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クリスマス・キャロル

クリスマスの時期に思い出すお話がもうひとつ。




それが『クリスマス・キャロル』


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ディズニーでアニメ化をされているので、知っている人も多いのではないでしょうか。

海外ではクリスマスの定番と言っても過言ではないかもしれない。
クリスマスの概念を変えたお話、なんていう風にも言われている世界に残る名作です。


私は中学生の時、授業の課題で、これを読みました。
思い返せば、初めて読んだ海外古典だったかもしれません。
指定タイトルの中から、一番とっつきやすそうな本を選びました。

クリスマスってついているくらいだからね。
きっとハッピーで明るいお話しなんだろな!と思って開きました。



しかし。



読み進めるも、どうも、雰囲気がおかしい…
全然クリスマスらしくない。
なんだかとっても暗いのです。




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主人公は陰気で冷酷。
ケチな金貸しのお爺さん、スクルージー。

誰に対してもつんけんした態度をとる。
「クリスマスなんて寄付をたかられるだけの鬱陶しい催し!」
「くだらない!」
と吐き捨てるような人物。


そして物語が動き出す、クリスマスイブの夜。
彼の前に突如として現れるのは、サンタクロースではなく、




恐ろしい亡霊…。


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これ、ホラー小説だったの??
クリスマスじゃなくてハロウィンの間違いなのでは…
予想していた話とかけ離れすぎている展開に、びっくりした記憶があります。見た目と中身が全然違うお話って、たまにあるけども。
これもそういう一冊かもしれません


けれども、最後まで読み進めると、とてもあたたかいお話であることがわかります。ずっと絵本が欲しいと思っているんだけど、なかなか買えてない。
今年は買えるだろうか〜。



ということで、今日はクリスマス・キャロルとその作者、チャールズ・ディケンズについて語ってみましょう。

ディケンズ氏、この決まった人が出てきがちな私のnoteにおいて、めずらしく初登場の人物です。








クリスマス・キャロルのあらすじ

エべネーザ・スクルージーにとって、クリスマスは不愉快な日だった。
恵まれない人々のためにどうか…といって、寄付をせびりに来る連中。
うっとうしい。
貧しいやつらが飢え死にしようと知ったことではない。
余計な人口が減るだけだ!


仕事を終えて、いつものようにベッドにはいり、眠ろうとしたクリスマスイブの夜。スクルージーは恐怖に飛び上がることになった。




彼の枕元に現れたのは、7年前に他界した共同経営者である、ジェイコブ・マーレイの幽霊。
その身体は鎖でがんじがらめになり、顔には悲痛の色が浮かんでいた。



この鎖は、生前に犯した罪のためだ。
金銭と物欲に支配され、他者を顧みないものの最期が、どれだけ苦しいものであるか…私を見ればわかるだろう。
お前は私のようにはなってはいけない。




マーレイは、スクルージーが新しい人生を手に入れるために、これから毎晩1人ずつ、彼の元に3人の幽霊がやってくることを告げる。
彼らはスクルージーを、過去、現在、未来に連れて行く。
彼はそこで様々なものを目にする。


やる気に満ちていた過去、悲しかった思い出、若い頃の記憶。
こんな時代が、自分にもあったこと...。



くだらないと切り捨てたあのクリスマスの夜の、貧しくも幸せそうな家々の様子。薄給で雇っている部下に、病弱な子どもがいること。
貧しいがために治療ができず、彼は長くは生きられないと、幽霊はスクルージーに教える。

「だけどお前にとっては、余計な人口が減るだけだよな?」




そして、未来で目にした、誰のものかわからない死体。
この死体の人物は、みんなから憎まれていたらしい。
惜しまれることもなく、遺体から衣服すら剥ぎ取られ悲惨な光景。 
その顔は確認できない。




一体これは誰なのか。



その墓石に刻まれている名前は...


スクルージーは墓石をみつめた。










イギリスの文豪 チャールズ・ディケンズ


あらすじ、いかがだったでしょうかー。
再び現在に戻ってきたスクルージーがどう変わったのかは、ぜひ原作や、映画でお楽しみください。

悲惨なところでぶちきってみましたが...
きっと心がぽかぽかすると思います。

アニメーションでは3人の幽霊は、みんな容姿が違うのですが、3番目の幽霊が個人的には一番怖いですね。他の2人と違って喋らないし、ぱっと見、死神??っていうくらいの暗さがあります。


さて、ここでもう一つ作品を紹介したいと思います。
それがこちら、

「メリークリスマス!ロンドンに奇跡を起こした男」


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ちょっと邦題。
もう少しなんとかならなかったのか...と突っ込みを入れたくなってしまうタイトルなのですが。
これ、なかなか面白い映画です。
2017年のもので、クリスマス・キャロルが大好きな私は映画館まで見に行きました。


どういう内容のものかというと、これは、チャールズ・ディケンズの、クリスマス・キャロルの生みの苦しみを描いた作品になります。


つまり、超偉大な作家の執筆過程が見れる映画なのです!
たまらん。笑





ディケンズは1800年代、ヴィクトリア朝のイギリスに生きた作家です。

オリバーツイストなどで名声を手にし、海を超えた遠いアメリカでも大歓迎を受けるほどに人気作家になりました。


しかし...その後の作品は


3作続けて、大失敗。



本が売れない!
彼には家庭もあって、立派な家も持っていましたが、経済的にどんどん追い詰められていきます。
本を出したい、といっても、どこも融資をしてはくれません。





こうなったら、自費出版で勝負にでるしかない。
復活の物語を書くしかない!!!
印刷所のごく短いタイムリミットに迫られながら、クリスマスキャロルの執筆に取り掛かります。


これが成功しなければ...家族もろとも救貧院行きだ!!!!






イギリスの社会背景


この頃のイギリス文学作品を理解する上で、押さえておきたいのが「救貧院」と言うワードです。
映画でも何度かでできます。詳しくは語られていないですが、背景を理解すると、物語の面白みがますので、書いてみましょう。


産業革命によって大発展したイギリスでは、格差が一気に拡大し、スラム街が増加。その措置として政府は、新救貧法という法律を制定しました。
この法律は貧しい人々を助けるための法律です。名目上は。



具体的な内容としては、救貧院という施設を政府が作ります。
そしてそこに貧しい人々を収容し、労働と食事を与え、生活させます。




こうして書くと生活保護のようないいものに思えますが、現実は厳しいものです。

まず、性別や年齢で収容区分が分けられるので家族は離れ離れにされます。一度入ったら最後。
親子であろうとも、二度と会うことはできません。

自由な時間もありません。
与えられた仕事をし、パンと水だけの生活です。
そして、この院の中で亡くなっても、まともなお葬式もあげてもらえません。刑務所と大差ないと思われます。




また、この法律は都市に溢れかえる貧者に目を向け、助けることを人々に禁じました。政府が政策により救済を図っているため、一般人はかかわるなということです。

これは助けたいけれど、自分の生活で精一杯な人々にとってある種救いになりました。助けないことに言い訳ができるようになったからです。
助けたら罰せられるのだから、と。



貧しきは哀れまれる対象ではなく、罰せられる対象。
貧しくいることが罪になる社会。
お金持ちの貴族は、弱者を省みることをやめてしまいました。




映画でも描かれていることですが、ディケンズもそうした社会の歪みに苦しめられた1人です。

ディケンズの父親は、金満家で、見栄っ張りの浪費家でした。ある日、積み重なった借金がとうとう払えなくなって逮捕されてしまいます。


家族を養うためには、まだ12歳だったチャールズが働きに出るしかなかった。本当は学校に行って勉強したかったのに。
ウォレンの靴墨工場というところで過酷な労働を強いられ、この体験は彼の心に大きなトラウマを残しました。


ディケンズを含めたこの頃のイギリスの作家たちは、この社会のあり方を批判し、世の中に慈悲の心を取り戻そうと働きかけた人たちです。
クリスマス・キャロルはそういう背景をもって描かれた作品だといえます。

だからこそ、当時の人々の心に広く受け入れられたのだと思います。






執筆過程がおもしろすぎる




これ!ってぴったりの名前が浮かぶと、そいつが目の前に現れる!


映画のなかでもすごく楽しいのは、ディケンズがスクルージーを主とした登場人物と、実際に対話をしているところです。
インタヴュー形式で創作を進めます。この過程がとても面白いです。
気になる人はみてみてください↓↓↓
スクルージーがどういう人物かよくわかります。




なんだか、すごくわかるような。わからないような。こうやって自分の中に入り込んでいくんだなーって、見ていて面白いです。



おもしろいけれど、生活をかけたプレッシャーとは常に戦っていて、




みんな僕の言うとおりには動いてくれない...


と、錯乱している時もあります。

一部は出来上がっても、落とし所を考えつくのってやっぱり難しいんだな…


そのうち自分の許せない過去と、スクルージーの卑屈さがリンクしてくところも興味深いです。

ディケンズが幼少期の傷を克服した時、スクルージーも一緒に変わります。











社会を批判するとともに、自分の生い立ち、父親との確執と立ち向かい、もがき苦しんだ末に書かれたクリスマス・キャロル。


ぜひ、この冬の鑑賞作品としていかがでしょうか。















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