・黄・青の3色の錯体が出来ることから、信号カラーを再現しようと思い立ちます。合成はかなり簡単で、1,10-フェナントロリンの塩酸塩と各種金属の塩を混ぜるだけで合成できます。
問題はレポートでした。幸い化学便覧に合成方法まで載っていたのですが、同定のための可視光スペクトルがありませんでした。同定には可視光スペクトルの吸光度分析を用いており、化学便覧にも極大吸収波長は載っているのですが、可視光全体のスペクトルはなく、正体不明のピークが出ても原料に由来するのか、それとも合成された錯体も同じ箇所にピークを持つのかが断定できません。そういった訳で文献調査をするのですがなかなか見つからず、英語の論文を読み始めたときに出会ったのがyieldでした。
そのときは収率の意味として使われていたのですが、有機合成系の論文では当たり前のように最終収率が1%を切っており大変な世界だなと思ったのをよく覚えています。結局見つからなかったのはトリス(1,10-フェナントロリン)コバルト(II)錯体の吸光スペクトルなのですが、英語の文献も見つからずロシア語で書かれた論文から化学式をたよりに図だけを引っ張ってくるということをしていました。

参考

Online Etymology Dictionary, "yield"
https://www.etymonline.com/word/yield

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