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DOMMUNE年末特別配信「都市は誰のものなのか?! METACITY Presents 多層都市「幕張市」年末特番スペシャル!!!!!!」アーカイヴレポート:「都市と文化」編

実在しない行政区「幕張市」を題材に、豊かな文化を育む新たな自治のあり方やオンライン上の祝祭性を⾼める⽅法など、都市に必要となる基本機能のアップデートや代替案を模索するMETACITYが主催するアートプロジェクト「多層都市『幕張市』プロジェクト」。

そのプロジェクトの⽴ち上げを記念して、日本を代表するライブストリーミングスタジオ/チャンネル「DOMMUNE」から「都市は誰のものなのか?!
METACITY Presents 多層都市「幕張市」年末特番スペシャル!!!!!!」と題した特別配信を行なった。この記事では配信で繰り広げられた様々な議論──SFからブロックチェーン、多自然主義に至るまで──の一部始終をレポートする。

本記事は「幕張市創立記念展」マガジンの連載企画の一環です。その他連載記事はこちらから
・TEXT BY / EDIT BY: Naruki Akiyoshi, Natsumi Wada, Shin Aoyama


第一部「都市と文化」

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市民の内面的な豊かさを発揮できる都市はいかにあり得るのか。第一部では、音楽を媒体に個人の記憶や感性が織り込まれた地図サービス「Placy」を開発する鈴木綜真、個々人の感性から建築と表現を組み直す建築家津川恵理、作家グループ「破滅派」を主催し千葉市SF作家の会 dead-channel.jpのオーガナイズも行う作家の高橋文樹をゲストに、架空の都市から都市の文化を生み出す構造が追求された。

2000年後と50年後と明後日

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──高橋さんは千葉市出身のSF作家の方々と共に千葉市SF作家の会dead-channel.jpを立ち上げられていますが、そもそも実際の海浜幕張はどのような場所なのでしょうか?

高橋:千葉県はもともと千葉街道沿いの内陸側が栄えていて、時代を経るごとに都市開発に伴い海沿いに新しい交通網や街がつくられるようになったという経緯があります。海浜幕張もそのなかで新しくつくられた街なので、周辺地域から独立したどこかアーティフィシャルな場所という印象がありますね。そこから発想して、海浜幕張が一部富裕層のためのゲーテッドシティと化した世界を舞台にした「オートマティック クリミナル」という短編作品を発表したことがあります。

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──そのような作品の創作活動においてはどのようなこと意識されているのでしょうか?

高橋:SF小説を書く際は、例えば2000年後の世界を描くようなことを意識しています。おそらく数十年後であればある程度思い浮かべられると思いますが、2000年後は想像しがたいですよね。ほかにも性別が10個ある世界、人類とは異なる生命が社会を築いている世界など、現実からギアを2段上げたような世界を描くことを心がけています。

津川:私の場合は50年先を描くような仕事をしていますね。公共空間は基本的にちょっとした未来までを想定して考えるので。

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鈴木:高橋さんが2000年後を、津川さんが50年後を描く仕事だとしたら、Placyは明後日ぐらいを描く仕事をしているのかなと。Placyの地図には訪れた場所にその時聴いていた音楽などの情報を紐づけられるのですが、もしかしたらそれが数日後にその場所の近くを通りかかった人の行動に影響を与えるかもしれない。

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いまの都市開発は大きく分けて、利便性などを定量的に解析して進める方法と、強い指向を持ったリーダーが強烈なリーダシップを発揮してその人の感性を反映させる方法の2つがあります。個人的には、その街で生活している人の行動や趣向が都市空間に紐づくことで街づくりになんらかの影響を及ぼすようなことが起きれば都市はもっと面白くなると思っています。明後日の誰かの小さな行動の変化を積み重ねて場所・風土の醸成に貢献できればなと思って活動しています。

都市の記憶と文化の源流

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──鈴木さんの活動は、都市における人々の記憶を地図に実装していくある種の歴史づくりとも呼べると思います。

鈴木:地図には2つの目的があって、1つはナビゲーションのための地図、もう1つは物語を共有するための地図があります。このプロジェクトでは人々の物語や文脈をつなぐ地図について考えられたらいいですね。

津川:Placyの実践を聞いて学生の頃を思い出しました。私は中高の6年間、忘れたくない場面や感情が高揚した瞬間に特定の数曲を意識的に聴き続けるようにしてたんです。いまでもその曲を聴くとその瞬間のこと、その時いた場所のことを思い出せます。そういう瞬間の映像などはある程度他のデータとして保存できるかもしれませんが、もっと感性的にフォーマット化して頭のなかに記憶を置いておくために音楽を使っていました。

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高橋:音や匂いを再現されると記憶が蘇りますね。僕も東京に住んでいた頃は、海の匂いを嗅ぐと千葉に帰ってきたなと感じていました。

鈴木:例えば幕張市にロンドンの一角と全く同じ見た目、同じ匂い、同じ音の空間を挿入したとして、人は実際のロンドンに訪れた感覚を覚えるんですかね。仮にその感覚を得たとして、そこにはロンドンの文化があるとみなせると思いますか?

津川:たしかに建築を含めどの領域でもテクノロジーの進歩によってあらゆる再現性は高まっていますが、その場所の文脈やストーリーはどうしても再現できないと思います。その場所が歴史的に積み重ねてきたものや周辺との関係性など、文化はそれらを含めた文脈のなかで生まれるものです。どれだけテクノロジーが発展してもどうしても再現し得ないものはきっとあるはずです。

挑戦的にボールを投げる

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──幕張市という仮想の都市を描いた時に、それを現実世界にどのように接続させることができると思いますか?

高橋:例えばポケモンGOは何もない公園に人を集めましたよね。それと同様に全く異なる文脈のレイヤーをでっちあげて都市に敷く方法もあると思います。勝手に特定ジャンルの聖地にしたり。
また、幕張市の嘘の歴史をつくってみるのも面白いですね。ほかにも幕張市の税収や人口、交通機関など、架空の都市とはいえそこにリアリティーの強度があるとそこから想像も膨らみますよね。

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津川:近年国内で開催された「インポッシブル・アーキテクチャー ―建築家たちの夢」では、ザハ・ハディッドら建築家による実現に至らなかった大胆な構想やアイデアが紹介されていました。仮に幕張市の構想が現在の社会や技術では実現できないとしても、彼らのように未来に向かって挑戦的にボールを投げることをすれば、いつしか時代が経たときに現実に接続できる可能性はあると思います。

高橋:そういう構想を市民自らが考えられたら、より面白いと思います。SFプロトタイピングという開発手法がありますが、Code for Japanが推進するシビックテック的な発想でそれができたらと考えています。ゆくゆくはその発想が文化として根付いたSF特区が生まれたらいいなと。例えばですが、ドローン特区のような場所が実現したとしたら、そこで育つ子どもたちはきっとドローンを使った新しい遊びを生み出すはずです。新しい文化が生み出される場所を実現するためにはどのような条件が必要だと思いますか?

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津川:以前、ニューヨークと神戸・三宮の商店街それぞれの街の中に風船を置くという都市実験を行ったことがあるのですが、ニューヨークでは自主的に実験を行えたものの、日本では協議の際に、バルーン1つにつき警備員を1人配置してくださいと言われたんです。それはそれで日本の公共空間の現在を提示できるかなとは思いましたが、日本の公共空間にはそれほど複層的で厳格な秩序が存在しています。
そう考えると、やはりまずは規制の緩和が必要になるのではないでしょうか。文化が生まれるためには最低限の機能プラスアルファのなにかが必要になります。国内の歩道と車道を見ても私的利用に関する規制が強いため、最低限の交通プロセスの場所にしかなっていません。例えば建物とそれ以外というように分けたなら、人の行動範囲も配置されるプログラムも大きく異なるはずなので、異なるレイヤーを重ねる必要があるかもしれません。

──SF特区のなかで、タクティカルアーバニズム的な実践とSFプロトタイピング的な手法の融合が生まれたら面白くなるかもしれませんね。

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NEXT:「都市と制度」編はこちら!

登壇者プロフィール

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鈴木 綜真 |SOMA SUZUKI (株式会社Placy 代表取締役)
京都大学工学部物理工学科を卒業後、MIT Media LabのDIgital Currency Initiative/Open Music Initiativeにて音楽の著作権を管理するプラットフォームの開発に参加。その後、ロンドン大学UCL Bartlett School修士課程で都市解析を学ぶ。音楽やイマジナビリティの観点から街のパーセプションを解析し、都市における感覚的知覚に価値をもたらすことをテーマに研究を行なう。2018年9月に日本へ帰国。音楽で場所を探せる地図サーヴィスを開発するPlacyを創業。Wired Japan - 『Cultyvatying the CityOS』連載。

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高橋 文樹 | FUMIKI TAKAHASHI(作家)
web開発者にして4児の父。1979年8月16日に千葉市に生まれる。大江健三郎の後を追って東京大学に入学し、フランス文学を専攻。2001年、『途中下車』で小説家デビュー。2007年、『アウレリャーノがやってくる』で新潮新人賞を受賞する。また、同年よりオンライン文芸誌破滅派を主催し、電子書籍を中心としたインディーズ出版に注力。佐川恭一、斧田小夜などの新しい才能の発掘を行なっている。2016年よりSFへ進出。ゲンロン大森望SF創作講座に参加し、飛浩隆特別賞を受賞。同講座の受講生を中心としたグループSci-Fireの運営やSFポッドキャスト番組ダールグレンラジオのパーソナリティも務めた。再び商業出版での活動も再開し、「pとqには気をつけて」が2018年短編ベストコレクションに掲載されるなどの実績を残している。

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津川 恵理|ERI TSUGAWA(ALTEMY代表/東京藝術大学教育研究助手)
2013年京都工芸繊維大学卒業。2015年早稲田大学創造理工学術院修了。2015-2018年組織設計事務所に勤務し、2018-2019年Diller Scofidio + Renfro (NY)に文化庁新進芸術家海外研修生として勤務。2019年神戸市三宮駅前広場コンペ最優秀受賞、ALTEMY代表として独立。2020年東京藝術大学教育研究助手に着任。


モデレータープロフィール

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和田夏実|NATSUMI WADA
1993年生まれ。ろう者の両親のもと,手話を第一言語として育つ。視覚身体言語の研究、様々な身体性の方々との協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。さわる会話から生まれた「LINKAGE」「たっちまっち」、手話の視覚化プロジェクト「Visual Creole」などを展開する。2016年手話通訳士資格取得。2017-2018、ICCにてemargensis!033「tacit creole / 結んでひらいて」展示。

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青山 新|SHIN AOYAMA
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在学中。METACITYメディア編集長。
2019年より、批評とメディアのプロジェクト「Rhetorica」に加入。2020年より、「ありうる社会のかたち」を試作/思索するデザインスタジオ「VOLOCITEE」に加入。興味領域は建築デザイン、デザインリサーチ、クリティカルデザイン、スペキュラティヴデザインなど。
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