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METACITY SNS 1月特集:「CITY as WORDs」

METACITYのTwitter / Instagramでは毎月、特集企画として、世界各地から集めた「ありうる都市」のヒントとなる事例を紹介しています。

2022年1月特集では「CITY as WORDs」として、都市にまつわる言葉の語源を探っていきました。一見ただの言葉遊びにも思える本特集ですが、都市を表現するために用いる一つ一つの言葉に本来どのようなイメージが込められていたのかを探ることは、都市を捉え直すための有効なきっかけとなるはずです。普段何気なく使っている言葉たちを遡ることによって、みなさんは意外な場所へとたどり着き、そして思いもよらない言葉同士が血を分けた兄弟であったことに気づくでしょう。

本記事では、Twitter / Instagramでは書ききれなかった言葉の変遷や派生語・関連語、付随するエピソードなどについて補足をしていきます。特集の振り返りにぜひチェックしてみてください!

・TEXT BY / EDIT BY: Shin Aoyama

city

「city」の直接的な語源は古期フランス語で「街」を意味する「cité」です。これは最初期の都市の一つであり、「パリ発祥の地」とも言われるセーヌ川の中洲「シテ島」の名称にも表れています。

「cité」はさらに、ラテン語で「市民」を意味する「civis」、イタリック祖語で「社会」を意味する「keiwis」を経由し、インド・ヨーロッパ祖語で「横になる/愛する」を意味する「*kei-」に辿り着きます。ここでは、この変遷の中でも特に「civis」に注目してみましょう。古代ローマではこの「civis」によって構成される共同体を「civitas」と呼びました。そして「civitas」が都市の社会組織をあらわしたのに対して物理施設は「urbs」と呼ばれ、ここからは「urban」の語も誕生しました。古代ローマの社会共同体の呼称には他にも、小行政区である「vicus」や、ローマ国家に服従しながらも自治権を与えられた自治都市を指す「municipium」などがあり、これらはそれぞれ「village」と「municipal」へと繋がっていきます。さらに言うと「civitas」は古代ギリシャにおける「polis」に相当する概念であり、こちらは「丘の上/城塞」を意味するインド・ヨーロッパ祖語「*tpolh-」が語源とされています。このように、古代ローマ/ギリシャにおける都市の呼称が、現在の西欧圏における様々な規模の共同体の語源となっていることがわかります。一方、これらと少々異なるルーツを持つ単語として「town」が存在し、これは古期英語で「しきり」を意味する「tun」に由来するとされます。


village

「village」の直接の語源はラテン語で「近隣」を意味する「vicus」であり、これは「city」の項で紹介したとおり、古代ローマの小行政区の呼称でもありました。さらに語源を遡るとインド・ヨーロッパ祖語で「定住」を意味する「*weik-」に行き着きます。

ここから派生した意外な単語には「villain」や「nasty」があり、田舎の粗野な人間を示す言葉として発展したとされます。「polis」から「礼儀正しさ」を意味する「politics」が派生したように、都市とそこに住まう市民がいかにして自分たちの境界線を形づくっていったのかが、こうした語源の中に垣間見えるでしょう。


community

「community」の直接の語源はラテン語で「公共の」を意味する「communis」であり、これをさらに遡ると、インド・ヨーロッパ祖語で「一緒に」を意味する「*ko-」と「交換する」を意味する「*mei-」に分解できます。

この「*mei-」からはTweetで触れたように「労働」を意味する「munis」が生まれ、様々な派生語へと繋がっていきました。他にも「交換」から「変化する」イメージを受け継いで「mad」が生まれたり、「city」の項で紹介した「municipium」を経由して「municipal」が生まれたりもしました。


governance/culture

「governance」の直接の語源はギリシャ語で「船の舵を取る」を意味する「kubernao」、「culture」の直接の語源はラテン語で「住む/耕す」を意味する「colo」ですが、これらはいずれもインド・ヨーロッパ祖語で「回す」を意味する「*kwel」に遡ることができます。

ここから派生した語には「遠隔」を意味する「tele-」が存在します。言うまでもなくテレテクノロジーは人類の共同体の拡張において重要な役割を果たしており、特に「テレワーク」は過密都市での交通難や移動に伴う大気汚染への対策として、1970年代のロサンゼルスで発祥したとも言われています。

一方で「governance」が持つ「統治」のイメージと共鳴する語としては「region」が存在します。「region」はラテン語で「統治する」を意味する「rego」、さらにインド・ヨーロッパ祖語で「まっすぐ」を意味する「*hreg-」へと遡ることができ、「正しいきまりによって管理された場所」のイメージが原型として存在します。この語源からは「rule」や「regular」も派生するなど、私たちの共同体の規則や管理にまつわる代表的な言葉の繋がりが感じられます。


gather

「gather」の語源は古期英語で「寄せ集める」を意味する「gaderian」、ゲルマン祖語で「一緒に」を意味する「gadur」、インド・ヨーロッパ祖語で「まとめる」を意味する「*ghedh-」と遡っていくことができます。ここからは「集められたモノ」のイメージを経由して「goods」が誕生しました。他にもTwitterで紹介した派生語「good」に「物語/メッセージ」を意味する「spel」が合わさって「良い知らせ」を意味する古英語「godspel」となり、この「god」が「神」と誤解されることで「福音」を意味する「gospel」が生まれました。このように、一見単純な「集める」という概念から様々な想像の飛躍が見える、非常にエキサイティングな語としての「gather」が浮かび上がってきます。


agora

「agora」は現在一般的に用いられる「広場」以外に「集会/話/市場」といった意味を持っており、この語はインド・ヨーロッパ祖語で「集まる」を意味する「*ger-」へと遡ることができます。

同じく「広場」を意味する語としては「plaza」が思い浮かびますが、こちらはラテン語で「中庭/開けた道」を意味する「platea」、インド・ヨーロッパ祖語で「平らな/広がる」を意味する「*plat- / *pele-」へと語源を遡ることができ、「平らで広い場所」のイメージが原型となっています。ここからは「place」「field」「plantation」といった語が派生し、共同体においてヴォイドが持っている意味が、様々な規模と抽象度で捉えられています。


avenue

「avenue」はラテン語で「〜する」を意味する「ad」と「来る」を意味する「venio」に分解して語源を遡ることができ、この「venio」はインド・ヨーロッパ祖語で「歩いてゆく」を意味する「*gwem-」に由来します。

また「avenue」自体も時代によって意味が変遷しており、元々は「田舎へ向かう道」を意味していましたが、そこから「広い並木道」を表すようになり、「大通り」を指す言葉になりました。

一方で、都市の街路を表す際にすぐに思いつくもう一つの言葉が「street」でしょう。こちらはラテン語で「(舗装された)道」を意味する「strata」に由来し、これはさらにインド・ヨーロッパ祖語で「広がる」を意味する「*stere-」を語源としています。このように「street」には「ある地点から広がっていくこと」がイメージの原型として存在しているのです。こうして形づくられた「street」には1400年頃から「通りの人々」、1930年頃から「市民のための公共空間」の意味が付け加えられてゆきます。

「street」と語源を同一にする単語としては「strategy」が存在し、これは「軍隊を指揮して広げる」イメージを原型に持つとされます。なお「strategy」と対になる単語「tactics」は「軍隊の配置を操作する」イメージを原型としており、インド・ヨーロッパ祖語で「触れる/動かす」を意味する「*tehg-」を語源に持ちます。この語源からは「(触れることで)評価する」を意味するラテン語の「taxo」が生まれ、「tax」へと繋がってゆきます。


語源の繋がりを紐解いていくと、都市という概念がいかなる変遷と議論を経てきたのかが、うっすらと浮かび上がってきたように思えます。いかに自分たちを他から峻別して共同体を立ち上げるのか、そうしてつくられた共同体の規則をどのように定め管理していくか、そのためにはいかなる空間的・物質的リソースが必要なのか、あるいはその共同体が結果的に生み出すものとはなんなのか...... 本特集で見てきた様々な単語の繋がりの中には、都市にまつわる本質的な概念とイメージの飛躍がともに潜んでいるはずです。

今回は英語を中心とした西欧圏の語源を探るに留まりましたが、他の言語体系を通じて都市を眺めてみると、また違った景色が浮かんでくるかもしれません。引き続きリサーチを続けていきますので、ぜひお楽しみに!


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青山 新|SHIN AOYAMA
デザイナー・ライター・エディター。METACITYメディア部門編集長。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了(デザイン)。2019年より、批評とメディアのプロジェクト「Rhetorica」に所属。2020年から2021年、「ありうる社会のかたち」を試作/思索するデザインスタジオ「VOLOCITEE」に勤務。専門領域は建築デザイン、デザインリサーチ、クリティカルデザイン、スペキュラティヴデザインなど。
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