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月夜の草原

 私の家のちかくには、草原があります。
 もともと山をけずつてたてられた団地なので、一歩外にでると、秋には いちめんのススキ野原がひろがります。都会でそだった私には、そんなけしきがめずらしく、一日一度は、散歩せずにはいられません。
 そんなある日、
「なんなの?これは」
私はおもわずさけんでしまいました。銀色にゆれるすすきのあいだに、さびついたセンタクキから、ステンレスのおふろ、タワシから こわれたサンリンシャまでがすててあるのです。
 車ではこんできて、ポイッとすてたのでしょう。これまでも、タバコやジュースのあきかんなどがすてられていたことはありました。でも、これは ひどすぎます。
 私はまいにち すこしずつ、かたずけました。でも、ひとりでは、おふろやセンタクキまでせおってかえるわけにはいきません。
 ガラクタのころがっているススキ野原をみるのがつらくて、しばらくいくことはやめていました。でも、どこまでも青空のひろがる草原にいかないでいることは、私にとってはむずかしいことでした。

 いやがる兄さんにたのんで、小型トラックでガラクタをはこんでもらうやくそくをした日、私は、ひさしぶりに 草原にむかいました。
 すると、どうでしょう。いつもは、私の顔をみるだけでにげだす子リスが、私のまえにたって この二つのものは、このままにしておいてくれと、人間の私にわかることばでいったのです。
「なぜなの?こんなうつくしい場所に こんなガラクタは、にあわないわ」 くびをかしげた私に子リスは、「雨あがりの月夜の晩にくるように」と、リンとした声でいいました。


 雨あがりの月夜の晩。
 草原のいりぐちには、「入場無料、プールびらき」の小さな小さなかんばんがたてられていました。
 そうーっと、のぞいた私の目に、月の光をあびながら はしゃいでいる動物たちのすがたがみえました。小鳥がいます。リスがいます。あそこで、じゅんばんをまたずに わりこもうとして カラスにあたまをつつかれているのは、キツネではありませんか。どこにこれほどの動物がいたのか、しんじられないほどのかずなのです。 昨日いちにち ふりつづいた雨は、おふろにも、センタクキのなかにも、いっぱいあふれていました。
 いきをつめてみまもる私のまえで、かれらは、まず こわれたセンタクキのなかでよごれたからだをあらうと、つぎつぎにおふろのプールのなかにとびこんでいきます。


 雨あがりの月夜の晩。
 こっそりいってごらんなさい。フールびらきのカンバンがでているはずですから……。

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