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現役外科医が考える医者の過労死。労働時間?もっとつらい事いっぱいあるよ。

悲惨なニュースです。やるせないです。

26歳専攻医が過労自殺、労災認定…3か月休日なし・時間外は月207時間(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース

賛否ある話題かと思いますが、医師の過労死について考察します。

この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

過労死過労死等防止対策推進法第2条

らしいです。

結論から言うと、
昨今、過労で死に至ってしまうのは、うつ病を始めとする精神障害が多く、その理由として私は、法外な労働時間よりもむしろ、やりがい搾取と言われる体制、システムの方に問題があると思います。

自己の経験と共に、これを説明していこうと思います。

・私の3年目



私は、初期研修を終えた後、とある病院の外科系診療科に籍を置きました。まぁブラックでした。家に帰れるのは週に2日あるかどうか。常に院内PHS、携帯院外callに怯える日々。

じゃあ、俺忙しかったの?

否!

仕事を出来るようになるのに必死だった。まだ執刀医ではなかった。ルーチンの指示や、上司に『〇〇しておいて』と言われたことを、必死にやってただけだった。病棟の回し方なんて、手取り足取り教えてもらえるものじゃない。その場で見て学ぶしかなかった。そう、その場…病院にいるしか、ICUや救急にいるしかなかった。24時間の現場で24時間張り付くしかなかった。一番下っ端だからcallは俺に来る。それを一つ一つ嫌な顔をされながら上司に確認して、指示を出す。間に挟まれるだけ。

そんな私の唯一の楽しみは、非常勤の外勤の当直だった。土曜日の業務終了後に、車で1時間ほどの病院へ行き、月曜日の朝までそこで過ごす。そこでの患者対応や、数人のwalk in患者の外来対応はあるけれど、常勤として勤めていた病院からの呼び出しはない。PHSの音を聞かなくて済む。それだけで天国だった。

労働時間について、タイムカードなんてものはなかった。けれども常勤病院では、どう計算しても週120時間程度は病院にいた。当然、休日なんてない。というか、下っ端だから、主に暦上の休祝日に当直が当てられる。仮に当直がなくても、当たり前に病院に行き、雑用をこなす。張り付いていたから、中心静脈カテーテル入れさせてくれる。『お、いたのか、じゃあ最初やってみ。』下手な分にはサポートしてくれる。不勉強だと、次の機会は貰えない。

そんな、常勤病院からの給料は月に5000円~50000円の間だった。
桁は間違えていない、5千円から5万円の間。
毎日9時-17時で帰っていることになっていた。残業などつかない。当直代は、外勤の相場の1/10以下だった。雑用ばかりで、お金を稼ぐ“医療”をしている自信はなかった。文句など……言えるはずもなかった…

時給10円~100円 …

で、外勤で15万円ほど頂き、生活をしていた。

今、思い返してみると、よく耐えたと思う。なぜ耐えられたか。
それは4年目から、他の病院に移ることが予め決まっていたから。
もしも、それがなく、その生活が永続的に続くような状況、環境だとしたら…

まず、生活できない。結婚なんて夢の夢。1人前になれるの?
親に高い養育費をかけてもらって、俺は何をしているんだろう。
親への申し訳なさ、将来の不安で、ICUの裏のトイレの個室で泣いていた。

・私の4年目


4年目から、地方の中核の総合病院へ赴任になった。
3年目にいた病院の診療科に比して、4年目に赴任した病院の外科系診療科は規模が大きく、学年の近い仲間がいた。

そこでも、月月火水木金金は変わらなかったが、“担当医制”で自分が主担当医として、病棟を回させてもらえた。勿論、判断に悩む時は先輩や仲間と相談して、逆に仲間が困っていたら、一緒に悩んで…。

状況によっては予定外に病院に泊まらざる得ないこともあったが、自分の患者のことだと、『何とかしなければ!』となり、精神で肉体を凌駕することができた。

労働時間で行ったら、残業で100時間を割る月は殆どなかった。けれども、めちゃくちゃ楽しかった。そこでの仲間は今でも連絡を取っている。

給料も、基本給だけで、前年を超えた。その上に、時間外まで付き、大台に達した。

・労働時間は両方とも…

いずれも、労働時間で言ったら、過労死ラインは超えている。
実際に3年目の時は、もう辞めよう…何度も思った。けれども4年目の時は、ここに骨を埋める事も考えた。

何が違うか?

まず“やりがい”、これは間違いなくある。担当医制になり、自分の患者を持つことで、その責任を全うする医師としての醍醐味は強く感じた。

そして、“仲間”。身体的には辛くても、一緒に研鑽を積む仲間がいたことも大きかった。

そして、“お金”。貰うものを貰い、その責任とモチベーションになったのは間違いなかった。

3年目まで持っていなかったテレビを買った。それも大きいやつ。今まで実家から持ってきた布団だったけど、ベッドも買った。しかもセミダブル。車のエンジンオイルも化学合成油になった。

自分で選んで、自分の生活を自由に組み立てていけるのが楽しかった。それだけの経済力を持たせてくれた。自立している感じがした。だから頑張れた。

・過労“死”の原因

過労死の事例を調べてみると、うつ病発症からの自殺の多さが目に付く。単純な労働時間で算出される身体的な負担というのも無視できない要素であるが、それ以上に、精神的負担の要素が大きいことが想定される。

では、精神的な負担とは…?

責任、将来への不安、人間関係、各ハラスメント…そう言ったものが考えられる。

個人的には、そういった精神的な負担を軽減すべく働きかけるのが、本来最初にすべき働き方改革だと思う。

では、2024年に厚生労働省が行う働き方改革はどうか…


・厚生労働省. 医師の働き方改革.  https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001129457.pdf (参照 2023-08-17)

結局は、労働時間・労働軽減と、身体的負担にのみfocusが当たっている。それももちろん大切なことだが、労働量は“患者数”と“重症度”に比例する。
働き方改革で患者数が減るのでしょうか?重症度が減るのでしょうか?

そんなわけない。

労働上限時間が過ぎていても、患者は来る。電話は鳴る。
2024年以降は、それらは、サービス残業になる。今まで申請できた残業も、申請できなくなる。
現在でも、雑用係と言われる下っ端、私が3年目の頃に経験した状態の医師は多くいる。多くの専攻医が不安を感じながら、がんばっている。

結局、働き方改革において、最もケアすべき部分は、身体的労働量よりも、精神的不安なんです。

若手のうちは、その日その日の生活への不安、将来一人前になれるかの不安…
中堅になると、患者そのものの命を預かる責任に対する不安…
上級医になると、患者そのものから、その地域の自身の分野の砦になる責任に対する不安…
管理職になると、従業員を生活させていく責任に対する不安…

キャリアに応じて感じる不安は変化していきます。
そして、2024年には、働いたにも関わらず、賃金が減っていく不安が増えていく。
自分が我慢するならいいのですが、家族への負担を増してしまったり、家族が今までの生活が送れなくなるという、かなりつらい不安がある。

・本当に実効果のある働き方改革

働き方改革の第一歩目は、3年目から5年目あたりの、若手に国が補助を出して、安心して学ぶ環境を作ることじゃないかな。そして、患者に責任をとれる世代には、しっかりとその責任に応じた給料を出すことが、働き方改革だと思う。

その上で、時間が欲しいなら、労働時間をセーブすればよいし、私の様に鬼嫁様からケツをひっぱたかれている人間は、存分に働けばよい。

じゃあ、なぜこんな改革を??

恐らく厚生労働省の最終的な目的は医療費の削減なのでしょう。

そのために、今から病院人件費を減らせるような政策を作り上げ、さらに段階的に医療費を削減していくことを見据えているのだと思います。

ちなみに私は、現在の職場、上司には非常に満足しております。職場環境や人間環境で、精神的な負担で倒れることはありません。しかしながら、労働時間は、やはり過労死ラインは超えています。
家族には、もし私が過労死をしたならば、それは身体的な負担ではなく、精神的な負担が原因で、国の働き方改革によって、将来この職で、家族を食べさせていけるかどうかの不安と、来てしまった患者は対応せざる得ないサービス残業増加による“やるせなさ”なので、勤務先の病院ではなく、国と厚生労働省と労働基準監督署を訴えてくれと言ってます。

『私なら、助けられます。けれども、今月は私はもう、労働上限時間を過ぎているので……申し訳ありません…』

許せますか?

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