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風をあつめて

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小さな小さなメルヘン集 風をあつめて 目次 1、くものバス停 2、花てまり 3、月見草のおもいで 4、よもぎが原の魔女 5、さよならのわすれもの 6、ぼくをうたないで 7… もっと読む
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記事一覧

サンタさんの手

サンタさんの手

 クリスマスイブの日、アルプスのモンブランに登った村田さんのおみやげ話です。

 村田さんが、モンブランの頂上にたどりついたとき、そこには一足先に、お客さまがいました。登山者にしては、へんなかっこうだなとサンタクロースのようなふくをきたおじいさんをみたそうです。赤いビロードのふくが雪山にはえてきれいでした。
 村田さんにきがついたおじいさんは、
「まっておったところじゃった。さっ、たすけてもらおう

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おぼうさんは、伝染病

おぼうさんは、伝染病

 みさとの家は、大家族です。
 おじいちゃんにおばあちゃん、おとうさんにおかあさん、それに三人のにいさんと、犬のポーがいます。
 八月のお盆がちかづくと、みさとの三人のにいさんは、むずがゆいような顔をします。それをみると、みさとまで なんだか おへそのあたりがかゆくなってきます。
 十三日の朝になりました。おかあさんは、みさとと、三人のにいさんをあつめると、
「あんたたち、けんは、中学生、ひろは、

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五郎さんの夢

五郎さんの夢

「五郎さん、このごろげんきがないがどうした?さては、恋人にでもふられたかい?」
「ちえっ、そんなんじやないよ」
 五郎さんと、トメさんは、長距離トラックのあいぼうです。
 運転手のトメさんは、助手の五郎さんのおやじといっていいくらいに 年がちがいます。でも、会社でも、このふたりのように なかのよいコンビは、めったにいません。北海道から九州まで、ふたりきりの旅をすることもあります。どちらかが元気がな

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小夜の雨

小夜の雨

 雨がふってきた。
 小夜の目から しおからい雨がふってきた。
 それでなくても、まいにち 雨ばかりでうっとうしいのに、おまえまで なくんじゃないよと、かあちゃんはいうけれど、いちどふりはじめた雨はそんなにかんたんに やみはしない。
 なにもかも、弟の健がわるいのだ。あの子があんなところで「オシッコ」と、なかなければ、いまごろ小夜は、プーさんをだいていられたのだ。
 さっき、小夜は、とうちゃんとか

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さびしがりやのスベリダイ

さびしがりやのスベリダイ

 小高い丘にある公園に、さびしがりやのスベリダイがいました。 公園には、ヒメジオンの花がさきみだれていました。小さな子どもなら、あたまのさきまで かくれてしまうほど……。
 そのせいでしょうか、団地のちかくだというのに めったに子どもたちはあそびにきてくれません。

 ためいきばかりついていたスベリダイが、いつのころからか たのしそうに わらいごえをあげるようになりました。
 そのことにきがついた

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もうすぐクリスマス

もうすぐクリスマス

「ネコ、もうすぐクリスマスだね」
  けいくんは、ねこのネコにいいました。
 ネコは、おこたのよこで のんびり 毛づくろいをしながら、
「クリスマスって、なんですか?」とききました。
「えっネコ、クリスマスだよ。ほら、ツリーをたててケーキをたべてさ、サンタさんがプレゼントをもってきてくれるじゃない」
 けいくんは、ネコがあまりにも ものをしらないことに、かおをあかくしていいました。そして、ここに 

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今年のかぜは、耳鼻科へどうぞ

今年のかぜは、耳鼻科へどうぞ

 みなさん、にいたかナシをしっていますか?
 そう、茶色いかわの大きな大きなナシ、とても、あまくておいしいナシですね。あの大きなナシをひとくちで食べた女の人がいるっていっても、しんじてはもらえないかもしれませんね。
 これは、その女の人のお話です。

 サコちゃんは、高知の町でブテックをひらいています。
 とても元気ではたらきもののサコちゃんが、どうしたことでしょう。かぜをひいてしまいました。
 

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雪がふったら…

雪がふったら…

「ちさとちゃん、この雪のなかをそんなに走ってどこにいくの?」
「駅!とうちゃんがかえってくるの」
「そりゃあ よかったねぇ」
 やおやのおばさんのこえが、ちさとのせなかをクイッと、おします。
 ばあちゃんとふたりぐらしのさびしさを ちさとがいっしょうけんめいにがまんしていることを、やおやのおばさんは、よくしつているのです。
 この冬はじめての雪は、大みそかのよるからふりはじめ、お正月をしろ一色でむ

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ライオン丸

ライオン丸

 ちさとは、かずみちゃんの家の前をとおるとき、かならず いきをとめる。
 かずみちゃんの家は、大きい。それなのに門がない。だから、ひろいおにわがまるみえだ。むこうがみえるということは、あのライオンのような犬からも、こっちがみえるということなのだ。
 あのライオン丸(と、ちさとは、かってになまえをつけていた。あの犬に、五郎なんていうなまえは、にあわない)、あれさえいなければ……と、ちさとは、かずみち

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ひがんばながさいた

ひがんばながさいた

 「さとこー」
 おばあちゃんがよんでいます。庭でおしろい花のくびかざりをつくっていた さとこは、いそいで おばあちゃんのへやにいきました。
 今年 九十才になるおばあちゃんは、もう何年も、ねたきりです。
「なあに、おばあちゃん」
 さとこはがたずねると、おばあちゃんは、
「ひがんばながさいたか、みてきておくれ」
と、いいました。
 すずしくなったとはいっても、まだ ひがんばながさくにははやすぎま

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月夜の草原

月夜の草原

 私の家のちかくには、草原があります。
 もともと山をけずつてたてられた団地なので、一歩外にでると、秋には いちめんのススキ野原がひろがります。都会でそだった私には、そんなけしきがめずらしく、一日一度は、散歩せずにはいられません。
 そんなある日、
「なんなの?これは」
私はおもわずさけんでしまいました。銀色にゆれるすすきのあいだに、さびついたセンタクキから、ステンレスのおふろ、タワシから こわれ

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いつか 大空へ

 四年生の教室で、ひとりの少年をかこんで七、八人の男の子たちが、くちぐちにさけんでいました。
 女の子のしらせで、先生がとんできました。
「どうしたの?」
 先生のしつもんに、少年は、こたえようとはしません。かわりに、
「じゆんが、空をとびたいなんていうんです」
 少年をとりかこんだ男の子のなかで、いちばん大きな子がいいました。
 先生は、なんだそんなことなのという顔で
「どうして それがおかしい

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ぼくをうたないで

ぼくをうたないで

 小さな国のおはなしです。
 

 森のはずれに、ロコという少年がすんでいました。
 ロコのとうさんは、狩り人。けものうちの名人です。
 ある日、とうさんが大ケガをしました。足をすべらせて、ガケからおちたのです。ロコは、うごけなくなったとうさんのかわりに、てっぽうをかついで森にはいりました。
 しんぱいするかあさんに、「ロコだって、ウサギぐらいならやれるさ」と、とうさんはわらぃました。
 ロコは、

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さよならのわすれもの

 その日はじめて ケンは、その子にあいました。
 花屋さんのみせさきで、はなたばをかかえたまま ころんだ少女をたすけたのです。
 少女のまわりに、パッとコスモスの花がちりました。あわててひろおうとすればするほど、花びらはちっていきます。
 だまってひろってやったケンに、少女は、
「あした、かあさんのたんじょうびなの。三百円でこんなにいっぱい もらえたのよ。でも、花びらがこぼれちゃった……」
 少女

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