見出し画像

DOMMUNE年末特別配信「都市は誰のものなのか?! METACITY Presents 多層都市「幕張市」年末特番スペシャル!!!!!!」アーカイヴレポート:「都市と制度」編

実在しない行政区「幕張市」を題材に、豊かな文化を育む新たな自治のあり方やオンライン上の祝祭性を⾼める⽅法など、都市に必要となる基本機能のアップデートや代替案を模索するMETACITYが主催するアートプロジェクト「多層都市『幕張市』プロジェクト」。

そのプロジェクトの⽴ち上げを記念して、日本を代表するライブストリーミングスタジオ/チャンネル「DOMMUNE」から「都市は誰のものなのか?!
METACITY Presents 多層都市「幕張市」年末特番スペシャル!!!!!!」と題した特別配信を行なった。この記事では配信で繰り広げられた様々な議論──SFからブロックチェーン、多自然主義に至るまで──の一部始終をレポートする。

本記事は「幕張市創立記念展」マガジンの連載企画の一環です。その他連載記事はこちらから
・TEXT BY / EDIT BY: Naruki Akiyoshi, Natsumi Wada, Shin Aoyama


第二部「都市と制度」

効率化を追求するばかりで失われてしまった市民としてのアティチュードを取り戻すためにはいかなる制度がありうるのか。第二部では、液体民主主義の実装を目指すスタートアップLiquitous代表の栗本拓幸、MITメディアラボで分散型都市管理を研究する酒井康史、自己主権型ID基盤「UNiD」の開発・運営を行うCollaboGate Japan株式会社代表の三井正義、経済産業省で行政のデジタルトランスフォーメーションに取り組む吉田泰己らと共に、硬直化した現在の統治制度のオルタナティヴを実証する場として幕張市を掘り下げ、新しい制度が描くありうべき都市像を探検していく。

プラットフォームと市民の権利

画像1

──登壇者の皆さまは都市や国家、企業に捉われず、適切な意思決定の単位を探してらっしゃる印象があります。現在の集団合意形成の仕組みに関して、どのような課題があり、どのような解決策があるのでしょうか?

画像2

三井:Google関連会社のSidewalk Labsがカナダのトロントで行なっていたデジタル都市プロジェクトの頓挫が好例なのですが、その理由は生活データを全て取られてしまうのではないかという市民の反発、つまりプラットフォームと市民の間に縦の分断ができてしまったことによります。
今まで我々のデータは、我々が利用しているサービスやプラットフォーム側が持ってました。そのコンフリクトを避けるためにCollaboGateでは、個人がデータをコントロールできる新しいプロトコルを開発していますが、幕張市における合意形成のあり方を考える際には、住民間の意思合意形成システムのあり方が重要になるかと思います。

画像3

吉田:個人データを全て囲い込まれている状況や、自身のデータの取り扱われ方の不透明性が、行政やプラットフォーマーに対する市民の不信感に繋がるのだと思います。改善策として挙げられるのが、自身のデータのコントロール権を取り戻す分散型IDの考え方。また、電子投票により代表者の選出ではなく、社会的な争点そのものに投票することができれば、自分が選択・参画している実感につながり、納得感が生まれるのではないでしょうか。

三井:欧州では、サイファーパンク(暗号技術と暗号理論の利用による個人のプライバシー確保を目指した、暗号技術規制に反対する活動家集団)の思想を現代的にアップデートさせたような議論が盛んです。日本ではあまり聞きませんが、プライバシーミドルウェアというキーワードのもと、選択的に個人情報を開示できる権利を守りながらプラットホームと共存する方法を模索する活動が増えています。

酒井:自分のデータをどのように保管するかが重要になりますよね。データ搾取に対する世論を測ることは難しいですが、公共性を考えていく上では重要なテーマのはずです。

画像4

三井:個人のデータは行動データと属性データに大きく分けられます。それらを選択的に開示できるテクノロジーがこれからのデジタル中心の社会をつくっていく上で必要になるはずです。

栗本:個人データに関する権利を自ら管理できるようになれば、票に対する考え方も変わり、ひいては民主主義における合意形成のプレイヤーとして自分が何を果たすべきかも問い直されてくるだろうなと思うんです。そうなればさらに委任も価値を持つはず。現在も議会に議員を送り出すという点で委任をしているはずですが、いまは委任をしているという感覚はほぼないので、現状を乗り越えるきっかけになるのではないでしょうか。

画像5

議会制民主主義とそれを補う新しい回路

──コロナ禍によって大きな政府が全てをケアサポートすることの難しさが露わになり、分散型統治の必要性が注目されるようになってきています。既存の統治システムのオルタナティヴとして唱えられている様々な統治方法の可能性や限界について議論していけたらと思います。

画像6

吉田:あらためて、間接民主制がフィクションに近くなっているのではないかと感じています。現行の選挙制度では代表者を選んでいるものの、代表者がどのように意思決定をしているのか、どこまで自分たちの利害を代表してくれているのかわかりにくい状況です。デジタルテクノロジーを活用し、争点投票に対するコストを下げれば、一部は直接民主制に近い意思決定を行えるのではないでしょうか。

栗本:私たちLiquitousは民主主義のDXの推進を掲げ、オンライン上の合意形成を実現するためのプラットフォームを開発しています。直接民主主義的な要素と間接民主主義的な要素を合わせた液体民主主義に基づく機能も盛り込み、プラットフォームを各自治体や政党に実装することでひとりひとりが影響力を発揮できる新しい民主主義を実現できるのではないかと考えています。

画像7

酒井:「国民全体が全てのマニフェストを精査してその影響も含めてあらかじめ合意されていること」が民主主義の前提なのですが、現実的にこれは不可能です。人格や人脈で政治家を選ぶことはヒューリスティックスとしてある程度正当であるという論文が出ていますが、日本ほど暗黙に中央的なものを信じている国は少ないと思うんです。例えば中国は見ての通り一党制ですが、その下のレイヤーは細かく分散しています。日本には一度信じ始めたものにいつまでも固執し続けてしまうという国柄があるように思えます。
幕張市の面白いところはコンテクストのなさで、究極的には一党独裁も選べるし、完全直接民主も選べる状況にあります。そこでどのような統治システムがありうるのか皆さんにお聞きしたいですね。

画像8

栗本:盲目的に政府機構を信頼しているという話もありましたが、OECDの各国政府への信頼度調査を見ると日本は圧倒的に低いんですね。投票率も低く理想とはまだまだ程遠いところにもある中で、国民主権は問い直されるべきで、おそらく問い直していく行為そのものが、民主主義のデジタルトランスフォーメーションなんだろうとは考えています。

吉田:全ての争点に対して自ら直接投票できるようになった時、おそらく全てやりたいという人は負担が大きすぎてあまりいないと思います。また、間接民主制で全てを代表者に任せるとして、特に関心のある争点で意見が異なったときにそれを防ぐ方法はいまはありません。直接民主制と間接民主制の使い分け、その中庸があり得るのではないかと考えています。

三井:テクノロジーによって人事評価などの解像度は高まっている一方で、国政などは数年に1回。本当に正しいのかと違和感はありますよね。

画像9

栗本:下手したら4年に1回ですよね。この瞬間に今から4年前の価値基準で現在の判断をしているわけですからてんでおかしい話です。たしかに全てをオンライン上のプラットフォームで合意形成をすればいいという話でもないため、議会制民主主義を通して選ばれるプロとしての政治家の存在は時に必要な場合もあると思います。
ユルゲン・ハーバーマスが二回路制のデモクラシー(Zweigleisie Politik)を提唱していましたが、既存の回路=議会制民主主義とそれを補う新しい回路によって、より良い意思決定を行なっていく、これが1つのゴールなんだろうなと。中から今の枠組みを変えていくのは非常に労力もかかるからこそ、幕張市のような自由な場所で試行した結果を現実世界に還元することには可能性があると思っています。

画像10

分岐する幕張市

──スウェーデンでは障害のある方に対する社会制度の整備により、関連インフラの集中やスタートアップの増加が促進され、世界的にも優れたバリアフリー環境が生まれました。それと同様に、幕張市になんらかの特区やルールを設定すれば、現実では想像し得ない都市のあり方が生まれてくるのではないでしょうか。

三井:ソフトウェア開発のバージョン管理のような発想が参考になるかもしれません。幕張市の都市像が分岐してそれぞれにおける制度がアジャイルに変化していくと、現行の意思決定のあり方に対するリファレンスになり得るはずです。

画像11

酒井:バージョン管理は試行錯誤の過程を記述する仕組みです。その履歴が残れば過去の政策や制度を検討することができるので、未来への資産になるかと。その起点をどこに置くかに関する議論は面白いと思いますね。

三井:幕張市は仮想都市なので、行く末が仮にディストピアでも僕はいいのかなと思っています。普段の活動や日常の意思決定の積み重ねが投票になってるような集合知的な仕組みであったり、ライフゲームのように勝手に形が変わっていく都市、ブロックチェーンプロトコル「EOS.IO」の委任型プルーフ・オブ・ステークのようなインセンティブとガバナンスが密接している制度など、思い切りぶっ飛ばした前提から都市を考えてみたいですね。

画像12

栗本:それぞれ分岐した先にあるそれぞれの「幕張市」で、いわゆるコモンズやコモンウエルス的なものが生まれると面白いですよね。現在の日本においてDXは効率化や経済合理性に主眼を置かれていますが、幕張市プロジェクトは、その試行の中で、DXと方法論は近似しつつも、ある意味での「人間性の快復」につながるかもしれません。
このプロジェクトの役割は、無数の試行を通じて現実の代替案を網羅した「理想像の辞書」を整備することだと思います。幕張市はスマートシティのバーチャル版にも、インターネットのフィジカル版にもなりえる場です。あらゆるプレイヤーの集合体である実際の都市では実現の難しい最適な仕組みを探すことができるので、このチームで一緒に考えていけたらいいですね。

NEXT:「幕張市の射程」編はこちら!

画像13

栗本 拓幸 | HIROYUKI KURIMOTO(株式会社Liquitous CEO)
1999年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学。NPO法人Rightsをはじめとする複数の法人の理事として、政治参画に係る政策提言・調査研究などに携わる。2020年2月、Society5.0が喧伝される中で、民主主義のDXを進めるLiquitousを設立。オンライン上の合意形成プラットフォーム"Liqlid"の社会実装に取り組む。

画像14

酒井 康史 | YASUSHI SAKAI(MITメディアラボ・シティサイエンス 博士課程/情報建築学会理事)
1985 年生まれ。日建設計/デジタルデザインラボを経て、現在 MIT Media Lab 博士課程兼 リサーチアシスタント。人とテクノロジーの関係を探りつつ、なかでも"都市という機械” を対象に研究する。分散ヴァージョン管理システムや新しい民主プロセスを参照し、建築 や都市における集団的合意形成をサポートするシステムの開発に携わる。
業績としてクーパーヒューイット美術館(米国 NY 州, 2018)や Siggraph(カナダ, 2018)など展示や、文化庁 メディア芸術祭審査員推薦作品(2014)や Golden Art Hack Award(2014)などの受賞がある。

画像15

三井 正義 | MASAYOSHI MITSUI(CollaboGate Japan 株式会社 共同創業者)
2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科卒業。自己組織化をテーマに研究を行い、卒業後は分散システムの設計・開発に携わる。2019年5月にCollaboGateを創業、デジタルトラストの再構築をミッションに、分散型IDプラットフォーム「UNiD(ユニッド)」の開発・提供を行う。

画像16

吉田 泰己 | HIROKI YOSHIDA(経済産業省商務情報政策局 情報プロジェクト室長)
2008年経済産業省入省、法人税制、地球温暖化対策、資源燃料政策等を担当の後、2015年から2017年にシンガポール国立大学MBA, リークワンユー公共政策大学院、ハーバードケネディスクールでデジタルガバメントを学ぶ。2020年7月より現職。経済産業省及び事業者向け行政サービスのデジタル化を推進。

モデレータープロフィール

画像17

和田夏実|NATSUMI WADA
1993年生まれ。ろう者の両親のもと,手話を第一言語として育つ。視覚身体言語の研究、様々な身体性の方々との協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。さわる会話から生まれた「LINKAGE」「たっちまっち」、手話の視覚化プロジェクト「Visual Creole」などを展開する。2016年手話通訳士資格取得。2017-2018、ICCにてemargensis!033「tacit creole / 結んでひらいて」展示。

画像18

青山 新|SHIN AOYAMA
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在学中。METACITYメディア編集長。
2019年より、批評とメディアのプロジェクト「Rhetorica」に加入。2020年より、「ありうる社会のかたち」を試作/思索するデザインスタジオ「VOLOCITEE」に加入。興味領域は建築デザイン、デザインリサーチ、クリティカルデザイン、スペキュラティヴデザインなど。
PortfolioTwitter



この記事が参加している募集

イベントレポ

皆様の応援でMETACITYは支えられています。いただいたサポートは、記事制作に使わせていただきます。本当にありがとうございます!