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デザインされていったのは、私たち自身だった

ここまでデザイナー高橋さんとメッシュワーク水上さんともに描いてきたメッシュワークのロゴ制作プロセス。今回のような実験的な試みが、私たちにもたらした気づきとはなんだったのか。
比嘉がふりかえり、この一連の書簡を終えたいと思います。

往復書簡の第1回では、メッシュワークのロゴ制作をデザイナーの高橋さんと「ともに」行っていきたいという当初の意図を、私は語っていました。

クライアントがデザイナーに発注し、デザイナーがそれを受注し、理想的なロゴを完成させる。もちろんそうした基本構造から完全には逃れられないものの、とはいえここでは両者の関係性をどこまで「メッシュワーク的に」揺るがすことができるのかがひとつの焦点でもありました。

私たちのロゴを生みだすという貴重な機会なのですから、ここではメッシュワークらしさと高橋さんらしさを双方向的に浮かびあがらせ、得られたイメージをひとつの形に落としこんでいきたい。少なくとも私は、そのように考えていました。

その目的は実際に、いや期待していた以上に、達成されたのだと思います。水上さんがビビッドな筆致でフィールドワークの様子を描いてくれたように、私たち3人は文字どおり、あてどない旅に出て、見知らぬ町を歩き回り、みずからの身体をもって周囲の環境を捉えようとしました。旅を経て互いのものの見方の特徴をいくぶん理解できた後には、幾度となくディスカッションを行いました。

私たちのああでもないこうでもないという紆余曲折の相談にも、高橋さんは丁寧に耳を傾け、一緒になって考えてくれました。結果としてロゴのプロトタイプは何パターンにもおよび、その提案もまた何度も変更、修正されていきました。

一定の期間と粘り強さを要したこのプロセスをくぐり抜けたことで、「私たちメッシュワークが社会をどのように捉え、何を実現しようとしているのか」「これから人びととどのように出会い、関係を築いていきたいのか」といった内なるフィロソフィーを私たち自身が徐々に言語化できるようになり、そのメッセージは高橋さんの解釈や意味づけを経て、ユニークな形でビジュアライズされていきました。

そこに「私たちは周囲からどのように理解してもらいたいのか」という視点が重ねあわせられ、メッシュワークのロゴはようやく完成形へと至ったのでした。

こうしてできあがったロゴを、私自身とても愛おしく思っています。その非線形なフォルムは見たことのない生きもののようであり、不思議なオブジェのようでもある。おそらくこれは見る人によってまったく異なる印象を抱くのではないでしょうか。

そして高橋さんがあえて、自分の手と日光とを用いた手法(サイアノタイプ)を採用してくれたことで、そこに有機的かつ不均質なグラデーションが生まれ、メッシュワークのロゴは唯一無二のものとなりました。まさに私たち自身、既存の型に縛られることなく、常に変化を恐れない存在でありたい。

そして自らをひとつの形に定義してしまうのではなく、周囲に対して柔軟に呼応し、さまざまな人びとの解釈に開かれた存在でありたい。こうした数々の想いが、結果としてこのロゴのなかに、適切に込められていったのだと思います。

しかし実はそれだけではなかったのかもしれない。前回までの往復書簡を読みなおし、改めてこのロゴを見つめなおしたとき、私はふとそう思ったのです。たしかに私たちはともに「ロゴをデザインして」きました。

けれどもそれと同時に、今回このロゴのデザインという試みに導かれるようにして、旅し、思考し、言語化し、対話し...と、さまざまな行為を積み重ねるなかで、私たち自身も少しずつ変化していきました。そういった意味ではむしろ、「私たちがデザインされていった」とも言えるかもしれない、と。

前回の記事で高橋さんは、ここではデザイナーである自分が人類学者と同じ歩みを経験していた、と書いてくれていました。それはまさに、デザインを発注する側(人類学者)と発注される側(デザイナー)との主客の関係がゆらぎ、ともに旅するようなプロセスが生じていたことを意味しています。

しかし、主客のゆらぎが生じたのはそこだけではなかったのではないでしょうか。ロゴをデザインするという営みのなかで、私たちもまた変化することを促された、つまりデザインされていった。人類学者とデザイナーの関係だけではなく、ヒト(人類学者+デザイナー)とモノ(ロゴ)のあいだにもまた、とても興味深い相互作用が生じていたのではないかと、そんなふうに感じたのです。

デザインされていったのは、私たち自身だった。

メッシュワークのロゴが生まれるまでの長い旅は、思いもよらない気づきへと、私たちを連れてきてくれたのでした。


メッシュワークのロゴデザイン連載一覧

第1回(メッシュワーク・比嘉)

第2回(デザイナー・高橋)

第3、4回(メッシュワーク・水上)

第5回(デザイナー・高橋)


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