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『ウルトラマンネクサス』の情報公開から考察する、経済と「買い占め」の関係


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コロナウイルスに関する情報がありますが、根拠の資料は明示しておりますので、ご確認ください。

注意



これらの物語の重要な情報を明かします。特に『ウルトラマンネクサス』にご注意ください。

特撮テレビドラマ
『ウルトラマンネクサス』
『ウルトラマンオーブ』

漫画
『虚構推理』
『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』
『ウルトラマンネクサス』

小説
『虚構推理』

はじめに

 『ウルトラマンネクサス』と『資本論』などの経済の理論の関係を以前探りました。
 今回は、『ネクサス』の劇中の最後の場面から考察する、情報と経済の関係に、ある現実の問題を踏まえます。
 それは、「買い占めとスペースビーストの関係」です。

2022年8月27日閲覧

2022年8月27日閲覧

ビーストの正のフィードバック

 まず、『ネクサス』では、宇宙から来て人間を捕食して細胞から増殖する怪物「スペースビースト」との戦いが描かれます。
 防衛組織「TLT(ティルト)」のナイトレイダーは、存在すら隠し、過酷な戦いに挑み、ときに人質を切り捨てようとするなどの冷酷な部分があります。
 また、TLTは目撃者の記憶を封印して、ビーストに関する情報も徹底的に隠します。
 その独特の状況で、ウルトラマンではない主人公の孤門(こもん)は悩みます。
 目撃者の記憶が消されていたのは、ビーストへ抱く人間の恐怖が新しいビーストを出現させるエネルギー源になってしまうためだと終盤で判明しました。ビーストや目撃者がビーストを生み出す連鎖を防ぎたかったのです。
 最終回で世界中にビーストが現れたときに、組織の幹部でさえ「恐ろしい」と口にしており、その連鎖がさらなるビーストを生み出すのにも恐怖する連鎖すら起きたかもしれません。

人口や経済の格差とビースト

 私は経済学の理論から、人口の差異などによる経済格差がビーストに関わる、むしろその貧困による災いの象徴こそビーストだと推測しました。
 たとえば、TLTは「ポテンシャルバリア」という見えないエネルギーの壁を人口密集地に張り、ビーストの接近を防ぎ、少しでも犠牲者を防ごうとしていました。
 しかし逆に人口の少ない温泉街などを捨て石にするところもあり、人口の少ない場所は優先順位が下がるようでした。
 経済も踏まえた治安の理論に、「割れ窓理論」というのがあります。窓の割れたのを放置すると治安が悪くなり、「素行の良い」人間が寄り付かなくなることでさらに人目に付かなくなり治安が悪化し続ける連鎖があるそうです。
 実際に、ビーストに襲われる地域では、観光バスの運転の妨害、犬の遺棄、不法投棄、不注意な運転、落書きなどの不道徳な行いがみられました。それに、たいして悪いわけでもない子供や家族連れの人間が巻き込まれる部分もありますが。
 そのようにして、ビーストから守られる優先順位の低い地域は人口が少なく、さらにビーストに荒らされて治安が悪くなり、さらに人が寄り付かなくなる、あるいは素行の悪い人間ばかり集まることでさらに優先順位が下がる可能性があります。

他の物語や現実の例

2022年8月27日閲覧

 この、山から転げ落ちるような正のフィードバックの中で、似ていると私が判断した例は、『虚構推理』、現実の昭和金融恐慌、そしてコロナウイルス対策のマスクなどの買い占めです。
 『虚構推理』では、人間の「こんな存在がいるかもしれない」という想像を吸収して増強される「想像力の怪物」鋼人七瀬が暴れ、そのうわさがインターネットで広まることでさらに凶暴化していました。正のフィードバックがあります。
 ビーストに似ていますが、さらにネットの使用者が、被害が出てもその怪物を面白がる残忍さを見せて、「嘘を楽しむ大衆に真実を知る資格はない」というような扱いになり、事実をある程度知る主人公による嘘のうわさにより沈静化させました。つまり『虚構推理』は、「『ネクサス』の最後までビーストの正体が明かされなかった世界」とも言えます。
 私が経済とビーストを結び付けて考えるきっかけの昭和金融恐慌は、ある企業の経営危機が来ると大臣が話しただけで、信用が落ちて株価に影響した正のフィードバックがあります。
 金と紙幣を交換した時代は、紙幣を印刷し過ぎるだけで、信用がなくなり、周りが紙幣を金に交換するとさらに不安をあおり金が不足する事態になったそうです。
 さらに、コロナウイルスのマスクや石油危機の紙製品のように、「これが不足する」と大勢が不安に思い買い占めるだけで、「本当に不足するかもしれない」と買い占めが連鎖する正のフィードバックがあります。
 これらは、根拠のない不安が本当に実現してしまう意味で、「ビーストへの恐怖」が本物のビーストを生み出すのに似ています。
 スピーカーとマイクを近くに置くと、ささいな雑音を拾って増幅するのを繰り返すハウリングのようなものでしょうか。

買い占めの対策

 この対策として、たとえば台湾では、『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』,『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』によりますと、IT技術により、どこにマスクがあるか、順番に並べば買えるかの情報を与えることにより、不安を解消してマスク不足を解決したようです。今後も続くかは私には分かりませんが。
 昭和金融恐慌でも、高橋是清が、紙幣がなくなるかもしれないという不安を解消するために、片面のみの紙幣を大量に印刷して銀行の店頭に並べる「ハッタリ」とも言える手段で解決しました。
 『ネクサス』も、情報を正しく広めたい記者の根来や、温泉街でのカメラマンとしての仕事に苛立ちながらもビーストを撮影する勇敢さを持った保呂草などが、ビーストへの恐怖に立ち向かったとも言えます。
 そして、漫画版では人間の記憶が解放されたときに、ウルトラマンを信じる一般人を見たTLTの人間が、「人の心は、私達が思っていたより強い」と態度を改めました。
 ウルトラマンへの信頼、あるいはビーストを知ることを恐れない、自分だけの利益を求めずに団結することが、ビーストへの恐怖の連鎖を打ち消したようです。
 

対策の難しさ


 しかし、これが難しいのも否めません。
 『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』では、資本主義による自由市場で買い占めなどが起きるのを「一人一人のモラル」で解決するという方針に、「無理」、「理想過ぎる」という否定が入ったあとに、上述の台湾の例を出しています。
 『ウルトラマンオーブ』では、自分の予知が周りを不幸にして避けられないと嘆くハルカが、怪獣の出現で対策をあきらめそうになったときに、ウルトラマンオーブ=ガイは、「君のその負の感情があの怪獣のエネルギー源になっている」と指摘して励まそうとしました。しかし、ガイはそうでない怪獣(あるいは魔王獣)もいることなどの説明が少なく、彼女はネットで「あなたが予言したから怪獣が出るのではないか」と言われてもいましたから、その「励まし」はかえって傷を深くする危険もあります。
 買い占めも被害者が不安になれば次の加害者としての行動に繋がるのでしょうが、それを指摘されても困ると大抵の人間は思うでしょう。
 『ネクサス』最終回で世界中にビーストが現れて組織の幹部が「恐ろしい」と認めたのも、「あなたのその恐怖もビーストのエネルギーになってしまいます。だからあなたも情報を隠蔽していたのでしょう。今は気を強く持って恐怖に勝つべきです」というのを、果たして部下が言えるかは悩ましいところです。

まとめ

 買い占めは、不安と自分や身内のためだけの行動がさらなる不安を呼ぶ正のフィードバックにより、経済を不安定にする可能性があり、その象徴がスペースビーストや想像力の怪物だと推測しました。これに正しい情報で挑むことが重要だというのが私の意見です。


参考にした物語

 

小中和哉ほか(監督),長谷川圭一ほか(脚本),2004 -2005,『ウルトラマンネクサス』,TBS系列(放映局)
田口清隆ほか(監督),中野貴雄ほか(脚本) ,2016 (放映期間),『ウルトラマンオーブ』,テレビ東京系列(放映局)

漫画

城平京(原作),片瀬茶柴(漫画),2015-(未完),『虚構推理』,講談社
椎名高志,2015,『てれびくんスーパーヒーローコミックス ウルトラマンネクサス 少年サンデーコミックス スペシャル』,小学館
井上純一(著),アル・シャード(監修),2021,『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』,KADOKAWA

小説

城平京,2015,『虚構推理』,講談社文庫

参考文献

高橋亀吉,森垣淑(著),1993,『昭和金融恐慌史』,講談社
近藤弥生子,2021,『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』,ブックマン社
野嶋剛,2021,『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』,扶桑社
池上彰,2009,『高校生から分かる「資本論」』,ホーム社
池上彰,佐藤優,2015,b,『希望の資本論 私たちは資本主義の限界にどう向き合うか』,朝日新聞出版
カール・マルクス(著),今村仁司ほか(訳),2005,『資本論 第1巻 上』,筑摩書房
カール・マルクス(著),今村仁司ほか(訳),2005,『資本論 第1巻 下』,筑摩書房
斎藤幸平,2020,『人新世の「資本論」』,集英社新書
斎藤幸平,2021,『NHK 100分de名著 カール・マルクス『資本論』』,NHK出版
佐藤優,2014,『いま生きる「資本論」』,新潮社
細江達郎,2012,『知っておきたい最新犯罪心理学』,ナツメ社,p.148
的場昭弘,2008,『超訳 『資本論』』,祥伝社
マルクス(著),エンゲルス(編),向坂逸郎(訳),1969,『資本論 1』,岩波文庫
マルクス(著),エンゲルス(編),向坂逸郎(訳),1969,『資本論 2』,岩波文庫

 
 

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