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『シン・ウルトラマン』とキリスト教とグノーシス主義と仏教の関連


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注意

これらの物語の重要な展開を明かします。

特撮テレビドラマ

『ウルトラQ』
『ウルトラマン』

特撮映画

『シン・ウルトラマン』

漫画

『ドラゴンボール』
『ドラゴンボール超』
『NARUTO』
『決してマネしないで下さい。』
『オタク王子とベストセラー作家令嬢の災難』

テレビアニメ
『NARUTO』
『NARUTO 疾風伝』
『ドラゴンボール』
『ドラゴンボールZ』
『ドラゴンボール超』

アニメ映画

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』

小説

『二重螺旋の悪魔』
『われはロボット』
『塩狩峠』
『幼年期の終わり』

はじめに

 『シン・ウルトラマン』の重要な展開を明かすネタバレのツイートやnote記事を書く中で、私の知るかすかな宗教の知識も、重要なきっかけになると考えました。
 ここでは、『シン・ウルトラマン』の終盤の展開から逆算して、この物語の方向性を、キリスト教、グノーシス主義、仏教と関連付けて考察します。

『シン・ウルトラマン』の解説

 まず私が重視するのは、ウルトラマンが他の外星人(宇宙人)やその生物兵器「禍威獣」と戦う中で、人間が外敵に対抗するために、ウルトラマンのように巨大化する「ベーターシステム」を使いそうになり、阻止されたものの、他の外星人に多数の人類が兵器利用される前に、ウルトラマンの同族「ゾーフィ」が兵器「ゼットン」で恒星系ごと滅ぼそうとすることです。
 ウルトラマンの同族であるゾーフィが人類を滅ぼそうとするのは驚くべき展開です。原典の『ウルトラマン』で該当するゾフィーも、ウルトラマンが帰ればハヤタの命が失われて人類が危険にさらされることを「許してくれるだろう。人間の平和は自分達でつかみ取ることに意味がある」と独断で主張するところはありましたが、ゾーフィは故意に滅ぼそうとしているのです。
 しかし、これはキリスト教、グノーシス主義から予測出来る余地があり、なおかつ仏教の哲学にも関わる感情や論理がゾーフィから見受けられます。

キリスト教とSF

 まず、キリスト教は牧畜民族で重視される宗教で、神を羊飼い、人間を羊になぞらえる主張も多く、唯一の神が人間に罰を下す、多神教から見れば苛烈なところがあります。
 ゾーフィとウルトラマンの故郷である光の星は、デザインワークスによれば人類を生物兵器として作り出した初期設定があり、「自分達で生み出した生命なのだから自分達の都合で滅ぼすのは当然だ」と考えている可能性があります。
 ゾーフィが「廃棄処分」、「刈り取る」という家畜や農作物や作り物に対する表現を人類にするのも、人類が「光の星の住人が自分達に似せて生み出した生命」だからとも考えられます。その「生殺与奪」を、メフィラスが奪おうとしたのに憤ったともみなせます。
 ただ、ウルトラマンにだけ時間制限のあることを知っているメフィラスが「君も人類を武力制圧出来る」と言ったのは少し疑問がありますが。

 『幼年期の終わり』は、人間を農作物として、悪魔のような要素を持つ宇宙人が、さらに上の存在の命令で管理するとも言えるので、『シン・ウルトラマン』に通じます。
 特に、『幼年期の終わり』で宇宙人があまり表立った暴力を振るわず、人間の自分達より残酷とも言える闘牛に反対して、その参加者に痛みだけ味合わせたところが重要です。似た要素として、メフィラスが「現法はそのまま」と言いながら、自分の実験台の人間の個人情報がさらされるのを、謝りながら強制的に削除したのは、「自分が法律を破ってでも人間を支配するのは、権利ではなく義務だ。支配される人間の方が悪い」というような論理を押し通すパターナリズムがみられます。
 そのような善導、パターナリズムにより、神のような存在が強引な善意を人間に強制執行するのが、キリスト教の要素かもしれません。
 ウルトラマンが十字に手を組んで光線を放つのは、相手の罪への裁きだと言えるのが、十字型のゼットンにより、今度は人類が裁かれると跳ね返されていると言えます。

グノーシス主義の「偽りの創造」は批判しにくい

 しかし、その神が絶対的な能力を持つのか、善なのかという疑問も、『シン・ウルトラマン』には見受けられ、それはキリスト教で異端とされたグノーシス主義を連想させます。
 グノーシス主義は、真の神々の世界の最下層の女神「ソフィア」が誤って産み落とした神「デミウルゴス」あるいは「ヤルダバオト」が、布にくるまれて自分を全知全能の神だと思い込み、勝手に作り出した物質の世界が「この世界」であり、人間には真の世界の名残である「霊性」があるため、それを認識(グノーシス)すれば救われるという思想です。
 ソフィアはゾーフィやゾフィーに名前が似ています。
 原典の世界でゾフィーはウルトラマン達の故郷「光の国」で、キング、ケン(父)、マリー(母)以外に年長者や上司の見当たらないナンバー4ほどの高い地位にあるように見えますが、『シン・ウルトラマン』のゾーフィは光の星の命令に忠実というところから、むしろ低い地位かもしれません。メフィラスが撤退する、ウルトラマンを救い出すなど、強さは相当なものでしょうが。
 光の星が誤って人類を生物兵器として繁栄させ、その管理が行き届かずに多くの星で生物兵器として使われてしまう危険性を発生させ、その後始末を忠実なゾーフィにさせているに過ぎない、笑えない喜劇のような展開だったのかもしれません。「何をやっているんだ」と批判しようにも、「それで人類が生まれたのだろう」と言われれば反論しにくくなります。
 これに似ているのが、『ドラゴンボール超』のビルスです。『ドラゴンボール』原作の神々と異なり人命を軽んじる破壊神のビルスは、原作で最高位の界王神に威圧的で、強いものの破壊神のいる中では「レベルの低い宇宙」である原作の第7宇宙の存在で、かなり怠慢かつ放任なところがあります。悪役のフリーザに、部下のサイヤ人を滅ぼさせて「悪人を減らした」つもりになるようにです。そのコミカルに人命を軽んじて危機を招くのが、『シン・ウルトラマン』では「光の星が人類を増やし過ぎて、ゾーフィに滅ぼさせることになった」という流れかもしれません。
 キリスト教では、人間を作り出した神は全知全能で善なる神だとされ、それへの疑問を扱うSFに、グノーシス主義の気配を感じるという『ヱヴァンゲリヲン研究序説:Q』の記述もあります。
 グノーシス主義のソフィアのように、光の星が誤って人類を生み出し、それにより常識が作られたとすれば、常識を作り主が壊すのは善なのか悪なのか、という論理が複雑になります。
 『ドラゴンボール超』でビルスを批判するときも、「ビルスのその行いのおかげで世界が成り立っているのだろう」と言われれば反論が難しくなります。
 『ドラゴンボール』の世界観はキリスト教なのか仏教なのか曖昧ですが、人類を生み出した創造の神と、そのミスなどを補うために破壊する神の、一般常識を超えた倫理が、『シン・ウルトラマン』やキリスト教、グノーシス主義を連想します。

人間を生み出した存在の限界

 また、仏教の「色即是空」も連想します。
 そもそも、キリスト教の神が全知全能で善だとされるのは、「人類や世界を作り出したのだから何でも出来るはずだし、善意あるに違いない」という論理があるのでしょう。
 『塩狩峠』でキリスト教を信じるようになった主人公にはその気配があります。「汚い土から美しい花が生じるのは何かが感じられる」というようにです。
 しかし、人類を生み出した存在がいるとしても、人類を全てにおいて上回るのか、という疑問の余地があります。
 『われはロボット』では、「人間より優れたロボットが人間に作られるはずがない」と信じ込むロボットがいますし、『二重螺旋の悪魔』で人類を生み出した「生命体」は、かなり失敗の多く、むしろそれで人類を生み出したとさえ言えるところがあります。
 そうして、ロボットが人間を超えるように、「人が神を超える」と言えます。『オタク王子とベストセラー作家令嬢の災難』や『ドラゴンボール超』や『NARUTO』にもその気配があります。

2023年2月14日閲覧

 そもそも、人類を「作る」としても、無から有を生み出すのではなく、有と有の組み合わせから新しい有を生み出すに過ぎないかもしれません。
 理系の大学生が多数描かれる『決してマネしないで下さい。』で、「パソコンを作れるんですか?」と質問された学生が「どこから?部品を組み立てるのは作ると言わない」と返しています。
 キリスト教やグノーシス主義で「神」と呼ばれる存在も、「どこから」、どの段階の「有」から人類を生み出したのか、という疑問が生じるかもしれません。
 しかし、「有」の組み合わせから「有」を生み出すとしても単なる足し算ではなく、あ新たな性質が生まれる可能性はあります。仏教で「色」という物質の組み合わせから、「空」という全ての性質が生まれるという思想は、組み合わせこそ未知の性質を生み出すという現象に鍵があるかもしれません。
 経済学の合成の誤謬、分子の集まりで時間反転対称性を崩すエントロピーの増大が発生する現象、2つの天体だけでは生まれない複雑さが3つ以上の天体で発生する計算のようにです。

人間には「間」がある

 『シン・ウルトラマン』から脱線したかもしれませんが、私は外星人と人間の違いを「間」にあると推測しました。
 『シン・ウルトラマン』の外星人は、ザラブとメフィラスが種族名と個人名の区別のみられず、個体と全体の区別がなさそうでした。
 ウルトラマンは他者のために自分の命を犠牲にした神永に興味を持ち一体化し、浅見に「助け合わなければ人間は成り立たない」と言われています。一方ザラブは人間を「無秩序な群体」と呼んでいます(正確には群体とは遺伝子の同じクローンの集まりなのですが)。
 また、人間は単独ではザラブやメフィラスに勝てないかもしれませんが、メフィラスのベーターシステムで巨大化して多数で挑めば、ウルトラマンやメフィラスやゾーフィにも勝てるかもしれないと、私は推測しました。
 ベーターシステムの数、人類自身の巨大化する性質は光の星でも把握出来るかもしれませんが、人類自身の繁栄した数によって、既存の性質が組み合わさり、ゾーフィの危惧する未知の性質が生まれたとも考えられます。
 「人間」は、外星人に単独では劣る「人」でも、その複数の組み合わせ、いわば「けん」から新しい強さが生まれるのかもしれません。それが「色即是空」の「空」にも通じるかもしれません。

「そのときどきで違うことを言う」矛盾が生み出す性質

 そして、劇中の人間のうち、田村は禍威獣への核兵器使用に最初は反対しながら、衛星軌道上とはいえゼットンに使おうとしており、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でゲンドウが批判したような「そのときどきで違うことを言う」ところがあります。
 しかしゾーフィは、「死を受け入れる心と生きたいと願う心」が同時に存在する人の心に興味を持ち、それを神永との一体化で手に入れたウルトラマンを助けています。ゾーフィとウルトラマンも、単独では人間にある性質のない「人」でありながら、ゾーフィがウルトラマンを助けることで、その「間」に人間らしさ、「矛盾する性質を併せ持つ心」を手に入れたのかもしれません。
 また、『シン・ウルトラマン』は『ウルトラQ』と異なり、ゴメスと争うリトラが登場せず、禍威獣同士の争いはありませんでした。放置されたのが環境破壊で目覚めたとはいえ、メフィラスが目覚めさせたため、特定の目的でしか動かず、禍威獣同士が争わないのは、彼らが単独のプログラムで動いているためかもしれません。
 ザラブの言う人間の「無秩序」も、ザラブに似たところのある『ドラゴンボール超』のザマスが憤ったような、人間同士の争いにあるかもしれません。
 その人間同士の争い、統一されない言動にこそ、組み合わせで未知の性質を生み出す鍵かもしれません。
 ザマスが超ドラゴンボールやサイヤ人の体や神である自分の魂の組み合わせから、単独にない被害を出したように、メフィラスが人間の数と自分の技術の組み合わせから甚大な被害を出しかけたように、「組み合わせ」、「間」が「空」に通じると考えます。

まとめ

 キリスト教の「人間を生み出した神が人間を滅ぼす」、グノーシス主義の「この世界を生み出した神は間違っているかもしれない」、仏教の「既存の物質の組み合わせから未知の性質が生まれる」という思想から、『シン・ウルトラマン』を照らし合わせられるかもしれません。

参考にした物語

特撮テレビドラマ

円谷一ほか(監督),金城哲夫ほか(脚本),1966(放映期間),『ウルトラQ』,TBS系列(放映局)
樋口祐三ほか(監督),金城哲夫ほか(脚本),1966-1967,『ウルトラマン』,TBS系列(放映局)

特撮映画

樋口真嗣(監督),庵野秀明(脚本),2022,『シン・ウルトラマン』,東宝

漫画

鳥山明,1985-1995(発行期間),『ドラゴンボール』,集英社(出版社)
鳥山明(原作),とよたろう(作画),2016-(発行期間,未完),『ドラゴンボール超』,集英社(出版社)
岸本斉史,1999-2015,(発行期間),『NARUTO』,集英社(出版社)
蛇蔵,2014-2016,『決してマネしないでください。』,講談社
日部星花,一宮シア,『オタク王子とベストセラー作家令嬢の災難』,(BOOKWALKERなどに連載)

テレビアニメ

内山正幸ほか(作画監督),上田芳裕ほか(演出),井上敏樹ほか(脚本),西尾大介ほか(シリーズディレクター),1986-1989,『ドラゴンボール』,フジテレビ系列
清水賢治(フジテレビプロデューサー),松井亜弥ほか(脚本),西尾大介(シリーズディレクター),小山高生(シリーズ構成),鳥山明(原作),1989-1996,『ドラゴンボールZ』,フジテレビ系列(放映局)
大野勉ほか(作画監督),冨岡淳広ほか(脚本),畑野森生ほか(シリーズディレクター),鳥山明(原作),2015-2018,『ドラゴンボール超』,フジテレビ系列(放映局)
伊達勇登(監督),大和屋暁ほか(脚本),岸本斉史(原作),2002-2007(放映期間),『NARUTO』,テレビ東京系列(放映局)
伊達勇登ほか(監督),吉田伸ほか(脚本),岸本斉史(原作),2007-2017(放映期間),『NARUTO疾風伝』,テレビ東京系列(放映局)

アニメ映画

庵野秀明(総監督・脚本),鶴巻和哉ほか(監督),2021,『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』,カラーほか(配給)

小説

梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(上)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(下)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 上』,朝日ソノラマ
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 下』,朝日ソノラマ
クラーク/著,池田真紀子/訳,2007,『幼年期の終わり』,光文社古典新訳文庫
三浦綾子,2005,『塩狩峠』,新潮社
アイザック・アシモフ/著,小尾芙佐/訳,2004,『われはロボット』,早川書房

参考文献

A・モミリアーノほか(著),桜井万里子ほか(訳),1987,『異端の精神史』,平凡社
大瀧啓裕,2000,『エヴァンゲリオンの夢 使徒進化論の幻影』,東京創元社
大貫隆,2014,『グノーシスの神話』,講談社学術文庫
大貫隆,2008,『グノーシス「妬み」の政治学』,岩波書店
藤巻一保,2009,『世界の天使と悪魔 図解雑学 絵と文章でわかりやすい!』,ナツメ社
林道義,1980,2007,『ユング 人と思想59』,清水書院
真野隆也,1995,『天使』,新紀元社
鈴木炎,2014,『エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計物理学』,講談社
杉本大一郎,1985,『エントロピー入門 地球・情報・社会への適用』,中公新書
兠木励悟,2012,『ヱヴァンゲリヲン研究序説:Q』,晋遊舎
高崎直道,1992,『唯識入門』,春秋社
中村圭志,2016,『教養としての仏教入門』,幻冬舎新書
デール・S/ライト/著,佐々木閑/監修,関根光宏/訳,杉田真/訳,2021,『エッセンシャル仏教』,みすず書房
中村元,2003,『現代語訳 大乗仏典1』,東京書籍
中村元,2003,『現代語訳 大乗仏典1』,東京書籍
金岡秀友/校註,2001,『般若心経』,講談社学術文庫
花岡幸子,2016,『経済用語図鑑』,WAVE図鑑
森瀬繚(編著),2019,『シナリオのためのSF事典 知っておきたい科学技術・宇宙・お約束120』,SBクリエイティブ
庵野秀明(監修),2022,『シン・ウルトラマン デザインワークス』,カラー


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